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性懲りのない合同労組 (1)

コラム『あまのじゃく』1962/11/14 発行
文化新聞  No. 4370


有名無実の飯能地区労

    主幹 吉 田 金 八
 飯能地区合同労組と称するものが、またしても本社に噛み付いてきた。
 昨年夏から本年夏にかけて本社に不当労働行為ありとして埼玉県地労委に救済を申し立てたところが、合同労組の敗訴に終わり、これを不服として労働問題の最高裁、 例の炭労争議で有名になった中央労働委員会、略して中労委に再審申し立てを行った。
 しかし、これも総評の弁護士3名を頼んで法庭の砂利を掴んでみたが、火のないところに煙は立たぬ、根も葉もない不当労働行為は、柄のない柄杓にに柄を付けるようなもので、事実を証明する根拠なしとして、これ、また棄却(組合側の敗訴)となってしまった。
 性懲りもない彼らは、今度は攻め手を変えて、その当時の本紙の報道が「組合の社会的信用を失墜し、組合の組織運営に支配介入した、とこじつけてその救済を申し立てた。
 彼らの申し立てた新聞報道による組合の実害として、『市内の経営者は合同労組に対してあらぬ批判を加えたり、組合を結成しようとする労働者が合同労組に対する誤った見解を持つようになり、合同労組に加入することを躊躇するようになった。また、市内の労働者が私たちのところに相談に来るのがめっきり減った』と泣き言を言っている。
 この申し立てに対する地労委の調査が、先月30日と今月12日に行われ、本社では言論の自由を守るためには、この申し立てを完膚なきまでに粉砕せねばならないとの決意のもとに、次の通り第1回反論を行って対抗した。       
      〇        〇        〇
 新聞の報道の自由は、活字と紙によらない他の自由と共に憲法で保障されている日本国民の最大の権利である。
 新聞はあらゆる社会事象について自由な論評を行い、報道記事として事実を事実通り伝える所に使命があり、社会もこれを要求する。しかし、報道にしろ言論にしろ、自由の限界がない訳ではなく、法律による制約もあれば個人の名誉、財産等に対する権利の侵害については民法その他の法律で守られており、侵害者がその責めを負わなければならぬ事は勿論である。
 たまたま被申立人と申立人等の間に起こった労使間の紛争事件は地方とすれば特異な事件であり、社会も注目し、事件の経過と結末を知りたがっていたが、審理過程においては論評が審理の結果に影響してはとの配慮と、現在ではほとんど野放しになっているが、公判中は裁判事件の論評を差し控えるという編集者の常識から審理の段落を待って委曲を真理終結後に紙面に展開したまでである。
 本件、申立人が証拠として提出した新聞切抜きは正しく当時の文化新聞の記事であり、その報道記事は一点の嘘偽りのない事実を内容とし、『あまのじゃく』等の随筆は、この事件についての当事者であり、編集者である社長の偽らぬ心境表明であり、対象は常に読者、社会に置いたことはこれらを通読すれば明瞭である。
 文化新聞社はこの地方の労働組合関係の唯一無二の印刷所で、飯能地区労の機関紙も創刊以来印刷しており、活版で機関紙が出せる規模の労働組合はほとんどがお得意である。だから労働組合の実力真価は十分わかっており、荒木君が専従になった後の飯能地区労、従って合同労組なるものは有名無実、かつては年に5、6回出していた機関紙がこのところ2年も出ないことで証明される通り、風船や空スローガンで祭典化したメーデーが唯一の仕事で、組織労働者2千名を呼号しながら、かつては5,6名いた飯能市議会の革新議席は現在荒木君ただ一人という状態にある。
 こんな無統制、無気力な地区労、荒木君が一人で適当にやって、多数の組織労働者はソッポを向いている実態を知っていればこその【飯能地区労に挑戦する】の自信に満ちた論評が出来ると言うものである。
 その実際は、文化新聞は飯能地方のどの労働組合とも友好的であり、地区労の太宗をなし、これが参加しなければメーデーにならぬと言われる組合員千二百名の新電元労組は毎月変わりなく機関紙の印刷を任せており、申立人の供述にある市原ポンプ産業労働労組すら第1回組合大会の議案を注文したが、納期に自信がないので謝る代わりに、期日を急ぐ関係で、新聞社の自動車で労組の委員長と原稿を東京まで送ったのも、つい先々月である。
  (続く) 


 コラム『あまのじゃく』は、埼玉県西武地方の日刊ローカル紙「文化新聞」に掲載された評判の風刺評論です。歯に衣着せぬ論評は大戦後の困窮にあえぐ読者の留飲を下げ、喝采を浴びました。70年後の現代社会にも、少しも色褪せず通用する評論だと信じます。
 このエッセイは発行当時の社会情勢を反映したものです。内容・表現において、現在とは相容れない物もありますが、著作者の意思を尊重して原文のまま掲載いたします】

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