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踊る糸ヘン

コラム『あまのじゃく』1951/5/30 発行 
文化新聞  No. 117


繊維品の値下がりに泣く業者

    主幹 吉 田 金 八

 糸ヘンの値下がりで業者の損失は莫大であると言う。
 朝鮮動乱のシリ馬に乗って「他人の怪我は痛くない、儲けるのはこの時」とばかり両手いっぱいに抱え込んだ原料製品が、輸出は思うようにまかせず、内需は購買力がないために、品物がはけない所へ持ってきて、原綿は大量に放出され生糸は高すぎてアメリカが買わないと言う、原糸の値下がりで先安見込みとなるや、問屋は手形の決済に追われて投げ始めた。
 こうなると、消費者も先に行くほど安く買えると思うから、さらに値下がりに拍車がかかる。
 土台、繊維品の戦前との値上がり率は、他商品に比べて特に高い。ここで値が下がったといっても、まだ戦前の600倍(綿布)で労働賃金の150倍、タバコの200倍、ガソリンの300倍、米が公定で100倍、闇で200倍と見てもまだまだ割高である。
 講和条約でも成立すれば外国との物資の交流がさらにスムーズとなり、勢い国際物価にサヤよせせざるを得ないとするならば、繊維品、特に綿布は一段も二段も安くなる見通しも立つ。
 自由国家群、特にその指導者たるアメリカは、戦時体制に切り替えたとは言うものの日本のようにギリギリいっぱい、その日暮らしと違うから、相当の余力を持って平和生産を変更することであるから、共産国家群への輸出禁止が拡大されればされるほど、日本のようなアメリカにおんぶしている国への商略的放出が増大する公算も充分である。
 現に大豆、原綿、ガソリン等は朝鮮事変後の出廻りが目立って豊富になっている。
 狭い、貧乏な日本のミミッチイやり繰りソロバンでは世界情勢は割り出せない。


 コラム『あまのじゃく』は、埼玉県西武地方の日刊ローカル紙「文化新聞」に掲載された評判の風刺評論です。歯に衣着せぬ論評は大戦後の困窮にあえぐ読者の留飲を下げ、喝采を浴びました。70年後の現代社会にも、少しも色褪せず通用する評論だと信じます。
【このエッセイは発行当時の社会情勢を反映したものです。内容・表現において、現在とは相容れない物もありますが、著作者の意思を尊重して原文のまま掲載いたします。】

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