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悪路が嫌なら、 転出せよ!

コラム『あまのじゃく』1956/10/8 発行
文化新聞  No. 2415


どうにかならないか⁈ 道路事情! 

    主幹 吉 田 金 八

 ある町の町会議員が『道普請に出るのが嫌なら東京都に転出すべきだ』と放言した。
 全くこの町議に言われなくとも、東京都に逃げ出したい位である。
 記者の乗っているダットサンは36年型で、20年近い老齢車だが、ハンドル周りにもエンジンにもいささかの欠点がない。これを買った当時は、大得意で信州、甲州を一周するほどの大気に入りであった。町村の合併問題では、この老齢車もずいぶんと大活躍をして、各町村の指導者層の目を聳たせたものである。
 ところが町村合併で社業が一段と進展した本紙は、記者の活動範囲もぐんと拡張され、一日に乗り回す地域は相当のものとなった。
 しかもその地域はいずれも悪道路で繋がっているため、午前中に幾つもの町村を掛け持ちで取材しようという時など、頭を天井に打ち付けたり、体をよじくらせるようにして、走り回ることのなんと歯がゆい事か。
 特に記者のように他の新聞記者の2倍も3倍もの量の仕事をしなければ、途端に読者からお小言を食う様な、言い換えれば体を張って新聞を持たせている様な立場の者は、この悪路を克服し、凸凹を飛び越えて疾駆する自動車の必要が痛感させられる。
 それには自由に良いとこだけを拾って走れるオートバイか、悪路を何ともしない優秀な大型四輪車かということになる。
 オートバイはすでに記者の年配では相当体に応えるのと、雨の時はダメだという難点がある。大型自動車は税金が高いことや、自由な操作が困難。車の維持や置き場所、エンジンがかからないから、『ちょっと押して』貰うという訳にもいかない欠点がある。
 何としても、長短いずれを勘案して取り立てるほど、金も出さず、さらに能率を上げられるよう考えればならないと思っている。
 それにしても『「おてんま」が嫌なら東京都に行け』という某町議の言葉は誠に非情だが、適切と言わなければならない。 


 コラム『あまのじゃく』は、埼玉県西武地方の日刊ローカル紙「文化新聞」に掲載された評判の風刺評論です。歯に衣着せぬ論評は大戦後の困窮にあえぐ読者の留飲を下げ、喝采を浴びました。70年後の現代社会にも、少しも色褪せず通用する評論だと信じます。
 このエッセイは発行当時の社会情勢を反映したものです。内容・表現において、現在とは相容れない物もありますが、著作者の意思を尊重して原文のまま掲載いたします】

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