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税収の魔術〈間接税〉

コラム『あまのじゃく』1954/2/11 発行 
文化新聞  No. 1160


下級民からの徴収にメリット⁈

    主幹 吉 田 金 八

 政府では、所得税を減税する代わりに、間接税から巨額の財源を生み出そうと目の色を変えている。
 間接税は原則的には大衆課税である。
 一銭も税金を払っていないはずのルペンでも、タバコを吸い焼酎を飲む限り、酒も飲まぬタバコも吸わぬ月給取りより、多額な税金を奉納しているわけである。100万円の月収がある重役でも、1日にタバコを100本も吸うわけにはいかず、酒の5升も飲む訳にはいかぬ。もちろん貧乏人はゴールデン・バットか新生であり、金持ちはピース、酒も二級酒の400円台と特級酒の1000円の差異はあっても、税金の額は違っても消費する量が大差なければ、そんなに税金が違う訳はない。
 間接税こそは大衆から無意識に税金を巻き上げる魔術である。だから、織物消費税とか物品税、取引高税などは大衆課税として、無産政党から反撃を食いやすい。
 それを逃げるために、高級奢侈品のみに課税するという建前で出発し、機を見て課税範囲を広げていくのが、大蔵官僚の巧妙な立法技術である。
 今国会で問題になろうとしている繊維品の消費税の如きも、当初には紡績、繊維会社の蔵出しの際課税する原料課税方式で行おうとして、紡績連合会、製絲連等大資本家から運動を食い、ウヤムヤとなり、今度は織物業者が製品検査の際、徴収するか小売業者が消費者に売り渡す際に徴収するようになるか、まだはっきりした線は出ないようだが、一定金額の線以上の高級品に限り、従価一割の物品税がかけられる事はほぼ確実となってきた。
 目下予想されるところでは、本県産繊維製品では、反3千円以上の村山大島、ヤール平方千五百円以上の高級レースにのみかかるのではないかとの風説があるが、これとてどう変わるか、予算案の編成の手心でわかったものではない。
 昔は織物などの規格が単純だったから、綿製品は無税、絹製品は課税という風に、大雑把な区別で間に合ったが、現行は、原材料が多種多様で、しかも雑多な混織が行われているから、原料の使用割合で区分するにしても、最終小売価格の評価で、3千円以上、以下の線で課税非課税を判定するにしても、これが徴税に当たっては、徴収する側の税務署も、消費者に代わって納税する業者も、技術的、事務的に非常な煩雑と苦労が加重されるわけで、終戦後アメリカの指示で行われた物品税の消費納入制度すら、異常な混乱と不公平な結果を生み、多くの効果なしに竜頭蛇尾に終わったことを思い合わせれば、直接税から間接税に税収の重点を移行させる政府の方針は、ただ税務官吏の数を増やすことと、日本につきものの税吏の汚職や、取引の混乱、混怠を招くのみではないかと心配される。
 100万円の税金を徴収するために、5人の税吏を増したのでは、差し引き何にもならないことで、ただ無駄な役人を増して国民が苦労するという結果のみである。
 間接税の増徴がそうした結果に終わることは火を見るより明らかである。


 コラム『あまのじゃく』は、埼玉県西武地方の日刊ローカル紙「文化新聞」に掲載された評判の風刺評論です。歯に衣着せぬ論評は大戦後の困窮にあえぐ読者の留飲を下げ、喝采を浴びました。70年後の現代社会にも、少しも色褪せず通用する評論だと信じます。
 このエッセイは発行当時の社会情勢を反映したものです。内容・表現において、現在とは相容れない物もありますが、著作者の意思を尊重して原文のまま掲載いたします】


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