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官吏腐敗の温床

『あまのじゃく』1950/4/28 発行 
文化新聞  No. 13
 


統制許可公団のからくり

    社長 吉 田 金 八

 官公吏の汚職事件が続出して国民の国家に対する信頼感が失われつつある折から、鉱工公団の一青年職員が公金八千万円を浮貸しその他に費消したことが摘発され、これが導火線となり年内に廃止の運命にある。各種公団のどさくさに紛れ火事場泥的犯罪が続々と白日のもとに暴かれ、今更ながら国民を唖然とさせている。
 過去においても国家地方の財政利権をめぐって幾多の汚職事件が官公吏、政党人の間に発生したが、終戦後のそれに比較すればその点数も内容も実に微々たるものであった。特に終戦直後は軍が置き去りにした膨大な物資をめぐって、さらにまた食料の確保、物価安定のためと称して官僚が経済の実権を握ったことにより、社会の表面に浮かび出た事件の何千倍の悪徳事件が横行し、国民を搾取し罪なき大衆を苦しめるに至った。
 官僚が私服を肥やさんとする場合の企画は、まず次の三段の構えを基本とする。第一番に公益のためと称して窮屈な法律をこさえる。
 一例を挙げると、放任すれば金のあるものばかり大邸宅、別荘を作って貧乏人の家を作る材木が沸騰して公益に反するから、十坪以下は許可を要しないが、それ以上の建物は要許可とし、映画館、キャバレー等は特別の事情のない限り許可しないと言う、一見社会に納得される法律を作る。
 次に資材の供給面に統制を強化して普通の商行為のみで材木やトタン、ガラス等が入手できない仕組みをこさえる。そのためには公団、特殊会社等をこさえて、これらには重要資材の石炭や鉄材その他を助成金とか補助金の名目で、国民の負担による馬鹿安い値段で供給するようにする。
 第三には末端官吏に物資移動、検査摘発等の取締り権を与えて、上級官吏の背任行為が部内で批判攻撃を受けぬため機会均等、その実、体裁の良い猿轡をはめてしまう。かくすることによって「官僚座」は大入満員疑いなく、街には何百坪と言う活動館、待合大別荘が建築され、許可をめぐる贈賄饗応、資材にからまる横流し、浮き貸しで官吏は上下を通じて心ウキウキといった次第である。


 コラム『あまのじゃく』は、埼玉県西武地方の日刊ローカル紙「文化新聞」に掲載された評判の風刺評論です。歯に衣着せぬ論評は大戦後の困窮にあえぐ読者の留飲を下げ、喝采を浴びました。70年後の現代社会にも、少しも色褪せず通用する評論だと信じます。
 このエッセイは発行当時の社会情勢を反映したものです。内容・表現において、現在とは相容れない物もありますが、著作者の意思を尊重して原文のまま掲載いたします】

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