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御用聞き商売の転換

コラム『あまのじゃく』1963/10/12 発行
文化新聞 No. 4590


先行き不安に頭の切り替え

    主幹 吉 田 金 八

 九州のある都市でオートメーションのクリーニング会社が出来て、市価の半分という値段で客を取り出したので、同業者がやっていけず、倒産するもの続出という騒動があった。
 この会社は一切を機械仕上げ式のオートメーションでやり、工賃がかからない上に、今までクリーニング界の習慣である御用聞き制度を、注文承り所式の取次所制に変えて、この面の人件費を省いたことが安くやっていける根底だと言う。
 あまり流行りすぎて業者が軒並み倒産、店仕舞いをするところから、福岡県議会でも社会問題として取り上げ、「零細業者救済のために規制命令を出すべきだ」との決議をしたという。その騒動の大きさも判ろう。
 私は数年前、和服の洗い張り業者が「和服もおしまいだから、団子屋になる」というのに、「それだけ大きく転向するなら、習い覚えた仕事に通じたものをやるべきだ」と安物クリーニング店を勧めたことがある。
 その内容は、東飯能の官庁街に来店に便利な地理を利用して、「絶対御用引きも配達もしない、包装紙も使わないで、お客様が風呂敷で取りに来る、しかもドライ等の高級品は他店へお願いし、ただし値段は市価の半値」という事を提案した。
 しかし、その人は私の勧めに乗らず団子屋を始めたが、その後、その団子屋もいつのか間に辞めてしまった。
 福岡でセンセーションを起こしたクリーニング会社は、私の考えたものより大規模だが、精神は同じことである。この地方でも最近授産所でドライ設備をすることで問題があったが、公営が民営を圧迫することに問題があった訳で、公営が民営を圧迫することなら政治的に改めさせることもできる。
 同じ民間の企業とあれば自由競争を建前とする現代に圧力はかけられない。しかも求人難は仕様事なしに『出前持ち』『御用聞き』といった商習慣を追い払う傾向にある。
 中小企業もこの点に早く目覚めて、大きく転換しなければ新しい頭にかなわず、倒産・失業の憂き目に泣く時代が来ることである。
 まず、その前に自分から頭を切り替えなければならない。 


 コラム『あまのじゃく』は、埼玉県西武地方の日刊ローカル紙「文化新聞」に掲載された評判の風刺評論です。歯に衣着せぬ論評は大戦後の困窮にあえぐ読者の留飲を下げ、喝采を浴びました。70年後の現代社会にも、少しも色褪せず通用する評論だと信じます。
 このエッセイは発行当時の社会情勢を反映したものです。内容・表現において、現在とは相容れない物もありますが、著作者の意思を尊重して原文のまま掲載いたします】

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