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西郷さんの変わらぬ人気

『あまのじゃく』1950/9/22 発行 
文化新聞  No. 46


ニーチェ

    主幹 吉 田 金 八

 ニーチェと言う哲学者は強い者は超人と讃えた。
    〇
 この超人はゴリラとかターザンを意味するのではなく、正義を行使する神と同じものを言うらしい。
    〇
 日本には勝てば官軍負ければ賊軍という言葉がある。正しいとか悪いとか言うのは後からのつけたし、理屈で、結局は強いものは良くても悪くてもその時だけは正しいことに落ち着くのが現実である。ただ不正を力によってカバーした、いわゆる覇権は長続きしないということである。
    〇
 上野の西郷さんの銅像の、そっくりそのままのイミテーションが、広小路の某用品店の店頭に現れたと言う。西郷さんは立派な軍人であり、時の明治政府を武力で打倒しようとした、完全なファッショ的人物である。明治、大正時代の小学生は西郷さんは賊軍の大将として教えられた筈。
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 その西郷さんが、政府が変わり思想が変わり、ついには国体までも変わった日本にあって、常に変わらず国民愛敬の的である事は、面白いことである。西郷さんの超人的覇権は正史では短い一コマであったが、国民感情の中にはいつまでもいつまでも生きている。


 コラム『あまのじゃく』は、埼玉県西武地方の日刊ローカル紙「文化新聞」に掲載された評判の風刺評論です。歯に衣着せぬ論評は大戦後の困窮にあえぐ読者の留飲を下げ、喝采を浴びました。70年後の現代社会にも、少しも色褪せず通用する評論だと信じます。
 このエッセイは発行当時の社会情勢を反映したものです。内容・表現において、現在とは相容れない物もありますが、著作者の意思を尊重して原文のまま掲載いたします】

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