創作脚本「めちゃくちゃに春」
めちゃくちゃに春
作 健康
一部 おはよんラブピースサンダー
二部 アノマロカリスの見た夢
【登場人物】
アノマロカリス(アノマ) 最大最強のアノマロカリスの変位種。優しい。
オパビー博士(オパビ) 5つの複眼を持つオパビニアの変位種。知性が高い。
ハルキゲニア(ハルキ) 背中にトゲ、複数の足があるハルキゲニアの変位種。明るい。
3(3) 神の使い、オーシャンポリスの一員。読み方は「スリー」。
猫背隊長(猫背) オーシャンポリスの隊長。猫みたいなお姉さん。
春原遥(遥) 恋する京都の女子高生。読み方は「ハルバルハルカ」。
【あらすじ】
一部・・・5億年前の古生代カンブリア紀。多種多様な海の生物が生きた時代。神の禁断の果実を口にしてしまった彼らは、知恵を手にしてしまう。さらに海に沈む「言の葉」に触れることで、彼らは新しい言葉を覚え、旅をし、海の中で生活を育むようになる。それを神の使いであるオーシャンポリスの3、猫背隊長が止める。
二部・・・現代。中学の時に出会った魚崎くんに恋する春原遥は今日も走る。どうやら魚崎くんはアノマロカリスが好きらしい。どうすれば、私もアノマロカリスになれるのだろうか。京都太秦の蚕ノ社で、彼女は不思議な遺跡に導かれる。そこは、5億年前の海の底か、それとも誰かの夢の中か。時代が交差する中、今日も朝日は上り、夕日は沈む。
*性別について。猫背隊長、春原遥を除く4人の性は中性的であり、男女のキャストは指定しない。
目次
めちゃくちゃに春
①オープニング
②言の葉を探して
③ハルキゲニア
④オパビニア
⑤誕生日ケーキ
⑥運命の日
⑦みんなでおやすみ
⑧春原遥
⑨遺跡
⑩3(スリー)
⑪猫背隊長
⑫昨夜は嵐と聞きまして
⑬アノマロカリスの見た夢
⑭めちゃくちゃに春
一部(①~⑦)
二部(⑧~⑭)
(一部)おはよんラブピースサンダー
舞台はアノマロカリスたちの家。舞台の上には海を思わせるような物から、一般的な家具などがある。
色の異なるコップが四つ。
①オープニング
うす暗い舞台の中、声が聞こえる。
アノマ、舞台に出る。
アノマ「ぷくぷくぷく、ばくばくばく。ぽくぽくぽく、さくさくさく。ざばーんざばーん。ざばばばーん」
ハルキ、オパビ、舞台に出る。
並行して、全員の声で海を表現する。
アノマ「ぷくぷくぷく、ばくばくばく。ぽくぽくぽく、さくさくさく。ざばーんざばーん。ざばばばーん」
ハルキ「つくつくつく、ざくざくざく。ぞくぞくぞく、さくさくさく。ざばーんざばーん。ざばばばーん」
オバビ「うくうくうく、だくだくだく。ぽくぽくぽく、ぱくぱくぱく。ざばーんざばーん。ざばばばーん」
ハルキ、オバビ、舞台を出る。
明かりがつく。
アノマ「気持ちいいものが僕の体をぷかぷかさせる。昨日と一緒だ。そのまた昨日とも一緒だ。ずぅっとずぅっと昨日とも一緒。よかった。今日も同じだ。体の先がぽわっと温かくなる。それをすぅっと動かすと、もっと僕をぷかぷかさせる。わかる。感じる。わかるって気持ちいい。すると近くでハルキゲニアの泳ぐ音が聞こえる。さくさくさく、うん、あれはきっとハルキゲニア。今日も元気に泳いでいるな。よかった。…いつか来るらしい運命の日が
今日でないことを確かめて、ゆっくりと僕は目を開ける」
アノマ、目を開ける。
アノマ「うーん眩しい!(観客を見て)あれ、そこに誰かいる?いち、に、さん…君たち、僕と初めて会うよね。初めまして!あれ、あーそんな顔しないで、僕は君たちを食べたりしないから。大丈夫、大丈夫だよー。って言の葉がないと、言葉は通じないか。また後でオパビー博士に聞いてみるよ。うん、だからまあ、ゆっくりしてて。そうだ、何か飲む?僕のコップで良かったらあるんだけど。こっちはみんなのコップだから、えっとね」
ハルキ、舞台に出る。
ハルキ「アノマロカリス、何やってんの」
アノマ「ハルキゲニア!おはよう」
ハルキ「おはよ。朝から独り言か?相変わらず元気なやつ」
アノマ「君だって、散歩お疲れ様」
ハルキ「げ!見てたのか!」
アノマ「聞こえてた」
ハルキ「耳良すぎるだろ。やっぱ凄いな」
アノマ「それ程でもないよ」
ハルキ「…ん?じゃーなーくて!何話してたんだよ。コップも持っちゃって。オパビー博士は来てないし、乾杯はまだ早いだろ」
アノマ「そうそう!見て、(観客を指して)今日は新しい友達が来てるんだ」
ハルキ「新しい友達ぃ?アノマロカリス、また友達作ったのか。ったく、オパビー博士みたいなうるさいヤツがこれ以上増えたら、流石の私も手が足りないぜ?」
オパビー博士、舞台に出る。
オパビ「だああれがうるさい喧喧囂囂(ケンケンゴウゴウ)な奴だってぇ!??」
ハルキ「げ、オパビー博士」
オパビ「ハルキゲニア、私がどれほど君たちの言の葉探しに尽力してきたと思って?」
ハルキ「悪かったって」
オパビ「はいはい。どうせ私は喧喧囂囂」
アノマ「どういう意味?」
オパビ「先日言の葉で知ったのさ。つまり、やかましいとか騒がしいとか、うるさいって意味。(急にブチ切れて)はあ!!?うるさい!?うるさいって!?今うるさいって言った!?」
ハルキ「今は言ってねえ」
オパビ「うるさくないよー!!!うあーーー!!!(全力の叫び)」
ハルキ「やかましいわ!」
オパビ「っておや、見ない子たちが来ているじゃないか。珍しい顔だな」
アノマ「そう!初めて会うよね。ここに来てくれて嬉しいな」
オパビ「ふむ。きっと遠くの海から来たんだろうね。それに彼らにはまだ言葉は通じないようだ」
アノマ「そうなんだ。オパビー博士、言の葉をみんなに分けてあげたりできないかな。みんな、僕の友達なんだ!」
ハルキ「友達は早くない?って顔してるけど」
アノマ「出会えただけで友達だよ。今日はよろしくね、みんな」
ハルキ「だそうだ。ま、よろしく頼むよ」
オパビ「…君たちはまた。ふ、変わらないな。私からもよろしく。言の葉が使えるかどうかは調べておくよ」
アノマ「ありがとう博士。あ、そうだ、紹介がまだだったね。(オパビーを指して)オパビニア。凄く物知りで、あと声が大きい。僕らはオパビー博士って呼んでる。(ハルキを指して)こっちはハルキゲニア。ツンツンしてるけど、とっても優しいんだ」
ハルキ「そこは言わなくていい!」
アノマロカリス「そして僕がアノマロカリス」
オパビ「アノマロカリス。自己紹介は後で良かったんじゃないか」
アノマ「そっか!うん、まず言の葉を探さないとだね」
3と猫背の声がする。
3「向こうから気配がします」
猫背「うん。気を付けていこうね」
ハルキ「やばい。オーシャンポリスが来た。隠れろ!…(観客を向いて)お前ら、誰が来ても、私らのことは黙っておいてくれ。頼むぜ」
3人、舞台で隠れる。
3と猫背、舞台に出る。敬礼。
3ピシッとしている。猫背は猫背である。
3「こちらオーシャンポリス、こちらオーシャンポリス、カンブリア海洋保安隊であります。そこにいるあなたたちに問う。ここで怪しい3匹を見ませんでしたか。…(銃を構えて)見なかったかと聞いている、イエスかノーだ、答えなさい」
猫背「3,みんな怖がってる」
3「ですが、猫背隊長。もし奴らをかくまってでもしたら」
猫背「本当に何も見ていなかったら、それこそオーシャンポリスの名に傷がつくわ。ね、嘘なんてついてないわよね?…うん。3、私たちの目的は何?」
3「奴らの言の葉集めを阻止することです」
猫背「正解。本部から洞穴の奥に言の葉が溜まった空間が残っているって情報も入ったわ。ここはもういいから、一度本部に戻りましょう」
3「はい」
3、敬礼をして、舞台を出る。
猫背、じーっと観客を見る。
猫背、少しニコッとして、舞台を出る。
ハルキ「…行ったか?」
オパビ「大丈夫みたいだ」
ハルキ「危なかったー。流石にバレるかと思ったぜ。お前ら、ありがとうな。その何も知らないぜって顔、名演技だったよ」
オパビ「オーシャンポリスは、何故か私たちを邪魔して捕まえようとしてくるんだ。迷惑なやつさ」
ハルキ「あれで撃たれると痛いんだ。本当に嫌だ」
オパビ「ふむ。だが、アノマロカリス、どうする? 」
アノマ「…オパビー博士、ハルキゲニア。いいことを聞いた。洞穴の奥に言の葉が残ってるって!オーシャンポリスよりも先に行って、言の葉を取りに行こう。そうして新しい言葉を知れたら、みんなとも話ができるかもしれない!」
オパビ「そう言うと思ったよ。多少危険だがね」
アノマ「うん、またオーシャンポリスに会うかもしれないし、洞穴に行くのは僕一人だけでも」
ハルキ「何言ってんだ。私たち友達だろ?私も行くよ」
オパビ「もちろん私も。私は天下無双の博士だからね。君たちを守るのが私の仕事さ」
ハルキ「いいや、私が2人を守る」
オパビ「いやいや私さ」
アノマ「…ありがとう。でも、みんなを守るのは僕だ」
ハルキ「けっ。じゃあ、(コップを持って)乾杯」
2人「(オパビ、アノマもコップを持って)乾杯!」
コップで一口飲む。
アノマ「よし!オーシャンポリスよりも先に行くよ。今すぐ出よう!」
オパビ「今すぐ!?わかった、40秒で支度する!」
オパビ、アノマ、舞台を出る。
ハルキ「(観客を見て)めちゃくちゃで悪いね。行ってくる」
ハルキ、コップを飲み干して舞台を出る。
映像「おはよんラブピースサンダー」
②言の葉を探して
3、猫背、舞台に出る。
3「狙い通り、奴ら洞穴に向かいましたね」
猫背「そうね」
3「洞穴に言の葉が残っているというのは、奴らを騙す嘘ですか」
猫背「んー。どうだろうね。私は聞いたことを口にしただけだから」
3「え、洞穴には本当に言の葉があるんですか。奴らがまた言の葉を手にしたらどうするんですか」
猫背「困るわね」
3「困るわねって…。ただでさえ奴らは、知恵の実を口にした重罪人ですよ。その上いくつもの言の葉、言葉を奴らは得て、これから文明を築く可能性だってある」
猫背「それって、何か問題?」
3「猫背隊長。神に背くのですか」
猫背「やだ違うよお。そんな怖い顔しないで3。それに何があっても、3、あなたが3人とも撃ってくれるでしょ?じゃあ結果オーライって感じだね」
3「…本部からの命令は、言の葉採取の阻止では」
猫背「私のお願いが聞けない?いいのよ、できないならそれでも」
3「いえ、僕が撃ちます」
猫背「正解。偉いね~。じゃあ、私たちも行こっか」
3、猫背、舞台を出る。
アノマ、ハルキ、オパビ、舞台に出る。
洞穴。
一緒にジャンプしたり、くぐったりしながら洞穴を進む。
音楽に合わせてダンスをしてもいい。
アノマ「冒険、楽しいね」
ハルキ「毎日してるだろ」
アノマ「うーん。何だか、二人と出会ったときを思い出す」
ハルキ「あれは冒険と言うか、事件っつーか」
アノマ「ネッシー事件だね」
ハルキ「そう。ネッシー事件」
オパビ「二人とも。これを見てもらってもいいかな」
アノマ「オパビー博士。それは?」
ハルキ「閉まって入れないじゃないか」
オパビ「ここをよく見てくれ。どうやら、暗号みたいだ」
アノマ「暗号。これは言葉?」
オパビ「誰が作ったかはわからないが、解かないと進めないらしい。解読してみせるよ」
アノマ「頑張って、オパビー博士」
オパビ「できた」
ハルキ「早いな」
オパビ「読むね。足が1本と2本あります。合わせていくつありますか」
ハルキ「なんだこれ。数えたらいいんだろ。えっと、1つと2つだから…。えっと、えっと…。あ~足が絡まっちまった」
アノマ「ハルキゲニアの足が、1、2…」
オパビ「答えは3だ」
ハルキ&アノマ「天才だ!」
2人、拍手。
オパビ「次の暗号。足が11本の生き物が11匹います。合わせていくつありますか」
アノマ「足多くない?」
オパビ「答えは121だ」
ハルキ&アノマ「天才だ!」
2人、拍手。
ハルキ「オパビー博士、どうやったんだよ」
オパビ「頭の中で全部数えた」
ハルキ「すごい!よく絡まらなかったのな」
オパビ「嘘。こういうのはコツがあるのさ。よし、奥に進もう。もし言の葉が波に流されて溜まっているのなら、きっとこの先だ…ほら。あったよ、アノマロカリス、ハルキゲニア」
洞穴の奥。
ハルキ「やったぞ。本当に言の葉がある!」
ハルキ、葉っぱを一つ持つ。
アノマ「みんな!こっちにも、2つもあったよ」
ハルキ「1つと2つ、合わせて、えっと」
ハルキ&アノマ「3つ!」
オパビ「グラッチェ!これでもっと言葉を知れるぞ。何が書いているか読んでみてくれ」
アノマ「…「春」について。春は、ぽかぽか暖かい。春には、誰かとの出会い、別れがある。また、いつかの復活。」
オパビ「春。出会い。別れ。復活。…出会いはくっつくこと。別れは、離れること。うーん、不思議だな、春ってやつは。それは相反するものだよ。アノマロカリス、私たちの運命の日ってのは、そういう春に来るのかもね」
アノマ「なら、僕は春ってのが怖いかもしれない」
ハルキ「わかんねえけど、アノマロカリスにも怖いものはあるんだな。よし、次は私の言の葉だ!なになに…「月曜一限」について。月曜の一限目の授業のこと。この言葉で、全ては滅ぶ…怖い怖い怖い、なんだこれ、やべーじゃん月曜一…」
オパビ「待ってハルキゲニア。それ以上言うと、間違って何かが滅んでしまうかもしれない」
ハルキ「危ないところだった(?)」
アノマ「月曜も、一限も、どういう意味なんだろう。きっと強い言葉なんだね」
オパビ「興味深いね。いざという時のために、覚えておこう。それで、残りの一つは?」
アノマ「…「夢」について。眠っているときに見るもの。また、叶ってほしいもの」
ハルキ「夢、かあ。叶ってほしいもの。ワクワクするな」
アノマ「だね。僕もこの言葉好きだよ」
オパビ「私たちも、この夢ってやつ持てるのかな」
ハルキ「いいな、それ。私たちの夢、叶ってほしいもの、考えてみようぜ」
アノマ「家に戻ったらまた話そう。今日来てくれた友達がきっと待ってる。博士、言の葉を持って帰ってもいいよね」
オパビ「うん。それは大丈夫だが。アノマロカリス、時間が経った言の葉が上手く使えるかわからない。それに、私たちと同じように言の葉を活きるのかどうかも。あの子たちと会話がしたいなら、これまでに見つけた言の葉であったり、もう一度研究し直す必要があるな」
ハルキ「まずはやってみないと、だろ?そろそろ戻ろうぜ」
オパビ「ああ。来た道を通れば、洞穴からは出られ…」
アノマ「(台詞に被せて)この音、伏せて!」
銃の音。
岩が崩れる音。
ハルキ、足を怪我してしまう。
ハルキ「痛てぇ…」
アノマ「ハルキゲニア!」
オパビ「足が、ハルキゲニア、大丈夫か」
ハルキ「何てことねえよ。それより、あいつら」
3、猫背、舞台に出る。
3「こちらオーシャンポリス。カンブリア海洋保安隊である」
ハルキ「知ってら。くそ、もうここまで来ていたのか」
オパビ「まずいな、入口が塞がれた。洞穴の出口は一つだけだ、どうやって逃げようアノマロカリス。…アノマロカリス?」
アノマ「…許さない。よくも僕の友達を。大切な友達を!」
3「動くな!」
アノマ「うるさい!」
3「ひっ…」
3、驚いて銃口を下げる。
猫背、すかさず銃を取り出してアノマを狙って撃つ。
アノマ、手でその銃弾を止める。
猫背「やるぅ」
3「はっ…は…」
アノマ「僕を撃てるなら撃ってみろ。僕は、お前ら何かに負けない」
オパビ「アノマロカリス、君は強い、だが、今は何とかしてここから逃げよう。それにハルキゲニアの怪我も心配だ。最悪、私を置いてでも行ってくれ」
ハルキ「博士、何言ってんの。私のことは大丈夫だから、みんな私から離れてくれ。一つ案があるんだ」
ハルキゲニア、前に出る。
ハルキ「けど、私頭悪いからさ、後のことは任せるよ。博士、アノマロカリス」
オパビ「ハルキゲニア!」
ハルキ「とっておきだ。くらえ!「月曜一限」!」
眩い光に包まれる。
光はチカチカし、滅びの音、岩が崩れる音。
一瞬の暗転。
アノマ、オパビ、ハルキ、舞台を出る。
3「はぁ…はぁ…」
猫背「うーん。やられたなぁ。悔しい〜!もう、いつの時代の言の葉を手にしたんだか。それにやっぱり面白いね。肉食王アノマロカリスの変位種」
3「すみませんでした。僕、何もできなくて」
猫背「3。物事には順番があるのよ。次撃てればいいの!あ、当たるか心配?そうね、じゃあ、いいこと教えてあげよっか」
猫背、3に耳打ちする。
3「そ、それは。確かに、奴らを追い込めますが、ですが」
猫背「何か問題?」
猫背、3をじーっと見つめる。
3「…猫背隊長。話があるのですが」
暗転。
3、猫背、舞台を出る。
③ハルキゲニア
明転。
舞台にはアノマ、オパビ。
アノマロカリスたちの家。
オパビ「助かった。あの言の葉がなかったら危なかった。ハルキゲニアが隙を作って、アノマロカリスが守ってくれたおかげだ。ありがとう。それに比べて、本当に私は、結局何も」
アノマ「オパビー博士が道を覚えてくれたおかげで逃げれたんだ。ありがとう、博士。助かった」
オパビ「アノマロカリス…」
ハルキ、舞台に出る。
アノマ「ハルキゲニア。動いて大丈夫なの」
ハルキ「おう。オパビー博士が手当してくれたおかげで、へっちゃらさ。ありがとうな、博士。こういうとき、グラッチェって言うんだっけ」
オパビ「ハルキゲニア…。ああ、グラッチェ。ありがとう」
ハルキ「へへ。それで、みんなに言の葉は使えたのか?」
オパビ「どうやら、私たちとあの子たちでは根本的に何か違うらしい。だが、使える言の葉がないとも限らない。私はもっと調べてくるよ」
アノマ「わかった。オパビー博士、よろしく」
オパビ「任せたまえ。私は、全知全能の博士だからね!」
オパビ、舞台を出る。
ハルキ「悪いな。また、私の怪我で心配かけて。アノマロカリスは大丈夫か?」
アノマ「うん。僕は大丈夫だよ」
ハルキ「凄いな、アノマロカリスは。まさか銃弾を止めちゃうなんて。私なんか、これで二度目だぜ?」
アノマ「僕らが出会ったときも、こんな感じだっけ」
ハルキ「そうそう。あのときは言の葉で知った幻のネッシーを一人で追いかけてた」
アノマ「僕もネッシーの言の葉見てみたかったな」
ハルキ「凄かったんだよ。ネッシーの言葉を知ったら、ずっと同じだった海に、もしかすると、この言葉の幻が、いるのかもしれない。そいつが近くを泳いでいたり、砂の中にもぐっているのかもしれない。なんだかワクワクが止まらなくてさ。言葉で私の世界が変わったんだ。けど、夢中になりすぎて、オーシャンポリスに気づけず撃たれた」
回想。
ハルキ「ぐ…何だこれ、動かない、私の体どうなってんだ」
アノマ「あれ、誰かいる?」
ハルキ「くそ、また来やがったのか」
アノマ「あーそんな顔しないで、僕は君を食べたりしないから。大丈夫、大丈夫だよ」
ハルキ「お前、さっきのとは別か」
アノマ「おや、君、僕の言葉わかる!?って、その怪我どうしたの。そのままだと痛いよ!」
ハルキ「怪我?痛い?…これ、痛いって言うのか」
アノマ「横になって、この方がきっと楽だ」
ハルキ「…ありがとう」
アノマ「ありがとう?」
ハルキ「知らないのか。感謝するとき、ありがとうって言うんだよ」
アノマ「ありがとう!へー。いいね。ありがとう!」
ハルキ「お前、名前は?」
アノマ「アノマロカリス。君は?」
ハルキ「ハルキゲニア」
アノマ「ハルキゲニアは、どうしてここに?」
ハルキ「…お前、ネッシーって知ってるか?」
アノマ「ネッシー?何それ。かっこいい言葉だね」
ハルキ「だ、だろ!?そうだよな。かっこいいよな。私はそいつを追ってるんだけど、ネッシーは、凄い奴なんだよ。めちゃくちゃでかいんだ」
アノマ「どのくらい?」
ハルキ「このくらい。いや、もっともっと、きっとこんっなに、でかいのさ。それに尻尾も首もあんなに長いんだ!」
アノマ「凄い!それがハルキゲニアの友達?」
ハルキ「いや、まだ会ったことはない」
アノマ「じゃあ、いつか会うのが楽しみだね」
ハルキ「…おう。すっげぇ楽しみ。お前いい奴だな。えっと、アノマロカリス」
アノマ「へへへ。誰かと話せて、僕は嬉しいよ。僕ら友達だね、ハルキゲニア」
ハルキ「これが友達?」
アノマ「友達!」
ハルキ「お、おう。仕方ねえなあ。友達になってやるよ」
アノマ「やったぁ」
ハルキ「その代わり、なんだけどさ。ネッシー探し、一緒にしないか?」
アノマ「もちろんだよ」
ハルキ「ふ、ふははは!そうと決まればネッシー探し開始だ!」
アノマ「おー!でも、怪我の様子を見てみないと…あれ、誰か来る」
銃の音。
猫背、舞台に出る。
猫背「見つけた、新種。いや、変位種。ねえ私と遊ばない?」
ハルキ「さっきの奴。こっちに来るな!」
アノマ「あの子は友達じゃなさそうだね」
猫背「あら、二体もいるの?知恵の果実は美味しくなかったでしょうに。みんなパクパク食べちゃうんだから。始末するのが大変」
ネッシーの大きな鳴き声。
猫背「誰?」
ハルキ「まさか、あの大きな体、尻尾、首」
2人「ネッシーだ!」
ハルキ「ネッシーに会えた!」
アノマ「ハルキゲニアの話よりずっと大きいじゃん!」
ハルキ「そりゃあネッシーだからな」
ネッシーの大きな鳴き声。
ハルキ「ネッシー、助けてくれるのか」
アノマ「あれ、なんだか、僕たちも襲おうとしてない?凄い怖い目してるんだけど」
ハルキ「そりゃあネッシーだからな。ネッシーは自由だから仕方ない」
アノマ「来てる!ネッシーが来てる!うわー!!」
ネッシーの大きな鳴き声。
猫背「もう!何なのよ!」
猫背、逃げるように舞台を出る。
アノマ「僕らも逃げようー!」
2人「うわあああ~~~~」
アノマ、ハルキ、舞台でくるくる逃げる。
回想終わり。
アノマ「懐かしいね。ネッシー事件」
ハルキ「だな。なあ、アノマロカリス。この怪我も治って、次ネッシーに会ったらさ、今度こそ友達になろうぜって言ってみようと思うんだ」
アノマ「いいね。その時は、ネッシーも入れて乾杯しよう」
ハルキ「それは面白い」
アノマ「楽しみだね」
ハルキ「楽しみさ。よし、私はちょっと寝てくるわ。早く元気にならないと。朝の散歩もしたいしな」
アノマ「そうだね。おやすみ。またね」
ハルキ、舞台を出る。
④オパビニア
オパビ、舞台に出る。
オパビ「おや。まだ起きていたのか」
アノマ「うん。オパビー博士も、研究お疲れ様」
オパビ「本当に、今日のことはすまない。みんなを守ると言いながら、私は動くことができなかった」
アノマ「そんなことないって言っただろ。博士がいてくれるから、今僕らもいるんだよ」
オパビ「…アノマロカリス、君は不思議だ。そんなに強くて、たくましいのに、どうして私にそこまで優しくするんだい?」
アノマ「博士のことが好きだから。僕ら友達だろ?」
オパビ「…私も、君のことが好きだ。君も、ハルキゲニアも、みんなも、好きだ。そうか、好きだからか。アノマロカリス、私が話した「運命の日」のことを覚えているかい?いつか言の葉で知った「運命の日」。その日は朝から、いつもと違う匂いがする。全てとの別れ。終わり。もう元には戻れない日。それが、運命の日。私は言の葉でこの言葉を知ってから、その全てが終わる日までに、私に何ができるかをずっと考えてきた。言葉を知って、可能性とやらを追って、みんなと出会って、冒険して。でも、何をしたとしても終わってしまうだろう?それが道の途中だとしてもだ。運命のその後は、どうも私にはわからないからね。私の生きる道はきっとそこで終わる。…アノマロカリス、私、夢があるんだ。叶ってほしい夢」
アノマ「夢?」
オパビ「聞いてくれるかい?」
アノマ「何でも聞くよ」
オパビ「…運命の日に、私の愛するみんなに、愛されながら眠る。それが私の夢」
アノマ「うん。いいね」
オパビ「君ならそう言ってくれると信じていたよ」
アノマ「博士は凄いなあ。僕なんて、運命の日が怖くて怖くて仕方ないのに」
オパビ「それが君のいいところさ」
アノマ「博士には適わないよ」
オパビ「空前絶後の博士だからね。そろそろ私も部屋に戻るよ。研究したいことが沢山だ」
アノマ「うん。おやすみ。またね」
オパビ、舞台を出る。
アノマ「夢、かあ」
アノマ、舞台を出る。
⑤誕生日ケーキ
ハルキ、オパビ、舞台に出る。
オパビ「(観客に向けて)みんなおはよう。もう起きているかい?調子はどう?この辺りの海は慣れてきた?」
ハルキ「オパビー博士。オパビー博士!」
オパビ「ああ、おはようハルキゲニア。早いね」
ハルキ「博士、相談があるんだけど」
オパビ「相談?ちょ、ちょっと待ってくれ。新しい友達の研究の途中でだね」
ハルキ「誕生日パーティーしない!?」
オパビ「誕生日パーティー。あー確かに、洞穴の件もそうだが、アノマロカリスに最近のお礼をしたいね。いいじゃないか」
少し説明口調で。
ハルキ「「誕生日パーティー」について。感謝を伝える祝いのこと。だから私たちは、お互いに感謝を伝えたい日を誕生日として、誕生日パーティーを開くと決めているのだ」
オパビ「一回目がアノマロカリス、その次に私、そしてこの前ハルキゲニアを祝った」
回想。
オパビ「ハルキゲニア!誕生日ありがとう!私の被検体になってくれたお礼をさせてくれ!」
ハルキ「ありがとう博士!みんな!もぐもぐ…うぐっ!」
チーンという音。
回想終わり。
オパビ「洞穴の感謝を伝えるため、私たちは二度目のアノマロカリスの誕生日パーティーを開くことにしたのだ」
ハルキ「というわけで、誕生日パーティーのケーキを用意しよう!」
オパビ「今回はみんなもいるし、賑やかにできるな。研究の続きはパーティーの後にしよう。ケーキの材料は、私の部屋にあったはずだ」
ハルキ「ナイス博士!じゃあ、アノマロカリスが起きる前にやっちまおう」
アノマ、すぐ舞台に出る。
アノマ「みんなおはよう!」
二人、ずっこける。
ハルキ「アノマロカリス!早いよ!」
アノマ「だって、二人の声が聞こえたから。もうみんな起きてるんだ~って思って。何の話をしてたの?」
オパビ「ハルキゲニア!アノマロカリスを抑えておくんだ!」
ハルキ「おう!」
アノマ「え、ええ、なになに、どうしたのさ」
ハルキ、アノマの目を隠して、体を紐のようなものでグルグルにする。
アノマ「わけがわからないんだけど」
ハルキ「悪いなアノマロカリス」
アノマ「うん。ちょっと楽しいからいいよ」
ハルキ「それはそれで気持ち悪いな」
アノマ「酷くない?」
オパビ「よし、取り掛かろう!」
ハルキ「おう!」
アノマ「何に?」
二人は舞台を行ったり来たりしながら誕生日パーティーの用意をする。
少しずつ舞台が飾られていく。
用意と並行して。
アノマ「何してるんだよう。僕も入れてよ。そこにいるんでしょ?ハルキゲニア」
ハルキ「いや、お前はむしろ今ここに入りすぎてるんだけどな」
アノマ「こんなの初めてだよ」
オパビ「私も初体験だ。異例というか異形というか。このシュールな空間を記録できるようになったらいいのにね。まあアノマロカリスはゆっくりしていてくれ」
アノマ「はあい…ねえハルキゲニア、僕のコップ取って飲ませてくれない?」
ハルキ「自分で飲め!]
アノマ「飲めないの!誰のせいだよー」
ハルキ「ったく。ほら、飲め」
アノマ「ごくごくごく。うむ。よい」
ハルキ「ご機嫌な奴め」
アノマ「ありがとう。あれ、なんだかいい匂いがする!」
ハルキ「お前は話していないとダメなのか?」
アノマ「今口しか使えないんだもん!」
足をぶつける音。
オパビ「いたぁあああああああああああい!」
ハルキ「うるせえ!大丈夫か博士」
オパビ「指をぶつけたよ…」
ハルキ「ったく、何してんだよー」
オパビ「ごめんごめん」
アノマ「あはは、何だかめちゃくちゃじゃない?」
ハルキ「全くだよ」
アノマ「楽しそうだね。ハルキゲニア」
ハルキ「いつもだよ。昨日も言った」
アノマ「そっか。だよね。見えなくても、ハルキゲニアの顔が想像できる。あとオパビー博士の痛そうな顔も」
ハルキ「…変な顔してやる。うい~」
アノマ「え、見たい見たい!」
ハルキ「やだね。ういうい~」
アノマ「あはは。やめてよ」
オパビ「おーいそろそろいいぞ。ハルキゲニア」
オパビ、ケーキを出す。
ケーキの上にはロウソクが2本。
ハルキ「あれ、この棒のやつ、2本だっけ?」
オパビ「今回で2度目だろ?こうしておくと、祝った回数もわかりやすいのさ。ちゃんと息を吹きかけたら明かりが消えるものも発明済みだよ」
ハルキ「よしよしよし。じゃあ、アノマロカリスを解放するか」
アノマ「解放?やっぱり僕捕まってたんだね」
ハルキ「はいはい。ちょっと待ってろよ」
ハルキ、アノマの紐をほどく。目隠しも外す。
ハルキ、オパビ、クラッカーを手にもって。
アノマ「眩しい…うーん。あ、あははは。凄い、ケーキじゃん!」
ハルキ「洞穴の感謝だ!黙って受け取れ」
アノマ「うん。ありがとう!」
オパビ「前回のハルキゲニアの誕生日ケーキは、挑戦しすぎて大失敗したからな。今回はちゃんとしてるぞ」
ハルキ「やっぱりあれ大失敗だったのか!」
アノマ「面白かったね。博士といろいろ遊び始めたら止まらなくなってさ。なのにハルキゲニア、美味しい美味しいって食べてくれて。無理しないでって言ったのに」
オパビ「避けられない事故だったね」
ハルキ「事件だよ。今度の私の誕生日パーティーは頼むぜ?ってじゃーなくて!アノマロカリス」
アノマ「はい」
ハルキ「誕生日ありがとう」
オパビ「グラッチェ!」
アノマ「うん。こちらこそ、ありがとう。みんな」
ハルキ「よし、じゃあいつもの歌うか」
2人「ハッピバースデイトゥーユー。ハッピバースデイトゥーユー。ハッピバースデイディア、アノマロカリス~。ハッピバースデイトゥーユー…」
ハルキ「よし、消せ!」
アノマ「せーのっ」
暗転。
2発の銃の音。
⑥運命の日
アノマ、拍手をする。クラッカーの音と銃声を勘違いしている。
アノマ「すごい!すごいや!ありがとう~」
明転。
ハルキ、オパビ、バタン、バタンと倒れる。
アノマ「…ん、あれ、え?」
アノマ、二人が倒れたことに気づく。
アノマ「ハルキゲニア。オパビー博士…?」
3、猫背、舞台に出る。
3「動くな!オーシャンポリスだ。アノマロカリス、ハルキゲニア、オパビニア。お前たち3人は、神への罪を犯した。よって、オーシャンポリスがお前たちを裁く」
猫背「あなたは確かにこの時代最強の生物。でも気づいていた?あなたは自分への攻撃には敏感だけれど、それ以外は並程度」
3「お前は、他人を守れるほど強くない」
アノマ「う、うわああああ!」
アノマ、3と猫背を襲おうとする。
3、倒れたオパビを撃つ。
オパビ「がはっ」
アノマ「お、オパビー博士」
3「動くなと言っただろう」
猫背「可哀想」
アノマ「なんだよ。なんなんだよ。どうして僕たちをこんな目にするんだ。僕たちが何をしたって言うんだよ。どうかしてるんじゃないか!?」
3「お前たちは、得てはいけない知恵と言葉を得た。だから裁かれる」
アノマ「言葉を知るのがそんなに悪いことなのか」
3「そうだ」
アノマ「ふざけるな」
3「では言おう。お前は、お前たちは、この世界に、生まれてはいけなかったんだ」
アノマ「…!あ、ああ。ああああ。あああああ。はぁっ…ああああああ!!」
ハルキ「アノマロ、カリス」
アノマ「…ハルキゲニア」
3「まずは2人からだ」
アノマ「おい。撃つなら僕を撃て。残った弾丸全部僕に撃て。裁きってのを全部全部僕に吐き出せよ!それでいいだろ、頼むから…もうこれ以上、みんなに悪いことをしないでくれ。頼む、頼む、頼む…頼むからさ。僕の、大事な友達なんだ」
猫背「どうせ2人もすぐ死ぬわ。好きにすれば」
アノマ「…ありがとう」
3「何か最後に言い残したことはあるか?」
アノマ「僕は君たちが嫌いだ」
3「同感だ」
3,アノマに銃口を向ける。
暗転。
⑦みんなでおやすみ
明転。
舞台にアノマ、ハルキ、オパビ。
アノマが立って、倒れた2人にゆっくり近づく。
ハルキ「…アノマロカリス」
アノマ「ハルキゲニア。もう家には僕たちだけだよ」
ハルキ「アノマロカリスはタフだな」
アノマ「僕はあんなのに負けないさ」
ハルキ「私も。ピンピンしてるぜ」
アノマ「そうだよ。ハルキゲニアは元気でなきゃ。今日も散歩したの?」
ハルキ「今日はしてないなあ。誕生日パーティーだったからな」
アノマ「ごめんね」
ハルキ「ばか言え」
オパビ「アノマロカリス」
アノマ「オパビー博士」
オパビ「もう、大きな声は出ないが。聞いてくれないか」
アノマ「何だって聞くさ」
オパビ「私の、夢を、叶えてほしい」
アノマ「…」
アノマ、オパビを抱きしめる。
オパビ「ああ。私はこんなにも幸せだ。最後に、みんなといれることが、幸せでたまらない。まだ私は、この気持ちを表す言葉を持ち合わせていないよ。私の研究の道は、本当に途中だった。でも、私の夢は、叶ったんだ」
アノマ「オパビー博士。大好きだよ」
オパビ「私もだ」
ハルキ「あー。くそ。アノマロカリス、オパビー博士。さっきから立とうとしてんだけど、私の足あるよな?全然動かねえんだけど」
アノマ「…ハルキゲニア」
ハルキ「は、はは。悪い。…アノマロカリス。私も、夢がある。いつかネッシーと友達になること」
アノマ「いいね」
ハルキ「あと、美味しいご飯をたくさん食べたい。こんなに、こんっなにたくさんのご飯を食べてやる。そしたら今よりもっと自由に泳いで、誰よりも遠くに行きたい。まだ見ていないものを見たみたい。これが、私の夢」
アノマ「きっと叶うさ」
ハルキ「当たり前だ」
アノマ「(観客を見て)みんなの夢は?」
少しの間。
アノマ「それもいいね。みんなも、一緒にいてくれてありがとう」
ハルキ「残りはアノマロカリスの夢も教えろよ」
アノマ「僕の、夢」
オパビ「私にも聞かせてくれ」
アノマ「僕の夢は…」
アノマ、夢を語る。
この間、舞台に音は何もない。
ハルキ「ははは。やっぱアノマロカリスはかっこいいよ」
オパビ「アノマロカリス。グラッチェってやつさ」
アノマ「な、何だよ二人とも。変な顔して」
ハルキ「…アノマロカリス、私もくっついていいか?」
アノマ「もちろん」
アノマ、ハルキを抱き寄せる。
3人で抱き合う。
オパビ「ああ。こんなにぽかぽかするのは初めてだよ。そうか、これが春ってやつなのか」
アノマ「これが春かあ。ねえみんな。運命のその後は、わからないからさ。目が覚めたら、どんな世界が待っているんだろうね」
2人、反応がない。
アノマ「またね。みんな、おやすみなさい」
ME:スターダスト・レビュー「木蘭の涙」
ゆっくりと照明が消える。
幕。
2部に続く。
(二部)アノマロカリスの見た夢
⑧春原遥
舞台に制服を着た春原。
春原の台詞に合わせて、映像で風景が映し出される。
春原「梅の季節が過ぎ、京都河原町木屋町通りで、春原遥はソメイヨシノの八分咲きを観測した!これをもって、この春原遥が春の訪れを宣言する!皆の者、春が来たぞ!ぽかぽかの春が来たぞ!私はこの号外を世間に届けるため、四条大橋まで向かった。鴨川は今日も流れている。紳士婦人は先斗町(ポントチョウ)のランチを楽しみ、鴨川沿いのカップルは等間隔に並んで座っている。前者は桜を紳士的に見つめ、後者は桜のふりをして、互いの横顔ばかりに見とれている。つまり誰も、私のことなど見ていない。まあいい。各々で春の訪れを感じているのなら、それでいい。ただ私は、鴨川で己の位置座標のみを計り、横との間隔を無視し、等間隔に並ぼうとしないカップルは大嫌いだ。学問に拒まれた私ですら、数学の内分外分は知っている。数学をも履修せず、空気の読めないカップルなんて、その手に持つファミマのメロンパンをトンビにでも取られてしまえばいい。これは私の体験談である。実に鴨川のトンビは、独りの私を許さなかった」
春原「私はそのまま祇園白川の春を味わった。こうすると、私はある人の顔を想ってしまう。春原遥は、恋をしている。恋の始まりは中学一年の春であったから、実に四年、私は恋をしていることになる。英語で言うと現在完了進行形になるのだろうか。I have been lovingである。全く完了しきらない私の想いは、未だに色あせない、タフな花だった。…彼の名前は魚崎くんと言う。下の名前は私なんかが口にすると、きっと四肢もろともに爆散するので呼べない。苗字はぎりセーフである。魚崎くんとの出会いは、中学校1階廊下の角。漫画ではここで、少女が食パンを口に加えるか、大量の紙を手に持ち、少年とぶつかるのが定石で、持つのが紙の場合は、紙を拾う彼の手と手が触れ合うまでが一セットである。だがしかし、私は口に加えていたのはフランスパンであり、手に持っていたのは自作ポエム集であった。長くて硬いフランスパンは、魚崎くんの顔面を刺した。きっと魚崎くんの眼鏡がなければ魚崎くんは即死だった。だが眼鏡のせいでポエムにピントが合ってしまった。恥ずか死んだのは私だけだった。それからだがなぜか、なぜかわからないが、私は魚崎くんのことが頭から離れなくなった。フランスパンで刺したあげく、私の羞恥を晒してしまった彼に、私は恋をした。しかし、私はあれから彼と一度も話せていない。妄想が私と現実を置いていってしまった。私たちは別々の高校に進学したので、会うことも容易にできず、私と彼とのラブリーな可能性とやらはなくなったように思えた。それでも春になると、彼のことを強く想ってしまうのは、春のせいなのか、私のせいなのか、わからない。胸に刺さったナイフは抜けず、未解決の事件である」
少し雰囲気が変わる。
春原「中学一年の国語の授業中、魚崎くんは「アノマロカリスが好き」と言った。アノマロカリスとは何なのか。理科の教科書にその名前があった。5億年前のカンブリア紀を生きた、最強の肉食動物らしい」
春原「ここで、ちょっと待てよと。魚崎くんはアノマロカリスが好き。もし私がアノマロカリスになれば、魚崎くんは私のことが好きということになる。私は人類としての道を諦めたわけではないが、限りなくアノマロカリスに近い人間になろうと決めた。私のアノマロカリス度はまだ八分も届いていないので、だから私はまだ魚崎くんに会っていない。なーんて、想い人のことを考えていると、知らない場所にいたなんてことがよくある。どうやら私は海より深い妄想をしているうちに、地下鉄東西線に乗りこみ、太秦天神川駅に着いたようだ。地上に上ると、嵐電の路面電車が走っているのが見えた。初めて見る路面電車に興奮し、一駅だけ乗ってみることにした。私は、蚕ノ社(カイコノヤシロ)駅にいた」
猫の鳴き声。
春原「猫。猫猫猫猫!」
春原、猫を追いかける。
春原「やけに可愛い黒猫がいたのでつい追いかけてしまった。黒猫は神社の鳥居の中に入った。私も鳥居をくぐっていた。私が黒猫を追っているのか、黒猫が私に追わせているのか、一握の疑問を感じたところで、蚕ノ社の境内の、三角形の形をした鳥居に気が付いた。自分が世界の中心だと言わんばかりの三本鳥居は、神秘的で、どこか、寂しいような気がした」
風の吹く音、猫の鳴く音。
春原「猫、どこに行くの?」
暗転。
映像はここまで。
⑨遺跡
海底だった遺跡。
舞台には、一部の残りの道具。
コップが4つ。
舞台に春原、3。
春原、舞台で寝ている。
明転。
春原「んー。あ、あれ、ここ、どこ?暗くてよく見えないんだけど。神社にいたはずじゃ…」
3,春原、目が合う。
春原「きゃあ!」
3「ええ!?な、なに!?」
春原「誰!?誰!?」
3「き、きみこそ誰だよ?人間?」
春原「見たらわかるでしょ!女子高生!」
3「じょ、女子高生」
春原「え、知らない?」
3「知らない」
春原「怖い怖い!無理!」
3「酷くない!?」
春原「…ごめんなさい。落ち着きました」
3「うん。僕も」
沈黙。
春原「えっと、私、春原遥って言います。あなたのお名前は?」
3「名前…僕の名前、何だっけ」
春原「わからないんですか」
3「名前を呼ばれたのって、もう、ずっと前のことだから。確か、隊長が付けてくれた名前があったんだけどな」
春原「隊長?」
3「オーシャンポリスっていう、仕事をしていたんだ」
春原「ポリス?警察してたんですか」
3「海や世界を守ってた」
春原「世界、ですか」
3「ああ。えっと、僕、人間じゃないから」
春原「ほお」
3「僕は、人間が生まれるずっと前に生まれた、神の使い、オーシャンポリス」
春原「凄い!めちゃくちゃ凄いですね」
3「よくすぐ信じれるね」
春原「信じるふりをしたら、助けてもらえるかなって」
3「僕は食べたりしないよ」
春原「そうですか。…あの、ここはどこですか?」
3「僕も、わかっていない。気づいたらここにいた。僕はてっきりオーシャンポリスの任務でここにいると思っていたのだけど、もう…何億年、ずっと誰も来ないから、本当にわからなくなってしまった」
春原「何億う!?そんなにずっと、ここに独りで!?」
3「そうだね」
春原「…トンビにメロンパン取られる方がましだと思いました」
3「どういうこと?」
春原「こっちの話です」
3「そう。あ、でもね、この穴から、外の様子が見えるんだ。気づいたら、海や陸にまでたくさんの生き物が生まれて、最近は人間が新しいことを始めるから、退屈しなかったよ」
春原「え、どうやって見るんですか?あれ!本当だ!外が見える!これ京都じゃん!」
3「京都って言うんだね」
春原「あなた、本当に不思議さんですね。もしかして、そんなに昔から生きているなら、アノマロカリスとか、見たことありますか?」
3「アノマロ…カリス」
3,様子が変わる。
3「アノマロカリス。アノマロカリス…何か、僕は大事なことを忘れている気がする。…ああ、そうだ。僕は、アノマロカリスを、倒したんだった」
春原「ええ!アノマロカリス倒しちゃったんですか」
3「ここは、あのときの、アノマロカリスの、家か」
春原「アノマロカリスの家え!!?やば、やばいやばい。アノマロカリスって家あるんだ!」
3「君は、アノマロカリスの何なの?今の世界にはいないんじゃない」
春原「そうだけど、私、アノマロカリスに限りなく近づきたいんです。あの、私にアノマロカリスのこと教えてくれませんか?」
3「面白いね、君は」
春原「私、こういうところあるんで」
3「よくわからないけど、とあるアノマロカリスがここを縄張りにしていた。僕に聞くより、自分で見てみるといいんじゃないかな。多分、部屋は5億年前のままだから」
春原「では、お言葉に甘えて、失礼します」
春原、舞台を探索する。
春原「ほわー。本当に綺麗に残っているもんなんですね」
3「僕にもわからない。でも、オーシャンポリスが何かしたんだと思う」
春原「オーシャンポリス。さっき、アノマロカリスを倒したって言いませんでした?」
3「うん。ここにいたアノマロカリスは、神に逆らった。だから僕が倒した」
春原「訳アリなんですね」
3「君、アノマロカリスが好きなんだろ?君にとって僕は悪いやつだね」
春原「いや私が別に好きではないんで。ただ、アノマロカリスになりたいだけなんで。そこ結構大事なんで。あの、聞きたいんですけど。ここにコップあるじゃないですか。アノマロカリスは4匹いたんですかね」
3「いや、アノマロカリスの他に、確か、ハルキゲニア。オパビニアがいたはず」
春原「おお!ハルキゲニア。教科書で見たことあります。本当にいたんだなあ。にしてもこの部屋、パーティーみたいな後あるんですけど。変な感じですね。あれ、あの窓みたいなのは何ですか」
3「窓…?僕も、わからない」
春原「わからないことばかりですね」
3「ごめん」
春原「大丈夫です。私も、そんな感じですから。あの窓開けます?あれれ、開かない。ふんっ…」
春原、窓を開けようとするが開かない。
3、そこにゆっくりと近づく。
3「どうしてだろう」
春原「はい?」
3「僕はこれまで、どうしてこの窓に気が付かなかったのだろう。こんなにも近くにあったのに、どうして、開けようと思わなかったんだろう。何か、この窓の奥に、大事なものがある、そんな気がする」
春原「大事なもの…。じゃあ、こじ開けますか」
3「くっ。凄く固い」
春原「離れてください。ぶち開けます」
春原、手にパイプのようなもの。(マイムでも可)
3「そんなのどこから」
春原「私、体育は5なんですよねっ!せやっ!」
窓が割れる音。
⑩3(スリー)
ハルキ、オパビ、舞台に出る。
手にはケーキ。
ケーキの上に、一本のロウソク。
春原は様子を見ている。
ハルキ「誕生日ありがとう!」
オパビ「誕生日ありがとう!」
3「…君たちは」
ハルキ「ん?どうしたんだよ。変な顔して。寝てたのか?」
オパビ「この前の、海底火山探索で私たちを案内してくれただろう。そのお礼の、誕生日パーティーさ。おーい、アノマロカリス。準備できたよ」
3「アノマロカリス?」
アノマ、舞台に出る。
アノマ「みんなお待たせ。そして…」
アノマ、クラッカーを鳴らす。
3「ひっ」
アノマ「誕生日ありがとう。サンヨウチュウ」
3「へ?」
3人「ハッピバースデイトゥーユー。ハッピバースデイトゥーユー。ハッピバースデイディア、サンヨウチュウ~。ハッピバースデイトゥーユー…」
3「あ、えっと」
ハルキ「息吹くんだよ。忘れたのか?ほら、せーのっ」
サンヨウチュウ、息を吹く。
3人、拍手。
アノマ「わーい!みんなで食べよう!オパビー博士、コップある?」
オパビ「あるよ。じゃあ、みんな乾杯!」
3人「乾杯!」
3「かん、ぱい」
ハルキ「なんか調子でも悪いのか?うい~ほら、私の変な顔を見て笑え」
3「ありがとう。…ハルキゲニア」
オパビ「何か困ったことがあったらすぐに言うんだよ。私たちは友達なんだからさ」
3「友達?」
アノマ「そうだよサンヨウチュウ。でもこれで、全員の誕生日パーティーができたね」
オパビ「前回のハルキゲニアの誕生日ケーキは、挑戦しすぎて大失敗したからな。今回はちゃんとしてるぞ」
ハルキ「やっぱりあれ大失敗だったのか!」
アノマ「面白かったね。博士といろいろ遊び始めたら止まらなくなってさ。なのにハルキゲニア、美味しい美味しいって食べてくれて。無理しないでって言ったのに」
オパビ「避けられない事故だったね」
ハルキ&3「事件だよ」
ハルキ「お?」
3「あっ」
アノマ「あはは。仲よしだね」
ハルキ「照れるからあんまり言うな。な?サンヨウチュウ」
3「う、うん。あはは…は、ははは」
3、泣き出してしまう。
アノマ「大丈夫?サンヨウチュウ。もしかして、ケーキ美味しくなかった?」
オパビ「そんな、私の研究がまたもや!すまないね、サンヨウチュウ。何か飲むといい」
3「うん。いや、あれ?あはは。何だか。凄く凄く、楽しくて。涙が、止まらないや」
ハルキ「楽しくて泣くのか。言の葉にそんなこと書いてたっけな。ま、楽しいならよかった」
3「みんなと会えて、僕は幸せだ」
アノマ「僕も~!」
アノマ、3を抱きしめる。
全員の動きが止まる。
猫背、舞台に出る。
電話をしている。
猫背「もしもーし。うん。ええ、ネッシー騒ぎはどうにかなったよ。もう当分は目を覚まさないから大丈夫。だから、後の変位種の処理は私に全部任せてくれる?はーい、私にお任せ~」
猫背、前を見て。
猫背「あれれ。面白そうな子、見いつけた」
猫背、ニヤッと笑う。
暗転。
⑪猫背隊長
舞台に、3、猫背、春原。
春原は2人の様子を見ている。
明転。
3「一体何なんですか。あなた、僕をこんなところに連れてきて」
3,猫背を払う。
猫背「あら痛い。悪い子じゃん~。駄目よ騒いじゃ」
3「僕には、帰る場所があるんです」
アノマ「サンヨウチュウー」
3「アノマロカリス、来ちゃだめだ」
猫背、3を踏みつける。
猫背「駄目って言ったのがわからない?私の言ったこともできないなんて、ばかじゃないのばーか。いい?あなたは今日からサンヨウチュウじゃなくて、そうね…3(スリー)。サンだからスリー!面白い?嬉しい?よかったねぇ、名前もらえて。これからは私と一緒に、いっぱい遊ぼうね」
3「なに、ふざけたことを。僕は、僕はサンヨウチュウだ」
猫背「はあ。本当にあなたにも知恵があるのかしら。そもそもサンヨウチュウなんかが、あんな肉食動物と吊りあうわけないでしょ。仲間のふりして、いつかあなたも食べるつもりだったに決まってんじゃん」
3「僕の友達を馬鹿にするな!」
アノマ、舞台に出る。
アノマ「サンヨウチュウ!」
3「アノマロカリス!」
猫背「あらら。耳がいいこと」
猫背、電話をする。
猫背「もしもし本部?一体を捕獲したわ。ええ。マーキングもしたから、この子の存在、世界から消してもらえる?」
アノマ「僕の友達を離せ!」
3「助けて、助けてアノマロカリス!」
雷が落ちる音。
アノマ、ぽかんとする。
アノマ「君たちは」
3「…」
3、顔を上げて。
3「こちらは、オーシャンポリス」
アノマ「あのとき、ハルキゲニアをいじめた奴らだな。こんなところまで来たのか」
猫背「ふ。ふふふ。3は偉い子ね!戻ったらたくさんご褒美しようね!」
猫背、3を抱きながら銃口をアノマロカリスに向ける。
アノマ「くそ、みんな逃げろ!敵が二人もいる!」
猫背「正解」
アノマ、舞台を出る。
照明変化。
3「こちらオーシャンポリス、こちらオーシャンポリス、カンブリア海洋保安隊であります」
敬礼。
3「こちらオーシャンポリス、こちらオーシャンポリス、カンブリア海洋保安隊であります」
敬礼。
3「こちらオーシャンポリス、こちらオーシャンポリス、カンブリア海洋保安隊であります」
敬礼。
3「こちらオーシャンポリス、こちらオーシャンポリス、カンブリア海洋保安隊であります」
敬礼。
3「こちらオーシャンポリス、こちらオーシャンポリス、カンブリア海洋保安隊であります」
敬礼。
猫背「3。物事には順番があるのよ。次撃てればいいの!あ、当たるか心配?そうね、じゃあ、いいこと教えてあげよっか」
猫背、3に耳打ちする。
3「そ、それは。確かに、奴らを追い込めますが、ですが」
猫背「何か問題?」
猫背、3をじーっと見つめる。
3「…猫背隊長。話があるのですが
猫背「話?」
3「僕がしていることは、本当に正しいことなのでしょうか」
猫背「私のお願いなのに?」
3「ですが、いくら何でも、そもそも撃って殺すなんて、やはり僕はやりかねます」
猫背「はあ。3。私は残念よ。あなたには期待していたのに、私を飽きさせないでよ」
3「猫背隊長?」
猫背、3の手を握る。
3「え」
猫背「マーキング」
3「ぐ、がは!」
猫背「これまで以上に強いマーキング。痛いけどがんばって」
3「体が、熱い!熱い!ああ!」
猫背「これからあなたは私のものよ。あなたは私なしでは動くことも、会話をすることもできない。指示に従う良いオモチャってとこかしら。じゃあ、最後に好きな言葉をどうぞ?」
3「たす、け…て」
猫背「はいおやすみ。ばいばい」
⑫昨夜は嵐と聞きまして
3、顔を下げて。
3,銃を二発撃つ。
アノマ、ハルキ、オパビ、舞台に出る。
ハルキ、オパビ、倒れる。
アノマ「ハルキゲニア…オパビー博士?」
3&猫背「動くな。オーシャンポリスだ。アノマロカリス、ハルキゲニア、オパビニア。お前たち3人は、神への罪を犯した。よって、オーシャンポリスがお前たちを裁く」
3、顔を上げて。
3『違う。こんなこと、僕が言いたい言葉じゃない』
3、顔を下げて。
猫背「アノマロカリス。あなたは確かにこの時代最強の生物。でも気づいていた?あなたは自分への攻撃には敏感だけれど、それ以外は並程度」
3&猫背「お前は、他人を守れるほど強くない」
3、顔を上げて。
3『そんなわけあるか!アノマロカリスは誰よりも強いんだ僕が一番知ってる!』
アノマ「う、うわああああ!」
アノマ、3と猫背を襲おうとする。
3、倒れたオパビを撃つ。
アノマ「お、オパビー博士」
3『博士!ごめんなさい…!』
3、顔を下げて。
3&猫背「動くなと言っただろう」
猫背「可哀想」
アノマ「なんだよ。なんなんだよ。どうして僕たちをこんな目にするんだ。僕たちが何をしたって言うんだよ。どうかしてるんじゃないか!?」
3&猫背「お前たちは、得てはいけない知恵と言葉を得た。だから裁かれる」
3、顔を上げて。
3『そうだ、僕はどうかしている』
3、顔を下げて。
アノマ「言葉を知るのがそんなに悪いことなのか」
3&猫背「そうだ」
アノマ「ふざけるな」
3、顔を上げて。
3『言葉は僕たちを繋いでくれた宝なんだ。アノマロカリスは何も間違っていない。間違っているのは僕だ』
3、これ以降、猫背の言葉に口パクで合わせて。
猫背&(3)「では言おう」
3『待って』
猫背&(3)「お前は」
3『それは言っちゃだめだ』
猫背&(3)「お前たちは」
3『絶対に言っちゃいけない言葉だろ!?そんなこともわからないのか!?』
猫背&(3)「この世界に、生まれてはいけなかったんだ」
アノマ「…!あ、ああ。ああああ。あああああ。はぁっ…ああああああ!!」
3『ごめんなさい、ごめんなさい』
3、「ごめんなさい」と謝り続ける。
ハルキ「アノマロ、カリス」
アノマ「…ハルキゲニア」
猫背&(3)「まずは2人からだ」
アノマ「おい。撃つなら僕を撃て。残った弾丸全部僕に撃て。裁きってのを全部全部僕に吐き出せよ!それでいいだろ、頼むから…もうこれ以上、みんなに悪いことをしないでくれ。頼む、頼む、頼む…頼むからさ。僕の、大事な友達なんだ」
猫背「どうせ2人もすぐ死ぬわ。好きにすれば?」
アノマ「…ありがとう」
猫背&(3)「何か最後に言い残したことはあるか?」
アノマ「僕は君たちが嫌いだ」
猫背&(3)「同感だ」
3に照明が当たる。
アノマ、ハルキ、オパビ、猫背、舞台を出る。
3「…うっ」
3、嘔吐。
3、その後ゆっくりと語りだす。
3「どうか、こんな僕の願いが叶うのなら。ずっとここで、僕の罪を償わせてほしい。そして、アノマロカリス、ハルキゲニア、オパビー博士、もし出会えたら、また僕のことを、友達って呼んでくれないかな。…。無理だよね。でも、僕は眠っている間、きっと思い出してしまうんだ。みんなと、4人で乾杯したあの日のことを…楽しかったなぁ」
3、泣き出す。
春原、3に寄り添う。
3「…君は」
春原「春原遥」
3「そうだったね」
春原「私。どうしようもなく悲しいとき、四条大橋、大きな橋を歩くんですけど。四条大橋は、その悲しい気持ちをみんな受け止めてくれて。これって、ほぼ私と四条大橋は家族じゃんって思うんですよね」
3「…」
春原「ごめんなさいキショイ話しかできなくて!何も私面白い話とか持ってなくて」
3「ううん。いいの。春原遥、ありがとう」
春原「…ひゃい。あ、お客さんが来たみたいですけど」
⑬アノマロカリスの見た夢
アノマ、ハルキ、オパビ、舞台に出る。
3「みんな」
ハルキ「すまんサンヨウチュウ。遅くなった」
オパビ「久しぶりだね。サンヨウチュウ。会いたかったよ」
3「みんな。どうして」
アノマ「僕の夢を叶えに来た」
3「夢?」
アノマ「僕の夢は、僕の友達、みんなの夢が叶うこと。だからサンヨウチュウの夢、叶えさせてよ」
3「でも僕は、みんなにあんなに悪いことを」
アノマ「僕も君に悪いことを言ってしまった。ごめんなさい」
3「ううん。僕が悪いんだ、ごめんなさい」
オパビ「はい!これで仲直りってことで!解決解決!」
3「でも、こんなことしたら、またオーシャンポリスが」
ハルキ「オーシャンポリスはもういないよ。私らがぶっ潰した!」
3「ええ?」
ハルキ「死んだら天国に行ったんだけど。天国ってのは、あいつら神の使いのアジトだったんだ。あいつら馬鹿だよなあ。私たちをそっちからアジトに連れてくなんてさ。天国で博士の手作り爆弾と、私の破滅の言の葉と、アノマロカリスのフィジカルで偉そうなやつ全員しばいた!」
3「それ、猫背隊長は!?」
オパビ「それが、神への反逆は元々その隊長のアイデアなんだ。天国で私たちを解放して、結局彼女が一番美味しいところを持っていってしまった。今ここまで私たちを案内してくれたのも彼女だ」
3「猫背隊長が?どうして」
ハルキ「何考えてるかわからねえんだ。言っても仕方ねえよ。ともかく、これでもう、いい加減なポリスもいねえし、今地球にいる人間ってのが狙われる心配もない」
3「全くさ、めちゃくちゃだよ」
アノマ「だから、これからは天国も地球も地獄も宇宙も、いろんなところを一緒に冒険しよう。僕らは友達、ずっと一緒さ」
3「…うん!」
春原「そっか。ここはあなたの夢の中だったんだ」
アノマ「君はサンヨウチュウの友達?」
3「友達だよ」
春原「へ、え、えっと、春原遥です」
アノマ「アノマロカリスです。ありがとう、サンヨウチュウと一緒にいてくれて」
2人、握手。
春原「やばい。アノマロカリスと握手しちゃった」
ネッシーの鳴き声。
岩が崩れる音。
アノマ「この音は」
ハルキ「げえ!?まさか、あの大きな体、尻尾、首」
全員「ネッシーだ!」
ネッシーの鳴き声。
ハルキ「まさか、私のネッシーと友達になりたいって夢が叶うのか!?んーそれにしては、ネッシー怖い顔しすぎじゃない?今にも襲ってきそうなんだが」
オパビ「まず大人しくさせよう。それから友達でも何でもすればいいさ」
ハルキ「おっしゃあ!さっさと終わらせて、地球の美味いもん食いに行くぜ!」
3「春原遥はどうする?」
春原「私は…元の世界に帰りたいです。好きな人もいるんで」
アノマ「じゃあ僕らがネッシーを止めておくから。この道を真っすぐ走るんだ。きっと帰れる」
春原「…はい!お邪魔しました!」
3「またね」
春原「うん!」
春原、舞台を出る。
ハルキ「さて。ちゃんと送ってやらないとな。いくぜネッシー。言葉の意味は結局わからんが、とっておきの滅びの言葉だ!」
ハルキ、前を向いて。ポーズを取りながら。
ハルキ「欠点!赤点!また来年!」
ネッシーの悲鳴。
大爆発の音。
ハルキ「待ってろ!ネッシー!!」
4人、ネッシーに向かって走り、舞台を出る。
⑭めちゃくちゃに春
春原、舞台に出る。
春原、舞台を走る。
爆発音が頻繁に聞こえる。
春原「ひい!どこまで走ればいいの!?」
複数のネッシーの鳴き声。
春原「そんな、こっちにもいるじゃん。やめて、来ないで、きゃあ!」
春原、伏せる。
猫背、舞台に出る。
猫背「にゃあ」
猫背、ネッシーを撃つ。
またもや爆発音。
春原「…黒猫?」
猫背「私は面白いことがしたかったのよ。春原遥、あなたを選んでよかった」
猫背、投げキッス。
すると路面電車の走る音。
目の前を嵐電が走る。
春原「嵐電!?」
猫背「あれに乗れば夢は覚めるから、走っておいで。また遊びましょう。ばいばい」
猫背、舞台を出る。
春原「え、ちょっと待って!待って!嵐電!」
春原、走りだす。
春原「私は真っ白な夢の中を、がむしゃらに走った。こんなめちゃくちゃな世界も、独りでいた世界よりは、不思議とワクワクしてしまった。胸に刺さったナイフはじわりと抜けてきた、未解決の事件である」
春原、走って。
春原「届け!せやっ!」
春原、ジャンプ。
嵐電に乗り込む。
春原「理科の教科書の彼らは、私よりずっと大人でかっこよかった。そりゃそうか、私より何億年も人生の大先輩じゃん!私はなんて子どもだったんだろう。私は、魚崎くんのことを何も知らないのに、知ろうともしないで、友達でもないのに、仲良くしようとしないでさ。恋なんて、話をしなきゃ始まるわけなかったんだ!私は魚崎くんと話をするのが夢だ!だから魚崎くん。家に帰ったら、中学のクラスラインから魚崎くんを追加するよ。「久しぶり!中学一緒だった春原だよ。ところで、貴君と、貴君は違うな…魚崎くん、少し電話しない?」なんだこれキショ!でも、勇気を出して電話をかけるよ。「今週遊ばない?」って聞くよ。もう、どうにでもなれ青春」
春原、電話をかける。
春原「(ラインの発信音)ててて、ててて、ててててててん。ててて、ててて、ててててててん。ててて、ててて、ててててててん。あ…魚崎くん」
春原、前を向いて。
春原「あのさ、京都国立博物館とか、興味ない…ですか…!」
ME:キャンディーズ「春一番」
映像「めちゃくちゃに春」
幕。
最後までご覧いただき誠にありがとうございます!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?