50. 尾行してたのは夫

慌てて入ったその細い脇道には街灯がない。

大きな公園沿いなので、夜はほとんど車は通らない。

その道の途中が、蓮との待ち合わせ場所だった。


約束の時間より少し遅れたが、蓮もまだ来ていないようだ。

よかった。

私はエンジンを止め、サイドミラーを閉じた。

そして、いそいで、車を降りた。

周りには誰もいない。

足早に来た道を戻る。

自分の車から100メートルほど離れたかな?

ごみ置き場か何かだろうか…道沿いで、身を隠すのにちょうどいい場所を見つけたので、そこにしゃがんだ。

そして、蓮に電話した。

つながった!!

『ごめーん!あこさん。遅くなった!
もうついてるん?今から出るから後5分位待ってて!』

「ちがうねん!私…たぶん、尾行されてる」

『え? 今、何て言った?』

「とにかく、ここには絶対に来たらあかん!」

私は簡単に説明し、とにかく、今はあまり話せないし、またこっちから連絡すると伝えた。



しばらく、その場にしゃがんで考えていた。

もし、本当に尾行されていたのなら、絶対にさっき、相手も私の車に気づいたはず。

ということは、必ずこの道に入ってくるはず……


その予感は、すぐに的中した。

暗闇の中、車のエンジン音だけが聞こえてきた。

再び、心拍数があがる。

そーっと、陰から覗いてみた。

やはり、ライトをつけてない!!

私は、息をのんだ。

車がゆっくり近づいてくる。

今、私は暗い場所にいて、車もライトをつけていない。

おまけに、最徐行してる。

つまり、その車が私の前をゆっくりと通りすぎるとき、今度は、はっきりと車内が見えた。

後部座席で、前方の私の車を指差している横顔。そして、前方を凝視してる運転手。

それは間違いなく夫の会社の部下と、夫だった。



まさに、声がでなかった。

なんで?

愕然とした。

あまりにも現実離れしたことが目の前で起こると、冷静な判断ができなくなるのだろう。

なぜか私はそのまま立ち上がり、今度は堂々とその車の行く様子を見た。

もちろんその車は、私に気づくはずもなく徐行していく。

そして、ブレーキランプがついた。

私の車を横を、更に徐行していってた。

中に誰も乗っていないことに、気づいたのだろう。

そのまま、私の車の横を通りすぎ、すぐに、右折した。



私は、何度も通いなれてる道。

その右折した先は、道ではなく、空き地だということを知っていた。


なんで?

なんで、夫が??

何してんの?! なんで??


とにかく、無性に腹がたっていた。

嫁を尾行するってどうなん?

疑ってるのなら、直接聞けばええやん?

なんなん??  

とにかく、私は怒っていた。

自分のやってる事は、とてもとても高い棚にあげて、怒っていた。

夫にそんなことまでさせてしまった、そこまで、追い込んでしまったことに、心痛めることなく、

というより、この時は、そんな冷静さなんて、一ミリも持ち合わせていなかった。

ただただ、夫に尾行された!!

という事実が、あまりにショックすぎて、驚きすぎて、、、怒りの感情しか、わいてこなかった。



私はそのまま道のど真ん中を、自分の車の方に向かって歩きはじめた。

なぜか、堂々と。

怒りに震えながら。


すると、その先程、車が右折した場所から人影が現れた。

私の車を確認してるのだろう。

バカじゃないの!!

私はそのまま、堂々と今度はその人影に向かって歩いていった。

その人影は、一旦、ひっこんだ。

でも、再び現れた。

もう私は、ほぼ、自分の車の横まで歩いてきてた。

ようやく、その人影は、私自身に気づいたのだろう。

慌てて、ひっこんだ。

そのまま、そのひっこんだ場所まで歩いていった。


やはり。

そこには、その車が止まっていた。










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