ぼた餅ァいらんかえ(4)終

喜左衛門は自責の念と恐怖で恰幅の良い身体が
すっかり病み衰えてしまい食も喉を通らなかった
仲間の次郎兵衛という者が詳細を尋ねると目を丸くし 上役に事の仔細を話し 喜左衛門に暇を出した すっかり弱ってしまった喜左衛門は歩くことが不自由になり 駕籠で村の外れにある
佐一の墓の前で行ったかと思うと土下座し 詫び証文を供え
念仏を唱えた その晩 あのぼた餅を食べた旅籠で泊まるとぼた餅ァいらんかえー…ぼた餅ァいらんかえー…と聞こえ出した時 喜左衛門はいよいよ震えだした 目をつぶっていたが 足音が聞こえ
こわごわ目を開けると 佐一が眼の前に現れ
ニカッと笑い 喜左衛門は衰弱していた後に
こんな事があったのだから そのまま息を引き取ってしまった

旅籠の者が部屋の襖を開けると喜左衛門はぼた餅をくわえたまま息を引き取っていた そして
部屋の入り口には雨に濡れた草鞋の跡があり
佐一の墓まで続いていたということだ

それから喜左衛門の家狼藉の沙汰によってお取り潰しとなり
縁戚も散り散りになってしまい今日までも行方が知れない 佐一の墓は現在は無縁仏として整理されてしまったが 時折墓の近くでぼた餅ァーいらんかえー…と聞こえてくるのだそうだ…

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