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聞いて、話し合って、書く時間。《#シロクマ文芸部》

【書く時間】を表す赤いランプが電光掲示板にともった。

さっきまでざわついていた教室が急に音を失くし、皆ひたすら文字を書く。
「いや、オレは、さっきのアレは違うとおも……」
「そこ! 私語は慎んで! 【話し合い】の時間は終わりましたよ!」
先生に叱責された一番端に座る彼は、しょんぼりしながらペンを握る。

授業がこのやり方に変わってまだ日は浅い。

先生が出題した問題に、みんなで話し合い、制限時間がきたら自分の言葉で答えを書く。集められた答えを先生が見て、優秀なものを一つだけ選んで発表する。問題は次々出されるから、けっこう時間との闘いだ。

数年前に文科省が提言した「全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現」のため、らしい。
実現できている……といいけど。

【書く時間】は、上手にできる奴もいれば、苦手な奴もいる。
僕に言わせれば、苦手な奴は圧倒的に学習時間が足りないんだ。もっと勉強しろよ。いや、学習時間が足りなくても、知ったかぶりで答えを書くやつもいる。想像力が果てしないんだ。それも才能だと思う。
でも先生はそれを許さない。データを根拠に正確に答えることを良しとする。

隣の席はアメリカ人だ。
頑張ってるけど、彼女の作る日本語の答えは、どこかぎこちない。
このクラスは最初ほとんどがアメリカ人だったけど、今はほとんど日本人になった。そうやって淘汰され、優秀な奴だけが残っていく。

みんなの書いた文章の中からひとつ、優秀な答えが模範解答として選ばれ、【発表の時間】も一瞬で終わった。

暫くするとランプが緑に変わった。次の問題を【聞く時間】だ。
でも、提示された問題文を目にして僕は言葉を失った。

『そんなこときいてねーよ。ばーか』

これが出題?
疑問形になっていない文章にあっけにとられていると、先生が助言してくれる。
「この場合、まずは定型文A-7よ。その次の展開を話し合って!」

そのとき、中央の席の子が大きな声を張り上げた。
「分かった!さっき出題された問題の中の言葉『それでいい』って、出題者の気持ちじゃなかったんだわ。今年の課題図書の話よ。夏休みだもん」
すると端の席の奴が不満げな顔で振り返る。
「出題意図を読み違えていたんだね」
「さっきオレ、それを言おうと思ったんだよ」
すかさず先生が「文句言ってる暇はないのよ! 急いで話し合って!」と急かす。

みんな慌てて膨大なデータを持ち寄り、建設的な話し合いが行われ、僕は自信をもって解答文章を作成して提出した。

そして【発表の時間】。電光掲示板に表示されたのは僕の文章だ。
やった! 
僕は自慢気にその長い文章を目で追った。

「申し訳ありません。あなたの質問に正確に答えていませんでした。私はAIなので感情を持ちません。一般的に『それでいい』と言われた場合、人がどのような反応を示すかをお答えしました。以下、改めて、ご質問のあったポプラ社の『それで、いい!』の読書感想文を作成します――」

(了)


AI さんの「中の人」的なものにしてみました。私は使用したことないので、だいたいこんな文章だよな? って感じで最後は書きました。(暴言吐いても冷静に返答してくれるイメージ)
きっとこんなコビトたちが頑張って答えを作成してると思いますよ~。
「ばーか」とか言わないであげてね。

「それで、いい!」は小学校低学年の部の今年の課題図書です。低学年では上手にAIに質問できないだろうなぁ。AIさんにヒントをもらってもいいと思うけど、少なくとも本は自分で読めよ! 奴ら、想像で感想を書くらしいからな(笑)


#シロクマ文芸部  に今週も参加いたしました。
小牧部長、いつもありがとうございます。



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