秘密警察を宣伝して《#毎週ショートショートnote》
「うちの旦那、浮気かも」
化粧室の鏡越しに同期の愛美が私に言った。
「同じ営業部の女と隠れて毎週末会ってる」
私はリップを塗る手を止めて聞いてみる。
「なんで分かったの」
「勘よ」
なんだ。
私は唇の上下を擦り合わせる。
「私、隠し事は許さない。黙って積立NISA始めたのも嫌だったし」
「あぁ、喧嘩したって言ってたね」
「え? 結衣に話したっけ」
私はティッシュで軽く口紅を押さえて頷く。
「言ってたよ」
彼が気の毒すぎると思ったもん。
「私、秘密警察を始めるわ。妻に秘密がないか調べて取り締るの。結衣の彼氏も調べてあげるね」
うわ。余計なお世話。暇な庶務課の考えそうなことね。一時期のマスク警察みたい。自分だけの正義を振りかざさないで欲しい。
「私が秘密警察を始めたって噂になれば、浮気しにくいと思うの。だから営業部の皆に私の秘密警察のこと宣伝してみて」
私は笑顔で「OK!」と答え、化粧室をあとにした。
予防効果はないと思うけど、今晩伝えておくね。
(409文字)
こちらの企画に参加いたしました。たらはさんありがとうございます。久々の410文字は短いのぅ。
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