映画「ビヨンド・ユートピア 脱北」


directed by Madeleine Gavin
Documentary Film

世界で最も閉ざされた国のひとつ、北朝鮮。
「地上の楽園」とうたっているその国は、最高指導者である金一族を神と同等の存在として、全国民に敬うことを強いる。そして一糸乱れぬマス・ゲーム、華々しい軍事パレード、そして度重なる「ミサイル打ち上げ」・・・しかし、国民の多くは貧困で飢え死にする者も多い、そして政府批判につながるような行為は些細なことでも厳しく取り締まり、死が待っている強制収容所へ送る、そういったことは全く外部に漏らさない。
しかし、祖国北朝鮮を逃れようとする者は後を絶たない。そんな脱北を試みる家族と、彼らを強い使命感で支援する人々、その間には「金次第で動く」ブローカーたちが暗躍している。
スマホや折りたたみ式携帯電話で撮影された映像は生々しい。成功するものもあれば、失敗して送り返され、その後の安否情報が実の母親にも知らされない。

このドキュメンタリー映画の主人公は、80歳の老女から4歳ぐらいの幼児までを含めた5人家族の脱北とそれを支援する韓国在住の牧師さんだ。
   その旅は単に隣の国に越境する・・・なんて生易しいものではなかった。
   まず、中国との国境の河を渡る。ここがまずかなりの難関で、命を落とす者も多い。そこから、かなりの数のブローカーが間に入る。彼らは表立って顔出しもできない。金次第で危ない仕事を引き受ける・・・彼ら無くしてこのミッションは成功しないが、彼らが一体どういう人たちなのかは明らかにならない。まぁ当たり前か、バレたら彼らだって死の危険があるし、でも、お金はちょっとでも余分に欲しい。だから駆け引きも厭わず、何度も同じ道を歩かせ、時間をかけて、余計に金を払わせることもする・・・
中国は北朝鮮に協力しているので、脱北者を捜索する・・・その目をかいくぐって、険しい山岳地帯、いくつもの河を超え、ベトナム、ラオス、という国をまたぐ。この2国も中国の息がかかっているので、脱北者を見つけたら強制送還になる。
メコン河という大河もわたり、タイ国境まで超えて、そこでタイ警察に捕まりなさいと指示を出す牧師さん・・・そこで初めて「亡命が認められる」のだ。
80歳のおばあさんが、脱北の旅の途中でもまだ「金指導者は偉大だ」と真顔で言ってた。でも、幼い娘たちは順応が早い。そして、母親も旅の途中までは「北朝鮮がそんなに酷い国とは思っていない」って感じだったけど、タイからやっと韓国に入って、周りの風景を見て、こんな豊かな国になってたことに目を見張って・・・やっと・・・「私たちの失った何十年かの時間を返してといいたい」と最後には言った。

ただ・・・ドキュメンタリー映画は、監督の演出がある。
ありのままではないのだ。
欲しいセリフ、そこでその言葉を言って欲しいとかあるだろう。
それに、どうにも気になったのが、脱北者一家の人がはめてる腕時計・・・結構いい時計をしてたように思ったのね。それってすごく気にはなった・・・

とはいえ、他方、別の家族の話で、母親が幼い息子を北朝鮮の祖父母に預けて自分は脱北し、18歳ぐらいになった息子が母親に会いに行こうと脱北を試みて失敗・・・母親がブローカーに大金を注ぎ込むも、結局、強制収容所送りになって、しかも拷問も受けていたという・・・でも、全部伝聞なんだよね。ブローカーだってどこまで本当のことを言ってるのかわからない。
 北朝鮮に残っていた祖母も結局どこか「姥捨?」みたいな山中に連れていかれたそうな・・・

そしてコロナ禍がやってきて、韓国の牧師さんは身動きできない状態で「助けて欲しい」という脱北者の声に応じられなくなってしまったのだ・・・
その国の中で、周囲のことを全く知らされず、自分たちの生活だけを全うするのが最善・・・なのかも?という気もしなくはない。
でも、人ってやっぱり「本質的に外へ外へと動く生き物」なのだとも思うし・・・
拉致被害者の、まだ日本に帰れていない人のことを思うと、なんとも複雑な気持ちになった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?