見出し画像

もういっぽん!という切なくも熱いラブストーリー

2023年冬アニメでは「もういっぽん!」にハマった。
村岡ユウ先生の同名のマンガを映像化したものである。

主人公・園田未知が、中学で辞めるはずだった柔道をある事がきっかけで再開させ、仲間とともに強くなっていく様を描いた高校女子柔道の物語である。

女子特有のコミュニティが中心なのでゆるふわな描写が多い一方、試合の迫力や駆け引きとのバランスの巧みさが見事で、まっとうな「青春部活もの」としてやり切っており、素直な気持ちで楽しむ事が出来る傑作だった。

しかし、この作品の建築方法として『切ないラブストーリー』の観点としても見ることが出来たとき、より楽しむことが出来た。(なお原作は未読です、ごめんなさい)

未知は、中学できちんと柔道を終えて高校は彼氏を作り青春のテンプレとされているさわやかなイベントたちをなぞる夢があった。この醸し出される「等身大」なテンションが作品もとい未知の魅力であるのだが、そんな未知中学時代の最後の対戦相手であるザ・柔道少女の氷浦さんと高校で再会する。氷浦さんは試合に勝っていたが、未知の柔道さばきに強く惹かれた上、未知に物申したいことがあり同じ学校へと進学し柔道部へと誘う。

未知自身は気持ちの良い「いっぽん」をキメて気持ち良く柔道を辞められなかった前提がある一方、気持ちにけじめをつけて卒業するつもりだった。それを知った氷浦さんは思いの提示として未知に挑む。そこで未知は我に身を任せて見事な「いっぽん」を氷浦さんにキメる。そこで柔道への熱が全身を覆う感覚に素直になり、入部を決める。

わかりやすい強さを表現する才能こそないものの、持ち前の明るさを試合への取り組みや仲間との邂逅に生かしていく未知は、チームメイトはもちろんライバルにさえも影響を与えてフルで己の柔道デイズを突き進んでいく。

しかし、当初の目的であった「甘酸っぱい青春」というものは柔道を充実させればさせるほど遠のいていくような錯覚をうけてしまう。最終的には関係ないことかもしれないが、未知が入部の際に決意した「柔道はやるけど、彼氏もつくる」という宣言に感動した身としては、いささか複雑な思いがある。

未知にとって本来のアプローチ先であった「甘酸っぱい青春」は、彼女のエネルギー源であった「柔道」を稼働させればさせるほど気にしなくなってしまう。両方とるという意気込みが素晴らしい反面、やはりいっぽんを目指す未知は美しく清々しく、彼女がいち選手としてオンリーワンになればなるほど恋は叶わないことを知ってしまう。

氷浦さんに初一本を決めた際の「この気持ち良さ、思い出させないでよ」時の未知の表情には、嬉しさ&悔しさが込み上げている。この感情を思い出したらきっと柔道を続けてしまうことを未知は危惧していた。でもかかったからには認めざるをえない。だからこその目標でもあったのだが、それをふまえた上で彼女の同行を伺うと切ない気持ちと成長過程がリンクするような気がして、より面白く感じてくる。

恋を取るか柔道をとるか、みたいな規模の小さい軸ではなく、夢に憧れを抱いた上で未知の柔道は突き進んでいく。儚さの中からでしか生まれない高校生らしさの信念を具体化させたドラマに、我々はひたすら心を動かされていく。彼女がたくさん「いっぽん」をとれば感動するし、その上で彼氏が出来たとしても感動するだろう。ただの天秤では終わらない「切なさ」と「熱さ」の同居があるからこそより作品が映えているのだ。

未知にとって”自分史上最強”をこれからも追い続けたい、そんな思いを奮い立たせてくれる作品だった。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?