見出し画像

4つの手

一人力と二人力

「『スイートポテトを作ったんですが、一緒に食べませんか?』というお誘いと『スイートポテトを一緒に作りませんか?』というお誘いだったら、どっちが嬉しいですか?」
とたずねたら

「(一緒に)作るか〜」
との返答がありました。


先日手に入れた巨大なさつまいも(計ったら1kgありました!)のうち500gを使いたくて、勘で一刀両断。
見事±10gの範囲内で二等分できました。
一人のときでもそこそこ嬉しいですが、「すご!なにそのスキル!」とか言ってはしゃいでくれる人が横にいると楽しさが全然違います。

さつまいもの皮を剥いていきます。
ひとりは包丁、もうひとりはピーラーで。私が包丁で手こずっていると、ピーラー使いが引き受けてくれました。「かわりにここのへこみの部分は包丁でお願いね。」

茹でる前に芋を薄切りにし、水に晒します。
私が包丁で切っていくそばから、一切れ一切れ水に入れていく相方。もちつきのように呼吸を合わせて、無駄にスリリングな作業でした。

鍋に湯を沸かし、さつまいもに火を通します。
待っている間に、卵を黄身と白身に分けてもらいました。意気揚々と引き受けてくれたものの、実際やる段になると弱気なことを言っていましたが、カラザに苦戦しつつも綺麗に分けてくれました。

頃合いを見て芋に菜箸を刺して柔らかさを確認。
「!すっと通るよ!」「どれどれ、やらせて!」
穴のあいた芋が無意味に2つ生まれました。

水気を切って、フォークで芋を潰していきます。
うちにはマッシャーなんて気の利いたものは無いので時間がかかるかと思いましたが、普段右手一本でやる作業を2つの右手でやると、なかなかはかどりました。
「飽きてきた〜、もういい?」などと言いながらも、バターや牛乳を加えると混ぜ心地が変わってご機嫌で再開してくれます。裏ごしは大変なのでやりませんでしたが、そこそこなめらかなタネが完成しました。最後に、レシピには記載のないラム酒を少し加えて終了です。

アルミカップを広げてもらっている間にタネを袋に移し、袋の先端をちょこっと切って、簡易絞り器の完成。カップが浮かないように手で抑えてもらいつつ、搾り出していきます。
ちょうど12個でき、少し残ったタネを「あれがちょっと少ない、これにも足して!」と微調整をし、使い切りました。

フォークで形を整えてもらっている横で、私は表面に卵黄を塗っていきます。そしていよいよ、あらかじめ温めておいたトースターへ。レシピには5分から10分加熱と書いてあるのに、入れた瞬間からトースターの窓に張りついて観察し、「変化ありません!」とこまめに報告してくれました。

10分経つ頃には部屋に甘い香りが漂い、表面の卵黄はこんがりと焦げてきました。

ようやく熱々のスイートポテト完成です。
絶対にやけどをするのでしばらく目だけで楽しみ、様子をみていざ実食。
出来たてはほくほくで、優しい甘さで美味しかったのですが、裏ごしはさぼってしまったし、バニラエッセンスも入れませんでした。だから、味だけで言えば私はもっと美味しいスイートポテトを知っています。
でも、2人で役割を分担して、どうでもいい会話をしながら、お互いの成功を褒め合い、失敗を笑い合ってつくったスイートポテトを、零れ落ちそうなほど目を見開いて「美味しい!」と食べてくれる人が隣にいると、そのものの美味しさなんてわりとどうでも良くなってきます。なんなら、この人となら失敗しても「美味しくない!」と笑い合えるんだろうな、という気持ちで胸があったかくなりました。


とある土曜日の、昼下がりの記録

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?