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こんなにも苦しい

ステージを終えたら
例えば
今が戦時中で
わたしは思想犯で
だからステージを終えたら
捕まって、殺される
そんなことばかり考える

それは暗い考えなのではなく
そう考えてはじめて
稽古でつくったクオリティのまま
筋肉の弛緩や
感情の流れのスピード
伸びやかに出る声
誰かに見せるためではない
それ自体として
完結した演劇体とでもいうようなものの
披露が出来る気がする
からなのだ

どうせ死ぬのだ
これが最後なのだ
そう思うと
涙が出てくる
自分を許してやりたくなる
そうして
完璧な芝居を
どうしてもやりたいと思う

異常だろうか
異常だろう
どんな異常者よりも
ある種ずば抜けて
異常だろう

プロだとかアマチュアだとかは
理性ある世界の言葉だ
たぶんわたしのような
愚かで狂気に満ちた人間には
その言葉はあてはまらないのかもしれない

苦しい
息をすることもままならぬ
舞台を
でもこんなにも愛してきた
そのためにあらゆるものを失くしても
後悔しなかった

この苦しみを
わたしは愛しているのだろう
結局のところそうだ
わたしはこの
死ぬほうが楽だと言っても
過言ではない
この苦しみを
それ故に生まれる創造の種を

その種を
どんなに…
愛しているか
わからない

つくることが
生きがいである

あと少しの時間
恐怖と対峙し
必ずその中に
己を見出したいと願う

苦しいのは
正道を歩いているからだと
信じて

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