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「ろりーたふぁんたじー」 プロローグ

あらすじ
 ドルエスト国。この国は以前、大魔王サタンにより脅かされており、魔族と人類で争いが行われていた。争いの後、魔王と勇者が互いの手を取り、今では魔族と人類では貿易が盛んに行われるほどの平和な国となっていた。
 そんな平和なある日、大魔王サタンは娘、サティを魔王部屋に呼び、サティに命令を下す。それは魔族と人類の平和の象徴として作られた学校『ピースフルスクール』に通えとのことだった。

 広く薄暗い巨大な部屋。
 入り口のドアは10メートルほどの高さがあり、木造でできている。並大抵の力では開くことができない。

 特定の魔術を持つ魔族、もしくは選ばれし勇者の力を持ってでしか入れない。

 入って中央にはレッドカーペットが敷かれており、その近くには黒の大きな柱が4つある。

 レッドカーペットの奥には小さな階段があり、その先に玉座がある。玉座の先には不思議な模様が描かれたガラスがこれもまた10メートルほどの高さである。

 そして、玉座には座っている者がいた。全身が黒のローブで巻かれ、右目だけが怪しげな光を放っている。

 大魔王、サタンだ。

「我とお主以外おらんな」

 サタンはゆっくりと迫力のある声を出す。

 声を掛けられた私は片膝を地面につき、もう片方の膝を立て、敬意を示す体勢となっている。

「はい。仰る通りです」

 大魔王、サタンはため息をつく。


「いやじゃあ、そんな硬くなんないでよサティちゃ~ん、親子じゃん。パパだよ?」


 大魔王サタン、お父様は声色を明るくし、あやすように言う。

「……そういう訳には参りません。いついかなるときも忠誠心を持ってサタン様にお仕えするのが配下のあるべき姿です」

 お父様のもとに私、サティは頭を下げたまま言う。

「そういうのいいって~。昔じゃないんだからさー。あれでしょ? ママの教えでしょ? もうそういうの古いって~。ていうか娘にそんな忠誠心持たれるパパの気持ちよ。いやたしかに洗濯物べつにしてとか言われたら傷つくけどさ。え? ていうか、べつに洗ってないよね?」

「べつに洗わせていただいております」

「ええ!? ちょっと待って! 衝撃の事実なんだけど! パパたしかにいい歳だけどそんな不潔じゃないよ?」

「これも忠誠の証です」

「どこが忠誠の証なの? 単にパパと洗濯物一緒にしないでほしいだけじゃん? あ~もう傷ついた。もう、話とかどうでもよくなっちゃったよ。もう寝ていいかな。疲れるんだよこの椅子に座ってんの。ていうかウンコしたいんだけど行ってきていい?」

父は椅子の上でもじもじと体を動かす。

「私への命令とは何でしょうか」
「ええ……完全に無視じゃん。まあ、いいや。サティちゃんにはね、ちょっと頼み事があるんだよね」
「頼み事、ですか」

「うん、学校に行ってもらいたいんだ」

「……学校、ですか?」

 今の世の中、ドルエスト国には魔王とその配下の様々な種族が住む地、勇者と人類が住む地がある。

 現在では魔族と人類は共存している。

 昔、魔王サタンと勇者の争いがあり、なんやかんやあって共存することになった。

 そして、共存の証として魔族と人類の間では資源や食料の輸出入などの貿易を行っており、ここドルエスト国は平和な国となっている。

 平和の証のひとつとして貿易がそうだが、最近ではより平和でかつ、活性化した国を作るために魔族と人類の間で学校が作られた。

「そ。その一期生としてサティちゃんに学校に入ってもらいたいわけよ」
「なぜ私が人類を栄えさせる役割を担わなければならないのですか」
「いやだから考え方が古~い。もう魔族とか勇者とかもうそういうのいいから。とりあえず国を栄えさせるのが目的だからさ。まあ、サティちゃんは俺の娘としてそういう役割を担わせるのには申し訳ないと思うけどさ、頼むよ~、この通り!」

 そう言ってお父様は椅子から立ち上がり、跪き、両手を擦り合わせる。

 私も理解はしていた。平和の象徴のために学校に行くことによって人類に敵意がないことを示すことが魔王族の目的だ。

 しかしだ。いつ勇者たちが裏切り、魔族を襲ってくるかわからない。そんな人類を手放しで信用するわけにはいかない。

「……人類をまだ信用することはできません」
「いや、信用って。色々あったのはサティちゃんが生まれる前だし、今では勇者とは飲み友だからさ。大丈夫だって。ていうかさ、たしかにサティちゃんが平和の象徴として学校に行ってもらいたいのもあるんだけさ、それだけが目的じゃないわけよ」

「と、言いますと」

「いや~俺たちもいい歳だからさ。後継者の育成をしなくちゃなんないんだよ」
「後継者とは、どういう意味ですか」
「知ってるでしょ? うちの配下の『風林火山』。うちもそうだけどそっちの方の育成も行っていきたいわけよ。ぶっちゃけさ~、俺も政治とか難しくてよくわかんないからさ。そういうのみんなでやってもらいたいわけよ」

 風林火山。風の地、林の地、火の地、山の地。この4つの国は魔族の中でも特に重要な地だ。

 昔は魔王族の秘宝をそれぞれの地に散りばめており、4つの秘宝がなければここ魔の地には辿り着けなくなっていた。

 しかし今では単なる貿易地となっている。人類との共存のための地になっているのだ。

「勇者に攻め込まれないよう魔族の守護者育成を図ってゆきたいということですね」
「え、ちょっと難しくて何言ってるか分かんないんだけど、まあ、そんな感じ?」
「…………」

 お父様はいつもこの調子だった。このような適当な父が本当にこのドルエスト国最強の魔王とはとても思えないと話す度に思う。

 後、加齢臭がキツイ。

「でさ~、サティちゃんはその辺りママに厳しく教わってるから問題ないんだけど、他の風林火山の子たちが個性的でなかなか上手く政治をやっていくのが大変らしいんだよ。だから、その子たちのね、子守りじゃないけど、傍にいてあげてほしいんだ」

「守護地の後継者の育成。仰せつかりました。至極恐悦です」

「え、なんて? 難しい言葉知ってるんだね。まあ、そういう訳だからよろしくね」
「……はい」

「あ、それとさ~洗濯物は――」

「それでは失礼します」
「えぇ、まだ最後まで言ってないのに……」

 私は立ち上がり、その場から去ろうとする。
 そのときだった――

 ドドドドドドッ!

 魔王城が揺れる。この揺れは魔王城に何かあったときのための警報装置だ。

「お父様!」
「ああ、ごめん! ウンコ漏れそう! あとなんとかしといて!」

 お父様は立ち上がり、尻を押さえる。

「何を言ってるんですか! そんな状況じゃないでしょう!」
「ごめんごめんごめん! ちょ、じゃあ、あとよろしくね。ダークテレポーテーション!」

 そう言って、お父様は魔術を使い一瞬にして姿を消した。

「……お馬鹿ジジイ。しょうがない。ダークテレポーテーション」

 私は魔王場の侵入者の場所を特定し、その場にワープする――。


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