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プロローグ 「小説:オタク病」

あらすじ
高校2年生、猪尾宅也はこよなく二次元を愛していた。そういった創作物の中のキャラクターに対してのみ、性的感情、恋愛感情を抱く、いわゆる二次元コンプレックスを抱いていた。そういった二次元コンプレックスを抱き、現実世界に興味、関心を抱かない人々の状態をこの世で『社会性欠乏障害』通称、オタク病と言われていた。そんなオタク病を持つ宅也は、同じオタク病を持つヒロイン、久遠環と出逢い、環の、二次元が世の中で受け入れられ、オタク病、オタク差別をなくすという理想を叶えるため、また、自分たちに社会性を持っていることを周りに知らしめるために偽物の恋人関係になる。

『屋上に来て』

 そう久遠環くどおたまきに言われ、俺は今屋上にいる。

 屋上には俺と久遠環のふたり。

 屋上は暑く、夏日が容赦なく俺たちを照らす。野球部員の掛け声とセミの鳴き声が聞こえる。

 なんでこんなくそ暑いところに呼び出されなくちゃならないんだ。

 俺何か悪いことしたかな。俺としては善意でやったことなんだけどな。さきほどラノベとポストカードを入れた鞄を見やる。

「ありがとう。あなたのおかげで助かったわ。わざわざここまでしてくれるとは思わなかった」

 久遠環は俺に振り返る。カーテンのように黒い、しかし一本一本が夜空のように綺麗な黒髪がなびく。前髪にかかる髪を手でわけている。

「あ、ああ」

 放課後の屋上なんてギャルゲでは告白のシチュエーションだが、それはないだろう。

 そんなことされるなんて期待してないし、べつに欲してない。

 俺の信条は『リアルには何も求めない』だ。

 何も求めない。だから期待しないし、害も求めない。
 リアルでは何事も起こらないで、ただただゆらゆらと日々が過ぎ去ってゆくことだけを祈っている。

「あなた、もしかして私と同じ・・?」

 久遠環が口を開く。
 同じ、というのは俺の状態・・と同じかどうかということだろう。

「ああ、同じだよ」
「そう。それなら都合がいいわ」
「え、何が?」

 ちょっと待って。どんな脅しが来るんだよ。怖いなあ。もう帰っていいかなあ。

 久遠は白いヘッドフォンを振れ、一瞬言い淀む。


「……っ、私と、付き合って。私の彼氏に、なって」


「へ?」

屋上に風が吹き、久遠の艶のある黒髪がなびいた――。


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