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【1982】スウェーデンでは、1975年を基準にして、2015年までの40年間を考え、2015年には自然エネルギーへの依存度を100%にしようとしている。

【1982年の卒論回顧】代替エネルギー開発におけるソフト・エネルギー・パス理論の有効性(16)

(82頁)
 
3 産業構造のソフト・エネルギー・パスとハード・エネルギー・パス
 
 エイモリー・ロビンズは「ソフト・エネルギー・パス」でエネルギー戦略におけるソフト・エネルギー・パスの可能性を論じた。そしてソフト・エネルギー・パスとハード・エネルギー・パスの根本的な異なりを、それらの持つ国内の社会的・政治的インパクトにあるとした。ソフト・エネルギー・パスは無数の小規模な装置とその改良を多数の消費者の選択にゆだねるが、ハード・エネルギー・パスは集権化された管理のもとにおいて、様々な社会的紛争の可能性をもつ困難で大規模なプロジェクトに依存するという。確かに、ロビンズの概念設計によれば、両者の相違は明白である。
 
(84頁)
 
 ソフト・エネルギー・パスをとるにせよ、所与の産業構造を想定するとき、短期的に構造転換を行うことは困難である。また、ロビンズは、エネルギーに即してソフト・エネルギー・パスの優位性を主張するが、一般化して産業構造に即してみるとき、果たしてソフト・エネルギー・パスがハード・エネルギー・パスを凌駕しているかどうかは保証の限りではない。高度産業社会の産業構造を取り囲む諸要因、すなわち世界経済、資源エネルギー技術革新、社会生活、地域社会の全体から見てソフト・エネルギー・パスをとる産業構造が、ハード・エネルギー・パスのそれよりも社会的公正をもたらし、社会的不均衡を生じないということが実証されなければならない。
 
(85頁)
 
 ハード・エネルギー・パスをとるとき、技術革新は生ずるが、それは必ずしも社会的に有用かつ必要とされる技術開発とはなりえない。技術革新がありえたとしても、社会的に無用かつ不必要な技術開発のために技術危機におちいる可能性は十分ある。
 
(86頁)
 
 日本経済が、もし高度成長期を主導した産業群を基盤に今後も路線決定を行うとすれば、これら産業群が資本多消費・労働少消費産業であるため、ロビンズの主張するように、ハード・エネルギー・パスに陥る可能性がある。他方、その路線を転換し、資本少消費・労働多消費型の産業群を、はたして日本経済全体として選択し得るか検討すると、日本経済は高度産業社会としての社会構造、産業構造を定着させているのであり、いま発展段階を過去に戻すことは不可能である。
 
(87頁)
 
 しかし、現状のエネルギー利用効率を高め、無駄をなくし、社会が必要とするエネルギー量を減少させてゆくことを忘れてはならない。
 今まで、エネルギーの需要と経済成長とは相関関係があり、経済成長をするためにはエネルギー成長が必要だと信じられてきたが、1973年以降、この関係は成立しなくなってきている。〔図Ⅳ-1参照〕

(88頁)
 
 安くて豊富に入手できるエネルギーを基礎にして、それを大量にただ消費するように社会が造られていたので、エネルギーの効率的利用を行うさまざまな機会が閉ざされていただけに、効率改善の余地がきわめて大きい。〔表Ⅳ-1参照〕

(89頁)
 
 さらに、必要とするエネルギー量を国内にある自然のエネルギー資源から得ることを考えてゆくことが必要である。
 スウェーデンでは、1975年を基準にして、2015年までの40年間を考え、その間に実質的なGNPは2倍になるとし、しかしながら、エネルギー効率の向上が製造業で20%、サービス・運輸部門で50%、民生部門で30%期待できるので、実質的にはエネルギーは37%増にしかならないと推定されている。現在の自然エネルギーへの依存度は水力発電とバイオマス(薪炭)のみで24%であるが、紀元2000年には50%、2015年には100%にしようとするものである。エネルギー供給の特性としては、一次エネルギー供給量が568TWh(石油換算4900万トン)で、このうち水力発電11.4%、風力発電5.2%(4MWの風力システムを3700基建設する)、太陽電池8.8%、バイオマス62%、太陽熱12.5%となっている(注7)。バイオマスへの依存度が大きいのは太陽輻射が比較的小さい高緯度地域には有利とはいえないが、現在の化石燃料に適合して造られた流体エネルギー依存の社会構造を大きく変えずに移行できるという点では都合がよい。エネルギー変換過程では、熱電力併給、燃料電池、地域冷暖房向け熱電力併給などが適当に組み合わされている。
 
(92頁)
 
 このような考え方に立脚すれば、発展段階を過去にもどすという発想は決して起こらないはずである。
 
第4章(注)
(1)三菱広報委員会編「みつびし3月号№197」5頁昭和57年三菱広報委員会
(2)三菱広報委員会編「前掲書」5頁
(3)三菱広報委員会編「前掲書」5頁
(4)三菱広報委員会編「前掲書」5頁
(5)菅井康司編「アウトドアVOL.4」147頁昭和54年山と渓谷社
(6)菅井康司編「前掲書」147頁
(7)槌屋治紀著「エネルギー耕作型文明」138頁昭和55年東洋経済新報社

(つづく)マガジン「ソフト・エネルギー・パス理論の有効性」に編綴


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