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教習所の呪いの巻

大学四年生の時、都内の自動車教習所に通った。
高校時代に車の免許を取っておきたかったが、柔道推薦での大学進学が決まっていた為、高校3年の1月から大学の合宿所に入ってしまう。
私の誕生日は2月27日。
なので地元の友達とウキウキ、ワクワク教習所に通うことが出来なかった。
地元の教習所に通う同級生達が羨ましかった。
違う高校でも待ち時間とかに
「〇〇高?じゃ〇〇知ってる?」とか「〇〇中出身なんだ〜」とか楽しそうだった。
私は女子との出会いしか望んでいない。
男子はどうでもいい。
何故なら、高校3年の夏、柔道部を引退した私は、進学(車の免許を取れない)を見据え、中型バイクの免許を取るために茨城県の教習所へ合宿免許に行ったのだ。

ヤンキーしかいなかった‥

そこにワクワク、ウキウキはなかった。
ただ、話してみると意外とみんな良い人ばかりだった。

途中問題を起こしていなくなる人こそいたが、それなりに楽しい10日間だった。
最終日には「免許取ったらみんなでツーリングに行こう」なんて連絡先を交換する仲になっていた。
「じゃ、齊藤頑張れよ!」
「連絡するよ」と別れた。
が、卒業試験に落ちたのは私だけだった。
金髪で眉毛も歯もないヤツも合格していた。

人は見かけによらない。

もう1泊延長して再試験を受けることになった。
なんとか合格し教習所を卒業した喜びも束の間、幕張の免許センターでの試験に2回落ちた。

いや、あんなにいやらしい、ひっかけ問題を出す意味はあるのか?
もう少しで人間不信になるところだ。だから大人は嫌いだ。
尾崎豊の気持ちが少しわかったような気がした。
学校や家には帰りたくない♪
いや、家には帰りたい。

教習所を卒業して、茨城県からそのまま船橋の親戚の家にお世話になって2週間帰っていない。
夏休みが終わってしまう。
千葉県民は幕張の免許センターで試験を受けなくてはならない。
(実家から幕張まで2時間以上かかる)
毎回、叔母さんに「気をつけて帰るんだよ」と言われて見送らせて、落ちて帰ってくる恥ずかしさは、色々な恥をかいて生きてきた私でも格別な味がした。
何が恥ずかしいかと言えば、「しっかり勉強しているのに落ちる」ことだ。
1日しかお世話にならない予定だったので、連泊に比例して夕飯が質素になっていくのはプレッシャーだった。
3度目の正直、やっとのおもいで試験に合格した。(前泊も含め4日間もお世話になった。)
叔母さんに合格の連絡を入れたら既に夕飯を用意してくれていた。
やはり私は可愛い甥っ子なのだなぁ(バカだから今日も落ちると思われてただけだ。)
教習所で出会ったメンバーにも連絡をしてみた。
もうとっくに免許を取っているかと思いきゃ、「無免許で捕まった者」や「窃盗で捕まった者」など耳を疑った。
彼らは道を外していた。
教習所だけに!
結局、ツーリングは開催されなかった。

そんな男っ気しかない教習所の経験。車の免許の今度こそ、楽しい出会いが待っていると期待した。
ところが、そんなものは無かった。
同級生もいないし、バイクの免許を持っているので、学科の授業もない。教室で一緒に学ぶことがない。しかも混んでもいないから待ち時間もない。
その分、早く免許を取れるから本来は良いのだが、味気ない。
しかし、それ以上に大きな問題があった。
教官がメチャクチャ怖かった。
そりゃ命に関わることだから、厳しいのは仕方がないのだが、特にじじぃの教官は厳しかった。
とにかく口が悪く、態度も悪い。
しかも、やたらとじじぃの教官が担当になる。
柔道をやっているので慣れてはいる方だが、運命だとしたら残酷だ。
きっと私は前世で、村のみんなが反対したのに「切ってはいけない木」を切ってしまったのだろう。
その木には神が宿っていて、その罰を今世で償っているのだろう。いや、祟りと言った方が良いかもしれない。
受け入れるしかあるまい。

そんな雨の日の教習に奇跡が起きた。
「齊藤さん、よろしくお願いします」
綺麗な若い女性の教官だった。

神はいた。

それとも前世での償いが終了したのか?
同じ教習とは思えない楽しい時間が流れた。
「カーブの前でしっかり減速するように」
彼女にとっては指導だが、私にとっては彼女との大事な約束だ!
心に刻んだ。
幸せだった。
そう思うと、いつものじじぃとの時間はなんだったんだ?
腹が立ってきた。
「月とスッポン」どころの話じゃない。
ミシュランフレンチから偶然生まれた奇跡のいちご大福「シャンパンいちご大福」の黒あんと「野糞」くらい違う。

しかし、楽しい時間はあっという間に終わってしまった。
ありがとう天使。
明日からまた、じじぃ教官と教習の深淵に臨むとしても、私はあなたとの思い出だけで生きていける。さようなら。

ところが、別れ際、天使が教えてくれた。
教官を指名出来るシステムがあるという!

な、な、なんですと!!!

しかも指名料は無料。
なんて良い店だ。いや、良い教習所だ。
だから、いつもあぶれたじじぃが私のところに来てたのか。
情弱な自分を呪った。
それからは、その教官を指名しまくった。
テイラー・スウィフトがサンドイッチと一緒に飲むのはラベンダーレモネード!と決めているぐらい、私もその教官以外に路上教習を受けなかった。
そのおかげで教習所に通うのも楽しくなり、冗談や世間話もするようになった。
もちろん恋の車間距離は充分にとっている。
私は恋のセーフティドライバーだ。
意気地無しとも言う。
やかましい!
そんなある日の路上教習
教官「あははは♪齊藤さん面白いですね〜」
私「本当ですか?普通ですよ〜」

教官「齊藤さんって、彼女いるんですか?」

恋のあおり運転だ!
仕掛けられた。
気のない人に「彼女いるんですか?」とはならないでしょ?
これは絶対に私に気がある!

しかし教官と生徒。
恋のスピード違反。
いや、飛ばしましょう!
私達を捕まえることなど誰にも出来ない。
私はなるべく自然に
「えっ、彼女は、今はいないです。」
「今はいない」ダサい。ダサすぎる。ちょっと前はいました的な。
人が言っていたら文句を言う。
すると彼女は食い気味で
「私は彼氏いますから。もうすぐ結婚しますから」

恋の急ブレーキ!

告白もしてないのにフラれた。

教官の急ブレーキにより、恋の大事故は回避されたのか?

いや、私の心に確かな凹み傷が出来ている。

残り教習はじじぃと過ごした。

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