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面の老人の家(禍話リライト)

「別にオチもなんにもない話なんですけどねぇ」

そう言ってその人は話し始めた。

◇ ◇ ◇

小学校の三年生ぐらいまで、よく行ってた家があったんですよ。
両親に連れられて。

僕、ずっとそれ、父方か母方のお祖父ちゃん家だと思ってたんですけどね。
後から知ったんですけど、どちらでもなかったみたいなんですよね。


いつも行くのは冬休みのどこかだったかな。田舎のでっかいお屋敷で。
修学旅行でみんなで寝るような、大きな和室がずっと続いてるようなとこで。

でも小四から急に行かなくなったんですよ。
その後、葬式とかで親戚で集まる機会は何度かあったんですけど、その屋敷に行くことは一度もなくて。

気になって両親に聞いてみたら、全然、詳細は教えてくれないんですけど。
とにかく親戚でも何でもない人の家だったんだって。


その屋敷に行って何をしてたかって話なんですけど。
普通にご飯とか食べて、そこに寝泊まりさせてもらって。
で、何日か経ったある日、すごい早朝に起こされるんです。

眠い目をこすってついて行くと、奥の畳敷きの広い部屋に通されて。
その床の間の前に、高齢の男性がぽつんと座ってるんです。
それがずっと僕が「お祖父ちゃんの家」だと思ってた理由なんですけど。

そのおじいさんは真っ暗な部屋で、一人で正座していて。
お面を被ってるんですよね。
こう、何ていうのかな。ただ、目と口を表す穴が開いてるだけの。
ちょうどボウリングの球、みたいな感じの。

僕はその人の前に座るように言われて。
おじいさんはただ座ってるだけで、何もしないし何も言わないんです。
正座してこっち見てるだけ。

五分、十分くらいその人と向かい合って。
それから廊下に出ると、両親以外の家の人たちがみんな外で待ってて。
それで「どうだ」って聞かれるんです。
「どうだ」ってつまり、そのお面の老人の喜怒哀楽のことなんですけど。

表情も何もわからないし、言葉も交わしてないけど、
「まぁ、笑ってたかな……」とか毎回答えるんですよね。
廊下で待ってた人たちは、すごく大きいノートみたいなのにそれを書きつけていくんです。

別に「怒ってたらよくないことがある」とかないんですよ。
ただノートに記録するだけ。
それで終わりです。


どうして小四で行かなくなったのか?
あぁ、単純にその人が死んだからみたいですよ。

なんでうちの家族が行くことになってたのかも知らないです。
ただ、お金をたくさん貰ってたっていうのは後から聞きました。


正直、よくわからないから適当に答えちゃってたときもありましたね。
だって呼吸音しか聞こえないし。
それがよくなかったのかなぁ。



この記事は、禍話インフィニティ 第二十七夜(2024/01/21配信)より「面の老人の家」(21:34頃~)を再構成・加筆したものです。

記事タイトルはwiki(https://wikiwiki.jp/magabanasi/)を参考にさせていただきました。

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