死んだ記録の落書き(禍話リライト)
【注意】この記事には動物への暴力を示唆する表現が含まれます。
ある海水浴場での話なんですけど。
友達に誘われて遊びに行って。
泳いだり、写真撮ったり。普通の夏休みですよね。
途中でお腹痛くなっちゃって、トイレに行きたくなったんです。
場所がわからなくて、少し探してようやく見つけて。
奥まった、なんか変なところにあったんですよ。
後から聞いたら、どうやらそこは今は使われてないトイレで。本当はもっと近くに新しいトイレがあったみたいなんですけど。
結構汚くて、臭いもきつくて嫌だなぁって思ったんですけど、
仕方がないからそこで用を足してたんです。
個室に入ったら、壁の落書きが目に入りました。
海水浴場とか、そういうカップルで来そうなところ、よくあるじゃないですか。日付とお互いの名前書いてフォーエバーとか。
あぁ、そういうやつかなって。
「199X年 8月○日 15時頃」
ちょうど今くらいの時期ですよね。
「この個室でねこが殺されました」
えっ。
嫌なもの見ちゃったなって、すぐ目を逸らそうとしました。
でもふと引っかかったことがあって。
90年代なんですよ。その落書きの日付け。
そんな古いの、消すじゃないですか。普通。管理人さんとかが。
あれって思ってもう一度よく見てみたら、
書き直してあるんです。消された上から。
たぶん何度も何度も。
少し離れた位置にもう一つ落書きがあって。
「← 知ってる すげーえげつない感じだったんでしょ」
矢印が最初の落書きに向かって伸びてたので、誰かがそれに対してコメントしてるんだなってわかりました。
うわ、こんなのに返事するなよって思ったんですけど。
それ、よく見たら最初の落書きと同じペンで、同じ字で書いてあるんです。
たぶん同じ人が1人で会話してるんです。
もうかなり気味悪くて、早くトイレ出たいと思ったんですけど、そういう時に限ってというか。
お腹壊してたから、すぐに出られなくて。
で、焦ってるうちにもっと嫌なことが頭に浮かんだんです。
仮にここで動物が殺されたのが本当だったとして。
「199X年 8月○日 15時頃」
殺された時間までわかりますかね。普通。
15時って、ちょうど今ぐらいの時間なんですよ。
突然、遠くのほうから大きめの足音がして。
何て言うんだろう、自分の存在をアピールしているような、わざとらしい足音で。
小さい子供が歩いてきてるみたいな足音でした。
その足音がトイレの入り口で止まって。
「パトロールに来ましたぁ」
って、中年男性の声がしたんです。
同時にバンバン!って何かを叩く音がして。
その人、金属製の棒みたいなのを持ってるみたいで。
それで壁とか床とかあちこち叩きながら、
「パトロールに来ましたぁ!」
「犯人はぁ、犯行現場に必ず戻ってくるものです!」
って、大きい声で言いながら入ってきたんですよ。
トイレに入ってるの僕だけなんです。
個室のドアが閉まってるのはここだけなんで。
あっちからしたらわかってるはずなんです。
僕がここにいるって。
わざと僕に聞かせてるんです。
バン!バン!って色んなところ叩きながらこっちに近付いてきて。
「犯人は犯行現場に戻ってくるものと相場が決まってます!」
わめき散らしながら、力いっぱい叩いたせいか、僕が入ってる隣の個室のドアが壊れたような音がして。
「あぁ~~~!!!!」
叫んだかと思ったら、ようやく出ていく気配がしました。
足音が遠ざかったのを確認して、急いでトイレを出て、みんなのところに戻って。
「お前遅かったな。トイレ見に行ったけどいないし、どこ行ってたんだよ?」
友達に言われて、そこで初めて古いほうのトイレに行っちゃったんだってわかりました。
そしたら、それ聞いてた海の家のおじさんが
「あっちは行っちゃダメだよ!おかしい人が出るんだから」
もう出ましたよ、先に言っといてくださいよ、って。
「やっぱ出たか。猫が殺されてどうのこうのって言う奴でしょ?」
「はい、そういう人でした」
「こっちも警備員さんに見回ってもらったりしてるんだけどね。
どうやら、普段は普通の人って感じみたいで、よくわからなくてさ。
格好も毎回変えてるみたいだから、なかなか捕まえられないんだよね」
あぁ、そうなんですか……。大変ですね。
おじさんは最後にボソッと言いました。
「でもねぇ、猫殺したのもそいつだと思うんだよね」
理由は聞きませんでした。
この記事は、元祖!禍話 第十二夜(2022/07/16配信)より「死んだ記録の落書き」(10:19頃~)を再構成・加筆したものです。
記事タイトルはwiki(https://wikiwiki.jp/magabanasi/)からお借りしています。
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