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日記6/2 ポイントに招かれるトラ【山月記】


 しかし、何故こんな事になったのだろう。分らぬ。
 全く何事も我々には判らぬ。理由も分らずに押付けられたものを大人しく受取って、理由も分らずに生きて行くのが、我々生きもののさだめだ。

中島敦「山月記」

5月末まで有効なポイントが消えました、と運営から通知がきた。

 最後にこの場所で日記を書いたのが4月7日、らしい。
 怒涛の4月を潜り抜け、億劫な5月を凌いでいたから、
 あっという間に6月を迎えていた。

 消失したポイントは
 そんなに大した金額ではないから、哀しみも一塩。
 とはいえ、知らぬ間に財布から百円玉が一枚零れた程度の絶望もある。

 そんな例えも、現金を使う機会の減った現代ではちょっと伝わりにくい。
 私も支払いは基本、何かしらポイントのつく電子決済が多くなった。
 時に、なぜこんなに値引きされたり、大量付与されるか疑問に思いつつ、 
 「お得だし、まあ良っか」と使用してきた。

 スマホのお店アプリでクーポンを選び、~Pay払いを選択し
 帰宅後に電子レシートで中身を確認する。

 機械音痴だから。
 個人情報取られるのが嫌だから。
 ポイントカードはかさばるから。

 そんな御託が通じたのは10年前までだろうか。
 今や、それらを利用しないと、年間の消費への影響は馬鹿にならないし
 他人がキャンペーンに当たるのを、羨み続ける生活を送る羽目になる。

 ひと昔前、スタンプやクーポンは店に来て欲しいから配るものだった。
 商店街のおばちゃんがくれるおまけ欲しさに足繫く通った流れで
 いわゆるサービス(おもてなし)な雰囲気があった、と思っている。

 だが今や、購買層データの招集合戦となっている現代。
 一人一人が違うものにハマる多様性の時代、などとはいっても。
 大まかな傾向は一緒だからと、油断しようがしまいが
 あらゆるデータを取られるのがネットで常に世界と繋がっている2024年。
 
 サービスではなく
 釣り餌であり
 顧客の抱え込みであり
 そうは言っても他の店で大規模割引があると奪われてしまう
 そんな日々の繰り返し。

 「ただほど怖いモノはない」という言葉も
 00年代、10年代、そして20年代では意味が微妙に変化している。
 
 なので
 悪徳商法や情報流出へ警句だったはずだけれど
 そのうち
 「値引きのない商品ほど恐ろしくて買えない」
 という意味になったりするかも、
 と杞憂してみる。

 そういえば
 この前も新規登録で商品半額、という言葉に釣られて、
 個人情報を大手運営に差し出した。

 後日ネットサーフィングしていると、
 先日購入した商品の関連アイテムが
 そのサイトの広告バナーとして目に飛び込んでくるようになった。

 こうして私の購買意欲を煽ってくるとは。
 折角格安で買って浮かれていたのに、財布の紐を緩めようとするなんて。

 けれど広告の商品は気になったので調べると、また別のサイトで安く購入できることに気付いた。

 仕方ない、私の個人情報で数千円安くなるのならいくらでもくれてやる、と別のサイトにも登録し、また購入する。

 しかし、何故こんな事になったのだろう。分らぬ。
 全く何事も我々には判らぬ。理由も分らずに押付けられたものを大人しく受取って、理由も分らずに生きて行くのが、我々生きもののさだめだ。

  果たして私は誰の掌で踊らされているのだろうか。
  スマホにいっぱいのクーポンとポイントアプリを詰め込みながら
  悩める虎になった気分で
  実際は招き猫の誘惑に負けながら
  今日もまた

 

 ポイント欲しさに、Noteを更新するのであった。


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