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岸田首相の突然の法解釈変更の背景:小西議員がひっくり返したのは本当か

今年10月13日に、政府による旧統一教会(世界平和統一家庭連合、以下家庭連合)への解散命令請求が行われたが、その転換点の一つが、昨年10月19日の岸田文雄首相による突然の法解釈変更の答弁だ。

前日には、解散命令請求の要件に「民法の不法行為は入らない」と答えたにもかかわらず、一夜明けた国会で「民法の不法行為も入り得る」と答弁を一転した件だ。

岸田首相が一夜で法解釈を変えた真相とは

その背景について、今年10月1日に開催された家庭連合の2世信徒らが主催の「第4回公開シンポジウム」で、宗教学者の島田裕巳さんが興味深い話をしていた。

「国会では予めどんな質問をするか出しておくけど、その中に解散請求については入っていなかったので、岸田首相は慌てて(刑事罰が必要と)答えてしまった。その後、自民党の他の議員から民事でもできると言われて意見を変えた」(島田裕巳氏)

信者の人権を守る会の第4回公開シンポジウム(2023年10月1日)

10月18日に今まで通り刑事罰が必要と答えたのは、その時は答弁を用意していなかったから、ということだ。

「そういうことだったの?」と思う人もいるかもしれないが、私には、この経緯説明がとても腑に落ちた。この頃の岸田首相の動きを見ると、昨年10月15日には解散請求に向けた調査実施の検討を始め、10月17日の衆院予算委でその意向を表明していたからだ。

政府は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題をめぐり、宗教法人法に基づく調査実施の検討に入った。宗教法人に解散事由に該当する疑いがある場合、報告を求めたり質問したりする同法の「質問権」の活用を想定している。岸田文雄首相が17日にも衆院予算委員会で表明するとみられる。15日、政府関係者が明らかにした。

産経新聞 2022/10/16

岸田首相が、遅くとも10月15日には解散請求へ向けた意思を決めていたとすると、むしろ10月18日に今まで通りの答弁をしたことの方が不自然である。

つまり18日の答弁後に指摘されて、慌てて法解釈を変更をしたというより、18日は答弁を用意していなかったに過ぎなく、19日の答弁がもともと準備されていたものだったのだろう。

従って、苦し紛れの突然の法解釈変更ではなく、ある程度の期間にわたって検討をした結果の法解釈が、「行為の組織性や悪質性、継続性などが明らかとなり、宗教法人法の要件に該当すると認められる場合、民法の不法行為も入りうる」と捉えた方がよさそうだ。

小西議員が法解釈を伝授した?

岸田首相の突然の法解釈の変更について、立憲民主党の小西洋之議員が首相に法解釈変更の理由を授けて「ひっくり返させた」と話している動画が物議を醸している。今年8月に行われた映画上映会後のトークイベントでのことだ。

小西議員は、このトークイベントで「統一教会は『解散命令は適用できない』と政府で閣議決定(昨年10月14日)してた」が、それを首相に嘘を伝授することで「ひっくり返した」と述べている。

しかし、この閣議決定は、東京新聞の報道によれば「信教の自由の趣旨を踏まえれば、… 請求は十分慎重に判断すべき」との見解が示されているが、「(解散命令に)該当する疑いがあると認めるときは質問権を行使すべきもの」とも言及されており、小西議員が言うような「解散命令は適用できない」とはなっていない。

(2022年10月)14日に閣議決定した答弁書では「(解散命令に)該当する疑いがあると認めるときは質問権を行使すべきもの」と言及する一方で、「憲法の定める信教の自由の趣旨を踏まえれば、所轄庁の関与は抑制的であるべきで、請求は十分慎重に判断すべきである」との見解を示していた。

東京新聞2022年10月18日

また、岸田首相が昨年10月19日の答弁前に小西議員と会談した時間は数分程度のようであり、その短い時間で首相の姿勢を大転換させたとは思い難い。それにトークイベントがクローズドな場であったなら、小西議員がかなり盛った話をしていたとしても不思議ではない。

従って小西議員が言う「(自分が)ひっくり返させた」は、解散請求を自分の手柄にしたいがための、トークイベントを盛り上げたいがための自慢話程度と捉えた方がよさそうだ。

信じ難い言動の背景は自分の手柄にしたいため?

ところで、岸田首相が昨年10月15日頃に解散請求に向け、具体的に動き出した理由は何だろうか。朝日新聞の報道によれば、河野太郎消費者相が主導の消費者庁「有識者検討会」の報告書に、「解散命令請求も視野に入れ、質問権などを行使する必要がある」との内容が盛り込まれていたことが関係しているようだ。

「有識者検討会」の報告書が公表されることで、家庭連合への解散請求の動きが始まれば、その手柄は河野議員のものになってしまう。それを避け、解散請求への動きを首相自らの手柄にするために、「報告書」が公表される前の10月17日に「解散請求に向けた調査実施の検討」を首相が表明したということのようだ。

そして19日に、それまでに検討をしてきた「刑事罰が必要ない法解釈」を示したと思われる。従って18日に従来通りの答弁をしたのは、答弁を用意していなかったから、というのは不自然ではないし、あり得ることだ。

いずれにしても、岸田首相、河野議員、小西議員、それぞれが家庭連合の解散請求への動きを、自分の手柄にしたい、という思惑の中で、驚くような言動があったというのが多分真相なのだろう。

そんな手柄争いのために、家庭連合の解散命令請求が利用されたならば、何とも残念で酷い話である。

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