たいした問題じゃない
乗った時はまだ空いていたのに、徐々にバスは混んできた。
「イヤッ、ここはわたしの席なの!」
突然、乗ってきたばかりの女性が、わたしの方向を指差して叫んだ。
びっくりしてこちらを見る者、逆に目を背ける者、ヒソヒソ話しする者…
私は、ちょっと考えて、
「ごめんなさい、どうぞ」
と立ち上がり、まだ空いていた席に移った。
人はそれぞれ見えている景色が違う。
その人にとっては、いつも座る席に座らなければならない、としか考えられなかった。ただそれだけのこと。
その女性は、ニコッと笑って、ペコリと会釈して、腰かけた。
次のバス停で開いた扉からふわっと入ってきた風が、初夏の新緑の匂いがした。
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