ディストピア2-8

私は教室で体操着に着替えると、運動場に向かって走った。下駄箱を出て小学校がある方向に行った場所に中学生用の運動場はあった。サッカーゴールがある場所で一同が集合すると授業が始まった。この日のスポーツはサッカーであった。冬であったため、十分間、運動場を走ってから授業が本格的に始まった。
「今日は主にリフティングとパス練習、シュート練習で試合はやらないぞ」
徳川が告げた。
「ええーーーーーー」
四組の一同が落胆した。
中学生は元気を持て余しているため、パス練習やシュート練習といったこじんまりとしたものでは満足できないのだ。とは言っても、徳川が試合をやらないと言った以上、どうすることもできないので、我々は円柱形の籠からボールを取り出し運動場にまんべんなく散らばった。私は同じ体育員だった玉木と近くにいた原島の三人でパス練習をしていた。特に何も起きなかった。雲がゆっくりと、それでいて確実に流れていくように時は流れた。授業が始まった30分が経った頃、私の頭に悪魔の企画が降りてきた。
ボールを人に当てよう。
暴力である。しかし、日常茶飯事的に行われる落とす胴上げやロッカーで行われている押死倉饅頭、人間ジェンガに比べればボールを当てるなどかわいいものであった。
「暇じゃね?」
「うん」
「うん」
私の呼びかけに玉木と原島が反応した。授業が思った以上に退屈であると感じていたのは彼らも同じだったようだ。周りを見渡してみると、みんなはそれなりに授業を楽しんでいるようだった。曇ってはいたが、震えるほど寒くはなかった。時折、運動場の前にある道路を車が横切っていたため、友人の中には注意を払いながらボールを蹴っている者もいた。
「ボールを蹴るふりして誰かに当てん?」
「おもしろそう」
玉木が私の提案に乗った。
「でも、誰にあてるの?」
「うーん」
三人は悩んだ。そもそも、今回はいつもいじられている玉木が近くにいるし、酒谷も簡単に当てられる距離にはいなかった。我々は考えに考えた結果、最悪の結論に到達した。
「徳川に当てよう。」
「あははははははははは」
玉木が渇いた笑い声をあげた。
「いいですねぇ」
どういうわけか、原島は乗り気だった。
徳川は運動場の中央に立って、バインダーに何かを書きこんでいた。
「じゃあ、やりますか」
私は持っていたサッカーボールを自分の足許に置き、体を動かし、徳川にいる方向へとボールを蹴った。はずれであった。球は徳川の足許をかすったものの体にあてることはできなかった。そもそも、球が宙に浮いていなかったため、仮に当たったとしてもたかが知れていた。玉木が転がっていたボールを取ってくると、私は新たな提案をした。
「当たった体の部位ごとに得点をつけませんか?」
「やりましょう」
僕と原島は薄気味悪く微笑した
「じゃあ、こうしよう。足に当てたら10点、腕に当てたら30点、胴体30点、顔面50点、金玉100点にして、【一番得点の高かった奴が勝ち】というとにしよう。」
「じゃあ、俺は金玉を狙うわ。」
玉木が勇気を出した。しかし、ボールは外した。大人の胴体というのはそこそこ、高い場所にあるので、距離の離れた場所から当てようとしてもなかなか成功しなかった。続いて、原島、私、玉木の順番でボールを蹴ったが、当たったところで足くらいにしか当たらなかった。そのため、各々の獲得ポイントは僅差であった。
しっかりと徳川にボールを当てるにはどうしたらよいか、そう考えているうちに授業は終盤に差し掛かり、ホイッスル―が鳴った。
「じゃあ、ボールを片付けて並んでください。」
教師のよびかけによって、生徒たちは一斉にボール遊びをやめて、足で触っていたボールを手で持ちあげると、校門側のサッカーゴールがある場所に集まった。籠の中にボールが次々と投入されていく、私も自分が持っていたボールを籠の中にいれ、整列していた。すると、玉木がボールを持ったまま、原島と話し合っていた。
「玉木、今しかない。やれ」
「いや、でも絶対バレるやん」
「今なら、金玉狙えるぞ、しかも至近距離だから精密度も高い」
彼らは未だに得点を競っていた。
「玉木、やれ、責任はワシがとる」
私は、コンビニで見つけた田中角栄の格言の本に乗っていたフレーズを馬鹿の一つ覚えのようにして使い、玉木を勇気づけた。もっとも、責任を取るつもりは毛頭なかったが。
原島につめよられていた男は、微笑すると持っていたボールを右手に持って教師のいるところへとゆっくりと近づいていった。
私は固唾を吞んで見守っていた。男は教師の背後にそおっと周り混んだ。まだ、片付けの最中であったため、それなりに誤魔化しがききそうな感じではあった。徳川の後ろにたった、玉木は数秒棒立ちした後、意を決して手元にあったボールを投げた。
トン
軽い音と共にヒットした。胴体であるために得点は30点であり、玉木が堂々の一位に君臨した。クラスメートは急な玉木の行動に困惑していたが、ことの成り行きをすべて知っている私と原島は腹が千切れるくらいにわらっていた。
「おいっ!」
徳川の怒声が外に響き渡った。玉木と徳川が自然界の天敵同士であるかのようにして目を合わせていた。数秒、お互いに様子を窺った後、徳川が手を伸ばした。すると、玉木は何を思ったのか逃走した。
「おい、逃げんな!」
徳川が玉木に対して言った。
このまま説教がはじまるのかと一同が思っていた。しかし、次の授業があったため、一旦は号令をして授業が終わった。言うまでもなく、玉木は授業後に呼び出されていたが…。
一方の私はあたかも他人事であるかのようにして、教室に戻り、帰りの道中で徳川に怒らている玉木の姿をみて笑っていた。

最終結果
1st.玉木 50ポイント
2st. 原島 20ポイント
2st. 私 20ポイント

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