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【小説】おとぎ話の世界で君ともう一度#12

第二幕 靴を落とした少女


8:ボタンの少年


「それにね、私が存在できる理由が0時の鐘なんて。。。。。
まるで、0時の鐘の呪いね。
この呪いが解けるときはいつになるのかしらね。」

そういって、エルは孤独を隠すように屋根裏部屋にある小さな窓を見つめた。
そのとき彼女は、泣き出しそうに、この世をすべてを嫌っているようなそんな顔をした。


「少し感情的になりすぎたわ。ここまでの話で何か質問はあるかしら?」

「ねぇ。エル。あなたは、なぜそんなにも多くのことを知っているの?
この物語の結末もだいたいは知ってるっていってたよね?
それは、どういうことのなの?」

「はぁ。。。。。。。りう。そうね。これは、りうには話すべきなのかもしれないわね。本当は思い出したくもないんだけど。

あれは、この物語の1個前のときよ。私が3度目の物語の中で、初めて目覚めたときから、2日後だったかしら。0時の鐘がなったとき、何かこの屋根裏部屋でもの音がしたのよ。そして、あなたのその腕にしているボタンとそっくりなボタンを持った、青年が現れたようなの。」

「ま、待って。私と同じボタンを持った人?!それは、誰だったの?!そ、その青年の名前は?!その青年の、な、名前はなんていうの?!」

「ちょっと。落ち着きなさいよ。そして、そんなに私を焦らせないで頂戴。」

「その青年の名前は、確か。。。。。。

レイ

って言ってたかしら。」

私は、その名前を聞いた瞬間あの頃の記憶がよみがえった。

”僕はレイ。よろしくね。”

「レ、、、、、、、、イ、、、、、、、、、、、、、、、、」

「なに??あなたと知り合いなの??」

私は答えられなかった。

「そう。あなたたちにもいろいろあるのね。」

エルはそう言って、私にそれ以上レイという青年との関係を聞いてくることはなかった。

「話がずれてしまったわね。話を戻しましょうか。

そのレイという青年は、たぶんあなたと同じ世界からきたと思うわ。というか、あなたのその反応からして、同じ世界の人のようね。
それから、毎日0時の鐘がなったとき、レイは、私の前に姿を現すようになった。そして、レイは無口でなにも言わなかったけれど、ただ私のそばにずっといて、私の話を聞いてくれたみたいね。私には、ちょっと気味が悪いと思っていたけれどね。でも、レイもあなたと同じで悪い人ではなかったわ。」

「ねぇ。エル。ちょっと気になったんだけどさ。エルの話のところどころで、まるでエルはそこにいなかったような、他人事みたいな話し方をしているけれど、それはなぜ??」

「それは、私が見聞きしたことだけれど、今の私が経験したことではないからよ。」

「それは、どういうことなの??」

「私もいまいちそこらへんはどういう原理でそんなことになっているのかは知らないのよね。でも、私が推測するに、この物語が結末、終わりを迎えると、本の中の人たちの記憶もリセットされるみたいね。4度目に目覚めたときも、私の以前の記憶はなかったわ。」

「じゃあ。エルはどうやってここが物語の中だって知って、この4度目の物語の前の記憶も語ることができるの??」

「そうね。それを私が知ったのは、あなたがこの物語に来る少し前ね。れいが4度目の物語の中にも現れたのよ。そのとき、あなたが持っているボタン、あのレイという青年が持っていたボタンに触れてしまった。

確か、私が4度目の物語のなかに現れた、れいという青年と初めて出会ったとき。

私は無口でなにも言わないレイのことがちょっと気になって、その腕着けているボタンのことを聞いたのよ。
でも、そのときのれいは何も言わなかったわ。

そのときね、私は気づいたのよ。そのボタンについて訪ねたとき、レイが大切そうに切なそうにそのボタンを見つめていることを。

私は、それ以上そのボタンの話には触れなかった、というか、触れられなかったわ。

そしてその日、レイがどこかに行こうとしたときに、あのボタンの紐が切れて床に転がったの。
それを私が拾おうとしたときだった。指がかすかに、あのボタンに触れた瞬間、以前の物語の記憶そして、エラが感じていたこと、私が感じていたこと、この物語の結末が一斉に頭に流れ込んできたの。
そして、その記憶には2度目の物語からずっとエルの話を聞いてくれていた、あの、レイという存在もいたわ。

その記憶を見た時に私は、頭が混乱したわ。何がどうなっているのか。
でも、時間はかかったけど徐々にわかってきたのよ。この状況をね。

だからこそね。この物語を綺麗なまんまで終わらせたくないのよ。
そして、私はこの運命に、はらわたが煮えくり返りそうになったわ。
同時に、そのことを何も知らないエラにも、この運命を変えてはくれなかったレイにも私は憎しみを感じた。だから、すべてを壊すのよ。
私は私として朝日がみられる場所まで、這い上がってやるわ。」

私は無意識に左側の肘の裾を掴んだ。

そう、エルが言ったとき、私は、なんて残酷な運命なんだろうと悲しさであふれ、あのボタンをくれた少年レイがこの物語の中にいたことを知って、私はどうしようもなく泣きたくなった。


*これはフィクションです。
物語の登場人物と現実は一切関係ありません。






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