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【小説】おとぎ話の世界で君ともう一度#22

第二幕 靴を落とした少女

18:整本師(せいほんし)

「おい。レイ。そこにいるんだろ。」


今、なんて言った?
突然のことで、頭が回らない。
でも、足が勝手に腹黒王子に向かっていく。
そのとき、
〈ブウォン〉
と音が聞こえたと思ったら

「おいおい、忘れちまったか?ここは、お前のその魔法は効かないこと。まぁいいや。」
そう言ってこちらを振り返って
やっと姿を表した…か…。ってお前誰だ?」

「っっっっっっっっ?!」

私のことが見えてる?!
ボタンにも触っていないのに!!
でも、そんなことよりも私はレイのことが気になってしょうがなかった。

「なんで、、、なんで、その人のこと知ってるの?」
「その人ってレイのことか?ってか、まずお前誰だよ。」 

そう言いながら腹黒王子は、座っていた真紅の豪華なソファーから立ち上がった。
コツコツと歩きながら腕を組み私と向かい合うように、スッと姿勢良く立った。

「あ、、、、、私はしのはら りうって言います。」
「じゃあ、お前も整本師なのか?」
「整…本…師?」
「なんだ。違うのか?」
「私は、その、ここになんか分からないけど、このボタンと本を触ったらこの世界に来ちゃって…」
「そのボタン…あいつと同じ…やっぱ、お前整本師じゃねーかよ。」
「その、あの、私はその整本師みたいなのを知らないんです。よく分からないんです。」
「ふーん。まぁ、いいや。あいつ、いや、レイのことは知ってるみたいだし、なんだかよくわかんねーけど、知らないのなら教えてやるよ。この世界のことにも関わるしな。」
「この世界のこと?」
「いや、何でもねーよ。」
「俺はアルだ。よろしくな。一応、この国の第ニ王子をしている。」

そう言って、アルは右手を差し出した。
私達は、固く握手を交わした。

「まぁ立ち話もなんだし、座って話そうぜ。」
「アッシュ、いるか?」
そうアルが言うと、背後から声がした。
「はい。いますとも。」
「気配無く、現れるなよ。びっくりするだろ。それと、紅茶を用意してくれ。」
「かしこまりました。いつもの紅茶でよろしいでしょうか?」
「あぁ。」
「りう。こいつは、俺の執事のアッシュだ。」
「よろしくお願いいたします。りう様。」
「よ、よ、よろしくお願いします。」

「で?お前は、りうは、レイのこと知りたいんだっけ?」
「そうですけど…」
「その前に、ここの世界ができた理由を知ってるか?」
「知らないですけど…知ってるんですか?」
「あぁ。知ってる。」
「どう、して、それを知っているんですか?」
「レイに聞いたからだ。」
「じゃあ、この物語の中だってことも、この物語の結末も、知っているんですか?」
「いや。ここが物語の中だってことは知ってる。けど、物語の結末は知らない。」
「そう、ですか。」
「まずは、この世界の話をしようか。」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

昔々、人間の世界では魔法を操れる者がいました。

それは、炎、水、風、土、光、闇、のように様々な魔法を宿す者達でした。

そして、文字を書くだけで物語の世界という別の世界を生み出し自由に操れる、物書きと呼ばれるそんな不思議な力を宿す者もいました。

その力はまさに、神のような力でした。

その力で、様々な物語の世界ができ、人々を楽しませてきました。

しかし、魔法の力に目をつけた人間の欲深さから人間同士の争いに使われるようになってしまいました。

そこで、世界から1人ずつ国1番の炎、水、風、土、光、闇、そして、物書きの魔法を操る者をそれぞれ集めて、魔法を封印しようと試みました。

魔法の封印に使われたのは、1冊の本。

その本の中に、全世界の魔法を閉じ込めようとしたのです。

そして、魔法の封印は無事成功しました。

しかし、年を重ねるごとに1冊の本が封印している魔法の力に耐えきれず、封印からわずか2年のあるとき。

1冊の本が全世界にある本に魔法をかけてしまったのです。

それは、人間が本を読んでいるときの嬉しい、楽しい、感動のような感情を利用し、封印する力として変えていく魔法でした。

物語の中の世界は、人間の感情をもとに世界が作られています。

だからこそ、ポジティブな感情のエッセンスがなくなってしまうと、もとの物語が形を変えて別の物語になり、残された負の感情が暴走し始めてしまうのです。

すると、読んだ人々が悲しみや憎しみに溢れ、争いの種になってしまうのです。

その暴走を止めるためにいるのが、整本師(せいほんし)と呼ばれる人々です。

物語の世界を整えることで、争いをなくそうとしているのです。

「わかったか。レイ。
これが、すべての話だ。
わしは、もう長くはない。
あとは、任せたぞ。」

そう書斎の椅子に座った祖父が言った。

「うん。わかったよ。じいさん。僕、頑張るよ!」

「そうかそうか。でも、無理はするなよ。」

そうして、俺の祖父はしわくちゃな手で俺の頭をわしわしと撫でながら笑っていた。

「うん!」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「そんな、、、、現実世界に魔法が本当にあるっていうの?」
「そうだ。」

アルは、さも当たり前かのように紅茶を優雅にすすりながら、こういった。

「そのボタンは、物語と自分とを結びつける鍵だ。もう大昔のことだから諸説あるが、そのボタンは魔法を封印したときに使用した本に入るための鍵だったそうだ。」
「これが…」
「それで?レイの何が聞きたいんだ?」
「それは、、、、、、、、、、、、、、、
なぜ、レイはこの世界にいるんですか?その整本師と関係あるんですか?
レイは、レイは、何を考えて…いるんですか?」
「ちょっ、ちょっ、そんな急ぐな。てか、質問多すぎだろ。」
「あっ、すみません。」
「なぁ。そんなにレイのことが知りたいのか?」
「っ…」
「まぁ、そんなにレイのことが知りたいなら付いてこい。」
「どこに…」
「お前はその魔法で隠れてろ。レイのこと、知りたいんだろ?」

私はレイのことが知るのが、怖かった。
なぜか、あの頃のレイが遠くなってしまうような気がして。
でも、知らなきゃ何も始まらない。

だから、私は意を決して、うなずいた。
「わかった。」



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