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【小説】おとぎ話の中で君ともう一度#23

第二幕   靴を落とした少女

20:東の塔

だから、私は意を決して、うなずいた。
「わかった。」


私は、ひっそりと透明になってアルのことを追いかけた。
真夜中だからか、王宮の中は冷たくシンッと静まり返っている。
夜空には、あの日エルが泣いた日の月明かりにそっくりな明かりだけがあった。
その月明かりだけは、静かに私たちを見ているような気がした。

私は、てくてくとアルの後を追っているといつの間にか、王宮のはずれに来ていた。
そこには、王宮とは打って変わりレンガが敷き詰められた古びた高い高い塔がそびえたっていた。
塔には、黄色の花がレンガいっぱいに咲き乱れている。
アルはその党の目の前まで来ると、私に向かって
「もういいぞ。」
と声を発した。
私は、爆発しそうな心臓を抑え、一呼吸おいてから姿を現した。
「ねえ、アル。ここには何があるの?」
「ここは、王宮の東にある塔だ。ここに何があるのかは、自分の目で確かめてみろ。ほら行くぞ。」
そういって、アルは塔の真後ろに行ってしまった。
私も急いでついて言ってみると、アルは「黄金の塔」と口にした。
その瞬間地面から光が放たれ、気が付いた時には塔の中にいた。
「アル。。。。これは、魔法。。。。?」
「そうだ。この国の最重要秘密。それがこの魔法だ。これを知っている人は数少ない。みんな、魔法のない世界で生きているんだ。この世界で。」
少し、アルは寂しそうな眼をした。
そして、アルは目の前の黄金の台に置けれている何かをトントンと指さしながらこう言った。
「これを見れば、何かわかるんじゃないのか?」
その指さしたものに少しづつ近づいて行ってみる。
黄金の台に置かれているのは、一冊の本だった。
手に取ってみると、これは、あの童話集の本であることに気が付いた。
でも、何かが違う。
表紙が同じだけで、中身を見てみると物語ではなく、呪文のようなものと何か挿絵のようなものが書かれている。
これは、魔法陣?でも、この書かれているマークは、、、
「ねえ。ここに書かれているものは、、、、」
「お前も、気づいているだろ。これは、お前の持っているボタンと同じ印だ。そして、そこに書いてあることは、お前がやらなければいけない、、、うーん、なんだ?まあ、使命とでも呼ぼうか。その使命を果たすために必要な材料と手順が書いてある。要は料理みたいなもんだ。そして、あそこ。見てみろ。」
と今度もアルが示した場所を見てみると、黄金の台の前から景色を一望できる広い窓があった。
アルの指の先の方向に目を凝らすと、にわかに光を放つ私たちが今いるこの塔と同じような塔がそこにはあった。
「あの塔は?」
「あれが、お前の使命を果たす場所だ。」
「どういうこと?」
「その本にも書いてあると思うが、お前たちがしなければいけない使命は、この物語の中に溜まっている負のエネルギーを浄化することだ。それには、お前ともうひとり、この物語の主人公の力が必要なんだ。この場所は、その主人公の塔だ。そして、この場所は、さっきも言ったように王宮から東に属している。対して、りう、お前の塔は王宮から西に属しているんだ。」
「私の使命、、、、、、、、、、。ごめんね、アル。悪いけど私は、私は、こんな使命のために来たわけではないの。レイを知ることと、自分のもといた場所に帰るために来たの!」
「あ~~~~、言ってなかったっけか。レイもこの使命を請け負っている一人なんだぞ。」

「え。。。。。。。。。。。。そんな。」

「それに、もといた場所に戻る方法もレイに繋がるヒントもこの本に書いてあるんじゃないのか?」

「でも。。。。。。」

「これは、お前にしか頼めないことなんだ。この物語が暴走し始めたら、俺も、アッシュも、みんなも変わっちまう。今も、負のエネルギーの力によって少しずつ歪んできているんだ。お前、りうも何か感じているんじゃないか?

この物語は、少しおかしいって。

その時、私の頭の中にエルとエラの顔が浮かんだ。
二重人格、、、、、しゃべる白い鳥、、、、エラの暴走、、、、、
様々なことがよみがえってきた。
私は、深呼吸をして、

「そうだね。確かにおかしいと感じたことはいくつかある。。。。。。。」

少し躊躇したが

「わかったよ。私やってみる。」

とアルに返事をした。
アルは、私の言葉を聞いて、ほっと緊張の糸が切れたみたいに溜息をついた。

「りう。ありがとう。断られるかと思ったぜ、、、、、でも、俺らのために本当にありがとう。」

そういって、私に向かって頭を下げた。
「ちょっとやめてよ!一応、この国の王子に頭を下げられるなんて、恥ずかしいよ。」
「よし。そうと決まれば、ねえ、アル。あの塔にはどうやって行くの?」

「ああ。それはだな、この黄金の台の前で、”夕焼け空”って言うと、あの塔に行けるぞ。」
「わかった。言ってみる。」
そういって、私は黄金の台の前に姿勢よく立った。
そして、
「夕焼け空」
と唱えた。
瞬間、先ほどと同じような光が地面から放たれた。




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