2章1話 オーフェン

 帝国が大陸全土に向けて宣戦布告を行ってから5年。
帝国は公国を侵略した後にいくつもの小国群を占領して更なる軍拡と戦争を行っていた。
 これに対して5大国の内の、北国アインドラ、共和国エスペンサ、南国グリムは同盟を結んで連合軍を作り帝国に対する共同戦線を張ることによって強大な帝国に対して攻勢を試みていた。

 そんな世界情勢の中で1人の少年の物語が運命と交わろうとしていた。
ここは沈黙を貫き続ける五大国の内の一つ。
その昔、騎士の存在によって台頭した国、リーメル騎士国家である。

「はあ〜〜!!?やっばーい!!!遅刻する!!!」

 少年オーフェンは焦っていた。
今日は大事な日だというのに大寝坊をしてしまったのだ。
バシャバシャと顔を洗い、慌てて荷物を整えて鞄を担いだ。
ボサボサの寝癖はそのままで家から飛び出ようとしたところで、オーフェンの母親がバタバタと走り寄った。

「待ちなさい!ほら、お弁当だよ!」

「げえ!俺もう15だぜ!?母ちゃんの弁当なんていらねーよ!」

「なんてこというの!食べないと力が出ないわよ!試験も合格できないかもしれないでしょ!?」

「あー!あー!分かったよ!ありがとっ!急いでるから!」

「いってらっしゃい!頑張るのよ!」

「ふん!」

 オーフェンは弁当を鞄に突っ込みながら母親にそっぽを向いて家を出た。
試験会場まで直走る。

「やべえ!間に合うか!?」

 オーフェンの住む街の中心地には大きなドーム状の建物があった。
それは普段はこの国の騎士たちの修練場であり、今日という日は一年に一度の試験が行われる場所でもあった。
騎士を志す者達が集まる、騎士試験。
沢山の観客に囲まれた中で100名の受験者達が集まっていた。

「ぜぇぜぇ、すぅーはあー!間に合った!!!!」

 受験者の中でも最後に到着したであろうオーフェンは息を荒げながら深呼吸をした。
そんな様子を同じ受験者である金髪ショートカットの少女がオーフェンのことを睨みつけるように見ていた。

「な、なんだよ?」

「あら失礼、これから騎士を志すという場にまさか遅刻しかけるような人がいるとは思わなくて。
時間も礼節も守れない人間に騎士が務まるのかしら……」

「は、はあ!?うるせえよ!お前誰だよ!間に合ってんだから良いだろ!!」

 オーフェンは顔を真っ赤にしながら怒りを露わにしたが対する金髪の少女は羽虫が飛んでいると言わんばかりである。

「ふん、私はイレイナ!リーメル最高の銀騎士になるんだから邪魔だけはしないでよね!」

「俺だって!」

 オーフェンは言葉を止めた。
一人の騎士が受験者達の前に設営された壇上に立ったからだ。

「皆、静粛に!これより騎士試験を始める!
私は銀騎士のディアモンテだ!此度の試験官を務める!」

 ディアモンテの登場に会場の騒めきが静まった。
オーフェンは目を輝かせながらごくりと唾を飲み込んだ。

「す、すげえ、本物の『銀騎士』だぁ……!」

 リーメル騎士の中でもさらに上位の精鋭騎士団『銀騎士』。
オーフェンが憧れている存在である。

「試験内容は二つ!

一つ!この街の南門から出てすぐにある巨大な塔を探索し20個ある銀の腕輪を一つ手に入れて戻ってくる事!

二つ!ここに戻ってきた銀の腕輪を持つ者同士で決闘を行い勝利する事!

以上だ!覚悟はできているな!
それではすぐに始めさせてもらう、試験開始だ!!!!!」

「ついにきたあああ!!!目指せ銀騎士!!!いくぜえええー!」

 一斉に会場から走り出した受験者達に混ざってオーフェンも走り出した。
まずは一つ目の試験である巨大な塔で銀の腕輪を手に入れる!

 意気込んでいたもののオーフェンは少し遅れて塔に入り込んだ。

「マズい!他の受験者達がもう奥まで行ってる!?急がねえと銀の腕輪が取られちまうかも!」

この巨大な塔は3階層で形成されており、1層毎に小さな街程の広さがある迷宮が用意されている。
各所に配置された魔導ランプによって明るく照らされてはいるが、どこか仄暗い不気味さを醸し出していた。
オーフェンが更に奥に進もうとした時だった。

「う、うわあ!なんだこいつ!」

 周囲の他の受験者の悲鳴が聞こえてオーフェンは悲鳴のした方を見た。
そこには真っ黒の怪物がいた。
それは黒い狼が二足歩行で立ち上がったような人型で身長2mの狼男。
鋭い牙と鋭い爪を持つ狼男は機敏な動きで受験者達を叩きのめしていく。

「な、なんだ?怪物!?」

「お、おい!あいつの腕!」

 狼男の腕には銀の腕輪が付いていた。
それにオーフェンが気づくと同時に更なる狼男が3体現れた。
オーフェンのいる場所には他にもたくさんの受験者がいたが、ざっと数えてオーフェンも含めて20人、対する狼男は4体だった。
突如として現れた狼男に混乱している間にも次々と受験者達がやられていく。

「おいおい、マジかよ!……どうする?」

 オーフェンは距離をとりながら考えた。
受験者達もマヌケとヘタレしかいない訳じゃない、体勢を立て直してまともに戦い出す者も現れた。
受験者がみんなやられるのを待っていたら、きっと腕輪は取られてしまう。
だから他の受験者が戦って弱った狼男を狙って倒すのが一番楽だし効率的かもしれない。

「だけど………将来騎士になるってやつがさあ、そんな卑怯な事できねえよな!」

オーフェンは背負っていた剣を抜いた。
身の丈ほどの特大剣ツヴァイハンダーである。

「てめえら下がってろ!俺が1体受け持ってやる!!」

 オーフェンが狼男の前に躍り出た。
狼男の爪をオーフェンは特大剣で受け止める。
ギャリギャリと音を立てて競り合った。

「どらああああああああ!!!」

 オーフェンは渾身の力を込めてそのまま特大剣を振り回す。
狼男の爪が半ばから断ち斬られ、更なる返す刃でその胴体を袈裟斬りにした。
深く入った斬撃によって狼男は地に倒れ、オーフェンはすかさず銀の腕輪を狼男の腕から引っ張り抜いた。

「きたああ!銀の腕輪!」

オーフェンの周囲ではまだ狼男が3体生き残っていて、受験者達が苦戦していた。

「悪いな!試験だし他は自分の力で頑張ってくれよ!俺は先に行くぜ〜!!」

狼男と受験者達を横目に迷宮から抜け出したオーフェンはウキウキで試験会場に向かって走り出した。

「ひゃっほー!おいおい俺が最速なんじゃないのぉ〜!?こりゃもしかして騎士試験ってば楽勝かもな!目覚め銀騎士!あーっはっはっは!」

だがしかし、会場に走り戻ったオーフェンの目の前には既に先客がいた。

「はっ、なにぃ!お、おまえ……!」

「名乗ったはずだけど?私はお前じゃないわ、イレイナよ。」

イレイナの手には銀の腕輪があった。

「嘘だろ!俺が一番だと思ったのに!」

「馬鹿にしてるの!?あんな弱い魔種を倒すだけの試験で私が他の誰かに遅れを取ったりしないわ!」

 そんな2人を壇上から腕を組んで見ていた銀騎士ディアモンテは口論の内容はともかくとして、オーフェンとイレイナに注目していた。

「ふむ、イレイナとオーフェンか。
少しばかり落ち着きがないが、熱意に溢れた才ある若者は好ましい。
二つ目の試験の決闘の1組目はあの2人に決まりだな。」

オーフェンはイレイナから離れて会場の隅に座った。

「ふん!なんだあの女!
まあいいや、銀の腕輪が20個揃うまでは次の試験が始まらないみたいだし、今のうちに弁当食べちゃうかあ。」

鞄から弁当を取り出して両手を合わせた。

「母ちゃんいつもありがとう……いただきます!!!!」

 それからしばらくして、銀騎士ディアモンテが壇上で手を叩いた。

「第一試験開始から2時間が経過したが、ようやく今ここに銀の腕輪が20個集まった。
よってこれより第二試験、1対1の決闘を始める!
決闘の組を順に私が指名するので名前を挙げられた者は前に出よ!
第一組はイレイナ!オーフェン!」

「「はい!!」」

オーフェンは特大剣を担ぎながら立ち上がって設営された決闘のエリアに踏み入った。
同時にイレイナも相対するようにエリアに入る。

「へー、ロングソード?シンプルイズベストってやつ?」

イレイナが手に持っているのは特に変わったところのない無骨なロングソードだった。

「特大剣なんて見栄を張って担ぐのは辞めた方がいいわよ、貴方じゃ使いこなせそうにないもの。」

「あー!おっけおっけ!喧嘩売ってるってことね?…ボコボコにしたらぁ!!」

姿勢良く佇む澄まし顔のイレイナと鼻息を荒げながら肩を怒らすオーフェン。
対照的な2人を見てディアモンテは兜の下で笑みを溢した。

「ゴホン!互いに気力は十分なようで大変結構。
先に有効打を当てた者の勝ちとする!
私が止めよと言えばその場で行動を停止しなさい。
できない場合、又は白熱しすぎて聞こえないようであれば、この私が力づくで止めて即刻失格とするので十分注意するように。

それでは、両者構えよ!!!」

ディアモンテの声にオーフェンは正眼に構えて特大剣を握りしめた。
落ち着いて様子を見よう、武器を持った敵に相対した時はまず様子見って相場が決まってるんだ。
リーチでは圧倒的に俺が勝ってるんだし。

イレイナが構えた。
地面に片手をついて、頭を低く、腰を高く。
極端に低い前傾姿勢を取った状態でオーフェンに向けて長剣を真っ直ぐに向けていた。

それはまるで槍を持って今まさに突進している槍兵のような姿。
それを見たオーフェンは思わずと言ったようにポツリと声を漏らした。

「なんだその構え…?」

「決闘開始!!」

 ディアモンテの合図にイレイナは弾かれるように飛び出した。
低い姿勢のまま駆け走るイレイナはぐんぐんと加速していき、瞬きのうちにオーフェンの特大剣の間合いに入り込んだ。

「なっ、速ぇ!」

オーフェンは慌てて低い姿勢で走るイレイナ目掛けて横薙ぎに特大剣を振るうが、イレイナは猫のような身のこなしで飛び上がり、そのままオーフェンの真上を飛び越えた。

「っ!」

ぞわりと首筋に寒気が走ったオーフェンは横薙ぎに振るった勢いのまま特大剣を手から離し、即座にしゃがみ転んでその場を飛び退いた。
放り投げられた特大剣は、弧を描きながら決闘エリアから離れたところで待機している小柄な黒髪少女の受験者の隣に、勢いよく突き刺さった。

「ぴぎゃぁぁぁぁ!!!ひえええええ〜!!」

半泣きで驚き叫ぶ少女を他所にオーフェンは振り返って上体を逸らした。

顔の前を長剣が通り過ぎていく、前髪が2.3本散るのが見えて

「そこまでだ!!!!!!」

ディアモンテが決闘終了を告げた。

「な、なんで!俺は剣がなくても戦えます!」

「いや君の負けだ」

オーフェンの横腹の前にはイレイナが片手で握った小さな短剣が置かれていた。
ディアモンテの言葉を聞いてからイレイナは短剣を腰裏に仕舞って下がった。

「そんな、いつの間に短剣なんか持ってたんだ!?」

「フン、特大剣なんて使ってる貴方の方が短剣の一つくらい持ってると思ったのに、何も持ってないわけ?
ハァ…これから先は短剣くらい持ってた方がいいと思うわよ」

「これから先って……」

「オーフェン!イレイナ!下がれ!
二組目はルイネス!メイファン!
決闘エリアに入れ!」

ディアモンテに指示されて、オーフェンは決闘エリアから退出した。
すれ違い様に小柄な黒髪の少女が特大剣をもってやってきた。

「あ、あの、ど、どうぞ!」

「え、あ、俺の剣…悪い、ありがとな」

「い、い、いいえ……」

オーフェンは特大剣を受け取ったあと、会場の隅に移動して座り込んだ。

「はあ〜……負けちまったぁ〜!
くそー、悔しいなあ、手も足も出なかったぜ…。」

オーフェンがチラリと顔を上げて見れば反対側の会場の隅にイレイナが見えた。
次の2組目の決闘を観戦しながら武器の手入れをしているようだった。

「俺も剣の手入れしようかな。
はぁ〜、こんな簡単に負けちゃダメだよな…これから騎士になるって言うのにさ……」

俺の父さんは騎士だった……らしい。
俺は父さんの顔を知らない、どんな人だったかも。
ただ知っているのは騎士だったって事と、俺が生まれてまだ間もない頃に赤子の俺を庇って死んだ事だけ。
唯一残っている父さんが使ってたって言う形見の特大剣を見て俺は思った。
騎士になろう、父さんが生きてたら守ってたはずの人達を俺が守ってやるんだって。

そう決めたのに……こんなに早く負けちゃうなんて、しかも同い年っぽい女の子に。

「だああ!!やめだやめだ!ウジウジすんな!これからもっと強くなればいいだろ!よし!まずは他の奴らを観戦して学ぼう!」

オーフェンが落ち込んでいる間に2組目は既に終わっていたがオーフェンは残りの組を真剣に見て残りの時間を過ごした。

 決闘の試験が全て終了し、ディアモンテが壇上に立ったまま受験者を整列させた。

「すべての試験が終了した。
よって、今この場で騎士試験の合否を発表させてもらう。
合格者の名前を順に呼んでいくが騒がないように。

イレイナ!オーフェン!メイファン!〜〜〜」

次々と合格者の名前が発表されていく中で、オーフェンは真剣な表情をしながら全力でガッツポーズをとっていた。

きたあああああああ!!騎士!!!合格!!!
ひゃっほー!!!母ちゃん喜ぶかなあ!!?

隣に立っていたイレイナが冷めた目で見てきていることに全く気づなかない程にオーフェンは喜んだ。

「今名前を挙げられなかった者たちは残念ながら不合格ということになるが今回だけで諦めずにまた次回の騎士試験に臨んでほしい。
残った者には追って通達があるので今日は大人しく自宅で待機するように!
それでは解散!」

ディアモンテが手を叩き解散を促す中でオーフェンは誰よりも全速力で会場を走り抜け、自宅を目指した。

「ただいま!!!母ちゃん!俺ってば騎士試験に合格したぜ!!すごいだろ!」

「まずは帰ってきたら手を洗いなさい!
全く……」

俺は手を洗いながら母ちゃんにぶーぶーと返した。

「なんだよ母ちゃん、今日くらいいいじゃん!」

「バカ言ってんじゃないの!手洗いも守れない子がどうやって人様を守るって言うの!
まあいいわ、合格おめでとうオーフェン!あなたは騎士の息子だもの、騎士になれるって信じてたわ。」

「へへへ、母ちゃんの息子でもあるからな!当然だろ!
母ちゃんは見たことある?二足歩行の狼男!すげえでかいんだぜ!?それをな!他の受験者の前で俺が〜こうやってバッサバッサと斬り捨ててさ!」

「はいはい、武勇伝は後で聞くから!そんなに元気が余ってるなら夕飯の準備を手伝ってくれる?」

「げげえ!」

そうして夕飯の手伝いや洗濯物を取り込んだりしてるうちに時間は過ぎていき、やがて我が家に一通の手紙が届けられた。

「なになに?
『騎士試験合格おめでとうございます。
貴方は騎士団の04小隊に配属になります。』
ほほ〜、全く知らない騎士隊だな!
『1週間後の朝9時に△▽地区の騎士駐屯地に集合するように』
1週間後かあ〜!それまで何すっかなあ〜、暇だってバレたら家の手伝いさせられそうだし!こっそり抜け出して特訓するか」

特訓をしながら1週間を過ごしたオーフェンが騎士駐屯地に向かうと、騎士ディアモンテがオーフェンを出迎えてくれた。

「やあ、おはよう。
体調はどうだ?」

「は、はい!!!もうばっちりっす!!!」

うおおおお!!銀騎士のディアモンテさんがいるってことは!?!俺の配属先ってこの人が隊長だったり?!?

「ははは、元気なようで良かった。
中に入ってくれ」

ディアモンテについて行って入った部屋には既に二人の先客が待っていた。
金髪のショートヘアのイレイナと黒髪小柄の少女。

「げえ!お前!」

「だからお前じゃないって言ったはずよ、私はイレイナ」

険しい表情をするイレイナとそれを宥めようとする少女の姿を見ながらディアモンテが話を始めた。

「よし!これでみんな集まったな。
私ことディアモンテと、イレイナ、オーフェン、メイファン。
この四人がこの04小隊の全メンバーだ。」

「え!この四人だけ!?」

オーフェンとイレイナが驚く中、ディアモンテがニヤリと笑った。

「ああそうだ!この部隊は少数精鋭の特殊部隊だ。
主な任務内容は、工作活動、偵察、時と場合によるが奇襲や強襲もある。
つまり君たちは選りすぐりの優秀な隊員たちであるという事だ、これからしっかり励んでくれよ?
そして、早速この後から任務がある!
隣の部屋に騎士隊服と鎧一式があるから着用したらすぐにでもここを出発するぞ。
さあ急げ!騎士は忙しいぞ!」

「ええ〜!」

オーフェンたちは慌てて隣の部屋に移り騎士隊服に着替え鎧を着ける。

「オーフェン!絶対こっちに振り返らないでよ!?」

部屋の隅を向いて着替えをするオーフェンにイレイナが注意する。

「向かねえよ!!!!お前らの下着なんか興味ねえから早く着替えろや!!!」

「全く!なんで同じ部屋でこんな男と着替えなきゃ行けないわけ?貴方もそう思わない?メイファン。」

「こ、ここって私達だけの駐屯地みたいですし…狭いですから、仕方ないですよぅ…」

「ほらみろ!文句言ってるのお前だけだぞイレイナ!」

「はあ!?オーフェンは黙ってて!!あとお前って言うな!」

ギャーギャーと騒ぎながら着替え終えた3人は駐屯地の前に集まった。
ディアモンテが馬車を用意して、紐を馬に括り付けていた。

「うむ!騎士鎧似合ってるぞ、みんな立派じゃないか!」

白を基調とした赤の装飾が入った騎士隊服と鎧を着た俺たちを見てディアモンテさんが笑顔で出迎えてくれた。

「へへ、ありがとうございます!」

この時ばかりはイレイナとメイファンも嬉しそうにしていた。
やっぱり憧れの銀騎士に認めてもらえたら嬉しいよな!

「それじゃ馬車に乗って移動するぞ、この街を出て目的地に向かうからその間に任務内容を説明しよう。
乗りたまえ!」

ディアモンテさんが御者席に座ったのを見てから俺たちも馬車に乗り込んだ。

走る馬車から見える街の風景を見ながら俺はこれからに期待を寄せていた。

どんな任務かなあ?やべえ、今更騎士になったって実感が湧いてきてドキドキしてきたぜ!

そんな俺をイレイナが冷めた目で見てきた。

「オーフェン、忙しないからじっとしてて」

「おいテンション下がるだろイレイナ、これから初任務だぜ!?ワクワクするよな!な!メイファン!」

オーフェンの言葉に小柄なメイファンは更に小さくなりそうになっていた。

「は、はぁ…ワクワクと言うか、緊張で固まっちゃいそうです……」

「あらメイファン、そんなに固くならなくてもいいのよ?このバカみたいにならなくてもいいから、もう少し気楽でも大丈夫だと思うわ」

「おい、バカって俺のことだよな?イレイナー???」

3人の様子を見て御者席でディアモンテが笑っていた。

「ははは、賑やかでいいな。
街を出たら速度を上げるからあまりはしゃいで転がらないように気をつけるんだぞ!」

 馬車が街を出て、速度を上げて街道を走り出した。
オーフェン、イレイナ、メイファンの3人の少年少女の物語が今、幕を開けたのである。

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