前川英隆

日々のよしなしごとを物語風にアップしています。画像もつけて、笑っていただけるように(時…

前川英隆

日々のよしなしごとを物語風にアップしています。画像もつけて、笑っていただけるように(時々は感動していただけるように)言葉を練り上げています。どうぞ、のぞいてみて下さい。 kindle本、出しています。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0CRBLJ13Q

最近の記事

さなぎから蝶へ

さなぎから蝶へ。 私はいつも、このイメージを持って学生時代を過ごしてきた。 大人になって、私は蝶になれたかしら…。 さなぎは固い殻に覆われた、醜い生き物。 美しい蝶になるために、今か今かとチャンスをうかがっている醜い生き物。 学生時代の私は、まさにさなぎのように、大人になって蝶として花開くのを待っている女の子だった。 ただ、待っていた。 そして、蝶のように輝きたかった。 学生時代、私はすごく目立たない子だった。 友達も少なかったから、母親からはよく心配されていた。 「香織、

    • 人生のたそがれには

      今からわしの第二の人生が始まる。 さっき30年勤め上げた会社で手続きを終えて、帰宅するところだ。 今日が最終日だった。 朝食の時、妻がささやかな退職祝いのつもりだろうか、いつもよりトーストを1枚多くつけてくれた。 あえて礼は言わなかった。 なぜなら、これは祝いでもなんでもないからだ。 ただ60になったじじいを会社から追い出すための儀式。 いつものように黙々と朝食を終え、家を出た。 家の前の通りに出ると、10月のさわやかな空気がわしを迎えてくれた。 すこしひんやりとした空気が

      • ダンケルク

        私はこの場所にずっと立っている。 君たち人間の単位でいうと…、そうだな、300年くらいか。 君たちの目から見ると、ずいぶん寂しいところにつっ立っているなあと思うことだろう。 昔は、この辺りもうっそうと木が茂っていて、にぎやかだった…。 その頃は、私の周りにいる、同僚たちがうっとおしくて仕方なかった。 いつも隣のやつより多く、太陽の光を浴びるために1センチでも1ミリでも背を高くしようとしていたよ。 私たちにとって、日光は君たちの食料と同じだから、死活問題だった。 だから、競争は

        • 俺をここから出してくれ

          あー、しんどいな…。 俺、なんで、あの時、断れなかったんだろう? もう一回、チャンスをくれ。 いや、くださいー! 神様ー! って俺も神様のはしくれか。 いやー、しかし、俺の腕と足はどこへ行ったんだ? まだこの下に埋まっているとは思うが、もう300年以上この状態だから、 本当に、あるのかどうかすら、忘れちまった…。 思えば、300プラス20年前ごろ、あのいまいましい円珍って野郎が、俺をこんな場所に閉じ込めた。 こう見えても俺はあの頃、相当悪かった。 えっ、その顔を見れば、

        さなぎから蝶へ

          無神経な男

          「ねえ。こんな大事な話をしているときに、なぜ、あなたは携帯をいじっているの?」 「あっ。ごめん。今ちょっとメールが来たから」 「そんなに重要なメールなの? あなた、今の状況わかってる? 今、私たちの結婚生活をどうしようかっていう話をしているのよ」 「だけど、もう君の答えは出ているんだろう?」 「そう…、だけど。あなたはそれでいいの?」 弘子は今、目の前の無神経な男と別れるかどうかの話をしている。 それなのに、この男はご覧の通り、携帯をいじったまま、彼女と目を合わせようともしな

          無神経な男

          「良心」という面倒でやっかいなもの

          雪がすべてを覆いつくしている。 きれいな雪景色だ。 寒さが身に染みる季節が、本格的にやってきたことを実感する。 雪はすべてをシンプルに見せる。 すべてを白で覆いつくしてくれるからだ。 複雑なもの、単純なもの。 きれいなもの、汚いもの。 派手なもの、陰気なもの。 世界に知ってもらいたい、誇らしげなこと。 世界からは隠したい、自分だけの秘密。 夏のように露骨な季節は、それらすべてを世界をさらけ出す。 それらを醜いと感じる者もいるだろう。 もしかして、雪がすべてを覆いつくすシンプ

          「良心」という面倒でやっかいなもの

          さらば、友よ

          おーい、アスラーン。 あいつ、本当にアブジャに旅立ったのかなあ。 アスランは昨夜から消息を絶った。 おれはアスランがどこへ行ったのかを知っている。 アブジャに新天地を求めて旅立ったのだ。 おれにとって、それはうらやましいことだった。 うらやましさは、彼の行動力のあこがれに向かっていた。 また、アスランという未知な男を再考させらる出来事でもあった。 彼はまさに、おれにとって「得体の知れない」男であった。 アスランは今日、職場に来なかった。 朝礼の後、上長が心配しておれに話しか

          さらば、友よ

          そろそろ過去を捨てて

          ねえ、あなたは最後まで私に振り向いてくれなかったわね。 あの日から急にあなたは冷たくなった。 ねえ、どうしてなの? あら、嫌だ。 傷は癒えたはずなのに、このタンポポを見ていると、思い出してしまったわ。 あれからもう7年。 このタンポポの種のように、あなたは風に乗って、どこかへ行ってしまった。 そう、ちょうどこんな風に軽やかに… あの日までのあなたは本当に優しかった。 まるでお姫様のように手をかけて扱ってくれたわね。 レストランでは必ず椅子を引いてくれたし、私の体に触れると

          そろそろ過去を捨てて

          至福の時間

          仕事終わりにリビングで過ごす数時間が私の至福の時間だ。 コンポでビルエバンスのピアノをかけながら、ソファに沈み込む。 お気に入りのカップに少し濃いめのコーヒーを淹れて、足なんてこんな感じで思いっきり伸ばしちゃう。 お店でこんなことをすると、すぐに店長のお小言が飛んでくるけど、ここなら大丈夫。 なぜなら、ここは私のスウィートホームだから。 私は本当にこの時間が好き。 仕事終わりの心地よい解放感と充実感に浸りながら、軽く目を閉じる。 今日はお客さんの入りが、本当に少なかった。

          至福の時間

          パリの風景

          私は秋になると、この場所に来てしまう。 そう、この川沿いのお気に入りの場所に。 ここは花の都、パリ。 パリにはいろいろなものがそろっている。 ルーブル美術館にエッフェル塔に凱旋門、それにシャンゼリゼ通り。 もちろん私もお上りさんのころは、そんな場所に入り浸っていた。 今はあの頃より少しおばさんになって(だいぶかな…)、そんな余所行きの パリよりもっとくつろいだパリのほうが好きになった。 スーツでバシッと決めたイケメンより、リラックスしたジャージのおじさんのほうが 一緒にいて

          パリの風景

          秋という名の牢獄

          秋はもの悲しい。 夏というお祭り騒ぎが中心にあって、それが次第に小さくなり、消えていく。 気が付くと、あの騒がしい季節はすでに過ぎ去っている。 騒がしさは煩わしいものだ。 人間を含めたすべての動物が「自分は生きているんだ」という生々しさを 嫌というほど、ぐいぐいと押し付けてくる。 若い時はもちろん押し付ける側にいるが、年を取ってきて押し付けられる側に回ると この生々しさが耐えられなくなってくる。 押し返す力も次第になくなり、夏という名の季節を、ただただ耐え忍ぶしかなくなる。

          秋という名の牢獄

          翼をください

          この空はどこまで続いているのだろう? 僕はよく自分の背中に翼がついていたら、どんなにいいのにと思うことがある。 そうすれば、ガキ大将のベンにもいじめられないで済む。 だって、なぐられそうになったら、ぴょんと飛んじゃえばいいんだもの。 そして、上からこう叫んでやるんだ。 「殴れるものなら、なぐってみな」ってね。 ベンの驚いている顔が目に浮かぶようだ。 それを想像するだけで、顔がにやけてくる… それに母ちゃんのお使いだって、すごく楽になる。 だって、隣町のスーパーマーケットだっ

          翼をください