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昏き闇切り裂く眩き光~異・ウルトラマンA~

空想(こういうヤツが見たかった)特撮シリーズ

第0回プレヒストリア2

<MAT誕生譚>

 天変地異とそれに続く、世界規模での怪獣の出現頻発。

 TDF建制以前なら「怪獣退治の専門家」の二つ名で呼ばれた科特隊の出番だったが、彼らが本来の特異事件を解決する国際間警察という役割に立ち戻ってから、時が経ち過ぎていた。
 前回も記したように、各国支部の規模は縮小され、対怪獣用重火器の類いはすべて封印、支部によっては廃棄されていたのだ。これでは怪獣退治など不可能である。
 そこで地球防衛機構(Wold Defence Organization/WDO)は、新たに怪獣退治を特化した国際組織の設立を、新編された国連安全保障理事会新に提案した。

 それがMATである。 旧TDFと大きく異なるのは指揮権の在処だった。旧TDFは各国の武力として用いられることを避けるため、その指揮権は駐留する主権国にはなく、あくまでも国連軍事参謀委員会(Military Staff Committee/MSC)に在った。 しかしMATの指揮権は各国に設置された上位機関、日本なら内閣府の外郭組織として立ち上げられた地球防衛庁(Global Defense Agency/GDA)、ひいては政府が有していた(当初は地球防衛省として組織されるはずだったが、防衛省と族議員からの猛烈な反発を受け“庁”とされたという)。

 それゆえ、時として政争の具にされることがままあった。有名なところでは、MAT隊員に殺人疑惑が生じたキングボックル事件がある。
とまれ、MAT条約決議を新安保理は承認、MATの世界各国配置が開始された。その勢いは強く、旧地球防衛軍に参加しなかった中東諸国のみならず、第三世界の国々も怪獣の被害を受けていたので、続々とMAT条約に加わった。
 装備、機材は既存の兵器を用いる国が多かったが、1950年代から世界で最も怪獣災害が頻発していた日本は、独自の対怪獣兵器開発計画を立ち上げようとした。彼らは経験上、怪獣とは合理を越えた超自然的存在であり、人間同士の戦いを想定して開発された軍事兵器では対応できない個体が出現することを、知悉していたのだ。
 TDF時代、異星人が巨大生物を兵器として送り込んできた例もあったが、数としては少ない上に、貴重なそれらとの交戦記録はゴース星人事変で日本以外失ってしまっていた。
 そのためほとんどの国が国軍にMATとしての任を負わせることを選択したのだった。

 だが日本では科特隊が重火器を組織縮小の際に廃棄処分しており、ゆえに対怪獣兵器開発計画を立ち上げざるを得なかったのである。
 が、対怪獣用とはいえ、日本か独自に兵器開発を行うことに、ホワイトハウスは眉をひそめた。
 米国政府と兵器関連企業は対怪獣用にと、自国の兵器を日本に売りつける積りだったのである。しかも日本の対怪獣兵器計画の中には航空機や潜水艦もあった。
 兵器計画を外交圧力で止めさせるという意見も出たが、日本はもはや敗戦後の昭和時代のような、なんでも言うことを聞く便利な従属国ではなかった。もしそのような時代の様に、外交圧力で装備品(しかも現物はこれから開発せねばならない)を買わせようとすれば、国同士の関係にヒビが入ることは間違いなかった。また、兵器関連企業の不興を買うだろう。来るべき予備選挙のためにはそれも避けたい。

 さらに台湾防衛のためには日本との協調は必要不可欠であり、安全保障の分野で彼らの不興を買うのは得策ではなかった。
 当時の米国大統領は辛うじて賢明な判断が出来る人物であったことが幸いし、外交圧力などの強硬的な手段は破棄された。

 次に出たのが共同開発計画を持ちかける手だった。そもそも兵器開発には金がかかる。日本は依然として経済大国だったが、それでも大幅な増税を招くことは必至だろう。
 だが他国との共同開発となれば話は別だ。それに対怪獣兵器については日本に一日の長がある。彼らを計画の中枢に据えれば、無駄なく対怪獣用兵器が開発できるのでは?という腹積もりがあった。
 すぐさま国務省、国防総省、商務省などの政治家と高級官僚たちは日本に飛び、米国には珍しく低姿勢で共同開発計画を提案した。
 対怪獣用兵器の開発と調達には増税が避け得ない現実に頭を悩ましていた日本政府は、心の中では小躍りしつつも、それを隠しつつ米国の真意を探った。
「なんだ、あっちも似たような事情なのか」
 米国の腹の内を知った政府は隣敏の情をわずかに抱きながら、この計画案を受け容れた。
『日本と米国、対怪獣用兵器を共同開発』
 このニュースを知った英国、EUは即座に計画への参加を、日米両国に打診してきた。
 対怪獣対策といっても結局つまるところは鍵は金であり、日米に申し出を断る理由はなかった。
 中国やロシア、イランなどの反米色が強い国は、西側陣営主導のこの計画に、当然難色を示した。対怪獣用兵器と言っても兵器は兵器。それらが人間、つまり敵対国に向けられない保証はない。
 この辺りは、中東問題にはニュートラルな日本の外交力が力を発揮した。中国やイランについては何を言っても無駄だし(かの国はTDFにさえ参加しなかった)、モスクワが無人の廃墟と化したため、国内の民族紛争に掛かり切りなロシアの発言力など、国際社会ではたかがしれていた。
 そういう政治のいざこざを横目に、MATの組織作りと並行し、対怪獣用兵器開発が始まった。
 こんな人間の事情など知ったことかと、怪獣は世界中で出現し続けた。米軍、NATO軍、イラン軍など世界各国の軍隊が、ミサイルを始めとした様々な兵器で怪獣を攻撃した。
 怪獣も超自然的存在ではあるが、結局は生物である。従来の火器でも倒すことは出来た。
 が、それは各国軍が保有する兵器のほぼ全てを投入しての結果であることがほとんどだった。経済的観点からすれば、あまりにも効率が悪かった。
 やがて計画反対派fだった国々も厳しい現実を前に白旗を上げ、計画の支持を表明した。
 開発計画は科特隊の兵器運用記録を持つ日本と、兵器開発を得意とする日米主導の下で進んだが、それでも英国など欧州勢およびイランやトルコが提供する技術もまた、計画推進に大きく役立った。
 こうしたすったもんだの末に、MATは誕生したのである。

マットアローType1(上)とマットアローType2。対怪獣戦闘を念頭に置いたため、戦闘機としては異様ともいえる頑丈さを誇っており、既存の対空ミサイルでの撃墜は困難だという。日本では1号と呼ばれるType1は並列複座型で、精密攻撃を必要とされ局面では大いに活躍した。2号つまりType2は単座で、ファン・イン・ウイングを備えており、運動性に優れている。

 開発が終了した兵器は続々と各国で生産され(その際に国情に併せてマイナーチェンジを施された物もある)、いよいよMATは起動を開始した。 対怪獣用兵器は十分な威力を発揮し、怪獣たちを駆逐していった。 やがてMATは地上監視衛星を保有するだけでなく、旧TDF時代に建造・運営されていたVステーションシリーズも、編入していった(その後V3は宇宙怪獣の襲撃を受け喪失)。 人類は再び怪獣の脅威に対する力を手にしたのだ。

<閑話>

 ちなみにMAT設立を最も歓迎し、最も嫌ったのは自衛隊であった。旧TDF時代、主権国の国軍はリソースの問題から戦力は縮小傾向にあり、任務は対外戦争と災害対応に制限されていたのである。
 異星人の脅威が現実問題になっても、人類同士が争うことが全くなかったわけではない。否、外宇宙からの脅威を前にしてもイスラエルとアラブ勢力の抗争は止まなかったし、ゴース星人事変によって欧米が壊滅的被害を受けると、彼らを敵視する武装勢力は活気付いた。
 ゆえに人類全体ではなく国家(と国民)の防衛こそ第一義とする自衛隊は、TDFが解体されたことで国防の一線に戻れると考えたのだ。
 そしてそれは現実のものとなった。
 ただ他国はいざ知らず、自衛隊(防衛省)にとって予想外な出来事が生じた。
 自衛隊は当然防衛省の内局になると考えていたGDAが、内閣府直下の組織として発足したのだ。
 当時の内閣府はGDAつまりMATへの影響力を強くするため、その実戦部隊の指揮官級隊員には旧TDFからではなく、自衛隊から求めた(当時の総理は防衛相経験者だった)。
 防衛省と統合作戦本部は、自分たちの組織から優秀な人材を実際に出すことに、渋い顔を見せた。
 誰だって優秀な人材は手元に置いておきたい。なぜならMATに引き抜かれるのは、貴重且つ優秀な幹部隊員であることは明白だったからだ。
 しかし新組織に凡庸な人物を差し出したら、原隊だけでなく防衛省や自衛隊に冷たい視線が向けられることは想像に難くない。
 結局、彼らは渋々と内局や部隊から優秀とされる人物をMATに移籍させた。そこには「せめて新組織への影響力を持ちたい」という、政治的願いが込められていたことに、果たして気が付いた人はどれほどだろう。
 ちなみに彼らが優秀な人材の移籍を決意したのは、厚労省は当然、外務省からの移籍や出向が多いことを知ったためらしい。厚労省はともかく、MATは国際組織である以上、外務省からの移籍や出向は避けられない。
 下手をしたら、GDAの長官が元外務省キャリアになりかねない。
 これまで海外派遣任務で痛い目に逢ってきた防衛省、否、自衛隊としてはそれだけは避けたかったのだ。
 水面下の死闘に末、GDA長官は元陸将補に決定した。この陸将補は旧帝国陸軍時代から高級将校を輩出した家柄の出だった。
 しかし彼の陸自時代の指揮能力についての評価は対して高くなく、どうして選抜されたのか、首を捻る向きもあった。
 理由は当時から色々と取り沙汰されたが、つまるところは防衛省長官が差し出したい人材だったこと(実際は優秀な指揮官だったというが、感情的且つ独善的で敵が多かった)という、実に生臭い話が真相だったらしい。

地球防衛庁初代長官。GDAはいわゆる軍政担当で、MATの実戦指揮は隊長が執る。


<異次元からの襲来>

 ある種の政治的産物であるMATだったが、彼らはそんなことはお構いなく任務に邁進した。危機的状況は一度や二度ではなかったが、それでも日本国民の期待によく応えた。
 そのMATをして異星人の基地侵入を許し、往時の科特隊や旧TDF以上の損害を被ってしまった。
 こうなったらさらに強靭な基地、否、要塞を建造するべきだ。日本の意見は朝野を問わず一致した。
 これが、先述したように地下要塞建造が承認された理由と背景である。

 こうして再建なったMATだが、やがて想像を絶する苦難に直面した。
超獣の襲来である。


次回更新はいよいよ超獣の出現とMAT壊滅です。

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