階段を転がる太陽が飲み込んだ黴と暗闇の匂いを僕はスカートの中から見ていたが、太腿を伝って流れ落ちる水はいつまで経っても蒸発することはなく、夕焼けの空を飛び回るカラスが一羽残らず死に絶えるまで少女の肋骨は回転し続けていた。校庭に散らばって有機的な図形を描いているカラスの死体を清掃員のおじいさんがトンボで掃いて集めている。彼は時おりカマキリの前脚のように曲がった腰を伸ばし首にかけた青いタオルで汗を拭う。老人の皺だらけの手には苛烈な慈愛と峻厳な柔和が刻み込まれていて、短く切り揃えられた爪に反射する西陽は遠い銀河の中心を貫通し、スイミングスクールでクロールをする子どもみたいに僕の瞳孔にタッチしてまた老人の指先に還っていく。そうやって半永久的に、夏の熱い日、素麺の入った胃袋を揺らしながら弟と行う退屈なキャッチボールの如く往還する光の線を断ち切るように、僕は踊り場の窓から離れ、階段を一段飛ばしに駆け降りて、下駄箱へ向かった。


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