研究レポートNo.28【ピンチ?orビンタ?】
サキちゃんは一向に戻ってこない。
ガクブルな私はクールを装ってタバコに火を点けた。
「……ふぅ~。終わったかも」
約5分が経過した。
とても、とても長く感じた。
ガチャン
「お待たせ~、はいお茶」
「あ……あざっす」
サキちゃんは二人分のお茶を手に戻ってきた
。
「ビンタしてほしいなんてお客さん初めてだから、びっくりして喉乾いちゃった」
サキちゃんは、あくまでもお茶を取りに行ってきたことを強調するが、それは口実に過ぎない。
お茶が目当てならば、「お茶もってくるね」と、一言私に伝えて出ていくはすだ。
おそらく──
「……ねぇ、ビンタだけしてほしいっていうキモ客来たけど、どうする?」
「あ~、あの客、最近常連になってさ。マジでビンタだけらしいから、ラッキーって他の女の子が言ってたよ」
「ふ~ん。じゃあ、いっか」
──こういうやり取りがなされたのだろう。
まぁいい、ビンタさえ頂ければ、私はどう思われようとかまわない。事実、常人からみたら私はキモいからな(自覚済み)。
よし、交渉再開だ。
「ビンタはOK?」
「いいけど、本当にそれだけでいいの?」
「勿論」
「私、ビンタしたことないよ?大丈夫?」
「ないの?」
「ないよ~。てゆーか、普通に生きてたら人生でビンタすることないでしょ?」
「確かに」
こんなやり取りが数分続いた後、サキちゃんはようやく首を縦にふった。
「じゃあ、お願いします」
8ミリビデオカメラを回し、撮影開始。
まずは理想に近いその美手を撮影させてもらおう。
うん……いいね、とても綺麗だ。
では、念願のビンタへ。
とりあえず手慣らしに軽めのビンタを注文。サキちゃんは私の頬に手を添えて──
ピシッ!ピシッ!
……指。
人生初のビンタだ。躊躇もするだろうし、上手くミートすることは出来ないか。
ならばレクチャー開始。
「指じゃなくてさ、手のひらを当ててほしい」
「え?ここで?」
パン!パン!
お……いいじゃん。
大きな手のひらが私の左頬にピタリと張り付く。
理想の手によるビンタの旨味は、ここからだ。
続く。
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