〜性産業の不都合な真実〜 売買春は人間の心身の健康に非常に有害であり、売買春の合法化で女性への暴力はむしろ増えるいう事実(スウェーデンの研究等から)

日本において売買春は、売春防止法により、タテマエ上は禁止されている。
しかしそれは買春者処罰規定がなく、不特定の相手との金銭のやり取りがある本番行為のみを売春と規定するザル法であり、実際の運用上も

「売春を客とキャストの自由恋愛と言い換えればOK」
「本番OKと明記していなければOK」
「AVは不特定の相手とのセックスではないし、報酬はセックスへの対価ではなくAV出演への対価なので売春ではない」

と抜け穴満載である。
そのため、多数の風俗店・風俗サービス(ソープランド、ファッションヘルス、ピンサロ等)が野放しにされ、撮影された売春であるAV/ポルノビデオ量産され、「パパ活」等でも性売買が行われるなど、売買春が横行しているのが現状である。

ソープはともかく、デリヘルやピンサロは本番行為をしていないのだから売買春ではない!という主張があるかもしれない。
しかし、レイプの定義は海外諸国でも日本でも「口、性器、肛門への性器または体の一部または異物の挿入」である。
つまり性交類似行為とされ、売春防止法の適用外である口淫及び肛門性交が含まれるのだ。
これは、最近の性犯罪関連法において、性交類似行為が性交と同等のものとして扱われていることを示している。
よって、売春防止法でも同等に扱われ、禁止されるべきである。
そうなった場合には、全国の風俗サービス提供業者はほぼ全て一発アウトだろう。

警察庁のデータによれば、店舗型の風俗業(ソープランド、店舗型ファッションヘルス等)は全国に約2000店、無店舗型の風俗業のうちデリバリーヘルス等は約20000店、アダルトビデオ通信販売を行っている業者は約3000ある。
また、届出をせずに個人で売春する場合もあり、それはデータには含まれない。
大久保公園の「立ちんぼ」と呼ばれる路上売春女性の写真を目にしたことがある人もいるだろう。

このような女性達を日本人男性の48%が買っている。(AVを利用したことのある男性は84%)
つまり、男の二人に一人が女を買ったことがある国に、私たちは生きているのだ。
これは海外諸国と比べても非常に高い数値であり、日本人男性にとって買春へのハードルが低いことを示している。(買春したことのある男性は米国で約15%、英国では約11%、韓国では約23%、中国では約8%)

なぜ日本において性産業がそれほどに(悪い意味で)隆盛を極めているかという経緯については、今ここでは論じない。
今回のテーマとしたいのは、現実問題の方ーー売買春がセックスワーカー(この呼称については色々な意見があるが、今回は世に広まっているこの呼び名を用いる) の心身に与える悪影響についてである。
「パパ活」などといかにも気軽にお小遣い稼ぎができるかのような呼ばれる売春行為(AV出演含む)は、実は非常にリスキーで危険、かつ人間の心身の健康に非常に有害である。

今回は、Melissa Farley氏他がAV出演経験のあるセックスワーカー約百人に聞き取り調査をしたスウェーデンの研究『スウェーデンにおけるAV産業の害: 撮影された売春はそうでない売春と地続きである』(日本語版)、及びジャーナリスト、ジュリー・ビンデル氏の記事『合法化された売買春はいかにスイスを性的人身売買の拠点に変えたか』を参考に売買春の有害性について考えてゆきたい。

※本記事では、AV/ポルノを売買春の一形態として扱っています。

性産業の真実: セックスワーカーの約七割は児童性虐待サバイバーで自傷行為として売春しており、半数超が心を病んでおり、AV出演者のPTSD発症率は拷問サバイバーとほぼ同値である

イギリスのジャーナリスト、ジュリー・ビンデル氏によれば、チューリッヒで売春する女性の半数以上がアルコール依存症を含む精神疾患を患っていた。

また、Melissa Farley氏らの調査報告書(『スウェーデンにおけるAV産業の害: 撮影された売春はそうでない売春と地続きである』)では、AV/ポルノに出た人の実に81%がPTSDを発症したという。
これは拷問サバイバー(88%)に近い値(英語版 p.56) であり、退役軍人女性(13%)と比べても非常に高い数値である。
売春・ポルノ制作過程において、半数以上が暴力を振るわれたことがあり、84レイプされたことがあり、77頭部外傷を負っており、89言葉の暴力を受けたことがあった。
しかし、調査対象者のうち約半数が暴力行為を警察に通報していない。ろくな捜査をしてくれないと感じているというのがその理由だった。

このようにしばしば激しい暴力にさらされることで、セックスワーカー達は慢性的な集中力の低下、腹痛、記憶力の低下、頭痛、摂食障害、希死念慮、関節痛、吐き気等に悩まされている。
こういった状況に対しどんな支援を望むかという問いに対し、回答は多い順に、
個人カウンセリング(65%)、ピアサポート(当事者同士の自助グループ)(59%)、ヘルスケア(46%)、セルフディフェンスのトレーニング(40%)、安全な住居(37%)、法的支援(34%)だった。

また、同調査では、AVに出演した人の七割以上が児童性虐待のサバイバーであり、71%がセックスを、63%が売春自傷行為として使っていることも判明した。
すなわち、虐待被害者が自傷行為として売春するケースが多い
このような状況で性売買を合法化したとき、どんなに彼らが「進んでセックスワーカーになった」ように見えても、実際にはセックスワーカーの脆弱性に付け込んだ搾取でしかないのである。

「売買春を合法化すれば女性への暴力は減る」という神話: 真実はその真逆である

性売買を合法化したスイスでは女性への暴力が増加

性売買が合法化されたスイスを取材した記者、ビンデル氏によれば、

(性売買を合法化すると)性感染症を封じ込めたり女性に対する暴力を抑制するよりもむしろ、女性に対する暴力を悪化させ蔓延させる

『合法化された売買春はいかにスイスを性的人身売買の拠点に変えたか』


ことになるそう。(太字は筆者強調)
ビンデル氏によれば、これに有効なのが北欧モデルの性売買抑止法で、

性を売ることは合法のままで、それに従事する女性は犯罪化されないが、性を買う行為やピンプ行為は違法とされ……スウェーデンでそれが1999年に導入されて以降、人身売買や女性に対する暴力の事案は劇的に減少した」という。

『合法化された売買春はいかにスイスを性的人身売買の拠点に変えたか』

以前、「売買春を厳しく取り締まるとアングラに潜って女性達が更に危険に晒されるから合法化して管理売春の方がマシ」と言っていた「学者」の方がいたが、実態はこうなのだ。
合法化すると市場が拡大して売春斡旋業者(時に犯罪組織。スウェーデンの研究では約四分の一のケースで犯罪組織が関与していた)のやりたい放題になり、女性が守られない
日本も実質合法みたいなものだが、だからこそAV出演強要問題とか暴力AVとか風俗での暴力・性感染症感染・望まぬ妊娠被害などがある。
だから法規制しかないというのが現実である。
それにあたり、上述した通り北欧モデルは非常に有用である。
ただし、この法規制を導入したスウェーデンにおいては、導入後路上売春は激減した一方で、AVを含むネットでの性売買は増加したというデータもあるため、同時にネットでの性売買規制も必要である。

AVを見ると、男性は女性をモノとして認識し始め、暴力的になる

また、AVを含む売買春がより女性への暴力を助長する根拠として、AVによる脳への害が挙げられる。
オクラホマ州立大学教授のJohn Foubert氏によれば、男性がAVを見ているときに活性化するのは脳の「モノを認識する領域」である。
すなわち、画面の女性を人間として認識していないのだ。
そして人間というのは人間に対するよりも物に対しての方が暴力的になるものであり、AVが女性を非人間化するのを視聴することで男性が現実の女性に対してもより暴力的になるのは十分にあり得ることである。
そして女性を非人間化するAV撮影そのものが、被写体となる女性への暴力である。

また、AVの多くには男性から女性への暴力シーンがあるが、それに対する女性側の反応のほとんどは無反応か喜びである。
よってAVというのは、セックスとは暴力であると視聴者に教え込み、我々の社会に害をなしているという。

売買春問題と女性の貧困問題は表裏一体

日本は「経済買春制」である


これらの調査、研究でわかるのは、「セックスワークイズワーク」ではないということである。
半数が精神を病む職業はまともな職業とはいえない。
「セックスワークイズブラックワーク」と言う方が正しい。
そんな仕事に就く女性がなぜいるか?

それは、上述の「自傷行為としての売春」に加え、経済的事情による。
これを私は、米国において貧困家庭の子が軍人にならなければ貧困から逃れられない状況が作られている「経済徴兵制」をもじって「経済買春制」と呼んでいる。
経済買春制とは何か?
それは簡単に言えば、女性を貧困状態に置き、その解決手段として売春させるシステムのことである。

とある芸人が「コロナが明けたら(金に困った)可愛い子が風俗に落ちてくる」とのたまった通り、性産業というのはやむをえない事情がない限り誰もがやりたくないブラックワークであり、それをやらざるを得ない女性がいるのは、まずもって女性が貧困だからだ。

だから、性売買規制と同時にこの貧困問題を解決し、サポートを提供する必要があるわけで、法規制だけしても現状それで生計を立てている女性達は困ってしまう。
だから、女性の貧困問題と性売買問題は表裏一体なのである。

日本における女性の貧困の現状

現在、日本における女性の貧困問題は深刻であり、平均収入は男性の75%程度しかない。
また、中でも母子家庭の貧困率は高く、約半数相対的貧困であるにもかかわらず、養育費を受け取っているのは4人に1人である。
更に、単身女性の貧困率が高いことも明らかになっており、20〜64歳の単身女性の24.5%、65歳以上の46.1%が貧困状態で、これは国の平均貧困率15%を大きく上回る。
この背景には、正規雇用より低賃金で福利厚生がない非正規雇用七割を女性が占めているということがあげられる。

まとめ

以上の調査・研究結果からわかることは、

①AV出演を含む売春はセックスワーカーの心身に大きなダメージを与えるブラックワークであり、

②セックスワーカーの多くは性虐待サバイバーで自傷行為として売春をしている。

また、
③売買春を合法化した国においては女性への暴力がむしろ増加したのに対し、法規制を設けた国では減少し、

④AV/ポルノは女性への暴力を助長する。

そして日本においては、
⑤女性の貧困問題が深刻であり、それに付け込むようにして経済買春制が敷かれている。

すなわち、セックスワークというのは、決して一部の男たちが信じたがっている「セーフティネット」などではない
現実はその逆、非常に危険でリスキーな仕事なのである。
そして売買春が実質合法で、女性の貧困問題が深刻な日本においては、弱い立場にある女性を売春へ追い込み、性を買い叩く構造が出来上がっている。
このような現実を直視し、買春者と売春斡旋業者のみを処罰する罰則を設け、セックスワーカーへの支援を手厚くし、女性の貧困問題を解決することが必要である。

もちろん、海外の調査結果だからあてにならない、という反論もあるだろう。
ならばなおさら、日本国内におけるセックスワーカーの大規模な実態調査が必要である。
彼ら、彼女らの子供時代の虐待経験、経済状況、心身の健康状態、売春・AV制作過程でどんな被害を受けたか、どういったサポートを必要としているかを明らかにし、日本のセックスワーカーがどういった現実に直面しているのかを把握する必要がある。
例えば「セックスワーカーは定期的に性病検査を受けているか」などという買春者目線の調査は、性売買の実態を把握するうえでほぼ意味がないのだ。

よって日本においても、スウェーデンで実施されたような当事者に寄り添った調査研究が急務であると考える。
ただしその結果は、海外において既に多くの先行研究がある通り、売春が人間の心身の健康に有害であるということを補強する結果になる可能性が高い。
よってその結果を踏まえ、日本においても北欧モデルの性売買規制、及びセックスワーカーへの支援女性の貧困問題解決に向けた施策を打つべきである。

最後に:AV制作を含む売買春が根絶されるべき理由――売買春は人間の性的自由の権利の侵害である

私は、AV出演を含む売買春は一律に禁止すべきだと考えている。
なぜなら、実態調査からも分かる通り、性産業でセックスワーカーの身の安全は全く守られておらず、彼らは日々激しい暴力と虐待行為に晒されている。
また、もしそれが守られたとしても依然として性売買の一切は法律で禁じ、買春者と売春斡旋業者を取り締まるべきである。
それは、望まぬ相手と非常に侵襲的な性的接触をしなければならないということそのものが、人間の性的自由の侵害であると考えるからだ。
売買春はペイレイプ(金銭が支払われるレイプ)であり、いかなる人間もそのような「仕事」をすべきではない。
そして、トラウマを抱えて自らそれを(自傷行為として)望む人々に必要なのは「仕事場」ではなくケアである。
そのような理由で、私は性売買というものは一律に禁止されるべきだと思っている。

日本における性産業の隆盛の一端は、戦後GHQが布いた3S政策(スポーツ・セックス・スクリーン)にあるという説もある。
要するに、野球・映画/テレビ・セックスの娯楽漬けにして日本人の思考能力を奪い、米国の経済植民地にしようという政策である。
しかし、それが一つのきっかけだったとしても、性産業をここまで大きくし、なお使うことをやめないのは日本人の男達なのだ。
倫理観を失って堕落し、女を買うことに何の疑問も持たない彼らが目覚めるのを待っている暇はない。
古今東西の解放運動がすべて当事者発であったように、フェミニズム運動においても女性が主導し、社会を変えてゆく努力が必要である。

その努力を、私も微力ながらしていきたいと思っている。
日本における女性への暴力と性搾取をなくすために何ができるか?
その第一歩はまず現実を知ることである。
売買春、性売買というものがいかに危険でセックスワーカーの心身に重大な影響をもたらすかを知る。
そうすればおのずと次の一歩を踏み出せるだろう。
現実を知り、行動(署名、デモ、啓発活動)する。
それが私達ができることである。

ただ、その過程で大きな反発も予想される。
なぜならば、性産業というのは非常に儲かる産業であり、巨大なマーケット(日本の風俗業の市場規模は3〜5兆円) を持つばかりか、犯罪組織が関与していることもあるからだ。
そのような巨大な敵を敵に回したくない議員達はだから、売春防止法というザル法だけ作って日本国内で行われる売買春を放置し、弱い立場に置かれた女性達が暴力に晒され、心身に大きな傷を負うのを黙って見ている。
であるから、性売買の廃絶のためには市井からの働きかけが重要であり、既に行動を起こして下さっている女性達もいる。
私達はそれに連帯し、更に大きな運動にしてゆくべきである。
私はそういった思いでこの記事を書いた。
もしこれを読んで問題意識を持ったり、共有したりしてくれる方がいれば幸いである。

最後に、海外の名もなきフェミニスト(おそらくはフェミニズムを学ぶ大学生) の印象的な言葉を貼っておく。(太字は筆者強調)

私は、「セックスは労働である」(セックスワークイズワーク) というこの新しい考え方が嫌いだ。なぜならもしセックスが労働で、合意を買うことができるのならば、レイプはただの望ましくない仕事、あるいは賃金不払いになるからだ。
もし人への性的アクセス権を買うことができるという考え方が一般的になれば、レイプの被害者には売春の相場の値段を払えば良いということになる。

もしセックスの根本的に私的な側面が無視され、セックスから人間らしさが切り離されて商品化されるならば、望まぬ性的接触のトラウマは透明化されてしまう。児童性虐待が放課後のタダ働き程度のものと見なされてしまうようになるのだ。
(実際そのように言う教授がいた)

売春はレイプの一種である」という論でレポートを書くつもりだったが、疲れていてうまく書けない。
しかしとにかく、セックスワークイズワーク論はあらゆる観点から見てめちゃくちゃだし、それが進歩的な考え方とされている事実にギロチンを作りたくなってくる。

#あと一つでも「セックスは労働である」という論文を読んだらショートしそう
#しかも午前4時

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