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トランプ銃撃にロケットランチャーが使われていたらどうなっていた?

 未だに衝撃冷めやらぬトランプ元大統領暗殺未遂事件だが、事件に関してこのような記事があった。

 もしトランプ暗殺にロケットランチャーが使われていたら、今回の暗殺は成功していたのではないかという指摘だ。筆者は軍事の門外漢なので偉そうなことは言えないのだが、この見解は間違っている可能性が高い。というのも、大変奇妙なことなのだが、武器の威力は強力になればなるほど犯罪で使うのが難しくなるからだ。

 日本の銃規制を見ていると、最も入手しやすい銃器は散弾銃である。ライフルは10年以上の所有実績がないと許可が降りず、極めてハードルが高くなっている。そして、ピストルはよほどの事情が無い限り所有は不可能であり、事実上の禁制品と考えて良い。モデルガンに関してもピストルは金色に塗装するなど厳しい扱いである。

 ところが銃器の威力は散弾銃>ライフル>ピストルとなる。散弾銃の中でもスラッグ弾と呼ばれる種類は非常に強力で、この弾丸を正面から食らって生き延びる人はいないだろう。ところがそのスラッグ弾は狩猟などで当たり前のように使われているのである。

 こうしたパラドックスの背景には、強力な武器ほど持ち運びが難しく、目立ってしまうというものがある。街中で小型のピストルを持ち歩いてもまずバレることはないが、散弾銃を持ち運んでいたらすぐに通報されてしまうだろう。

 映画等での表現とは裏腹に、暗殺にライフルが使用されることは少ない。多くは至近距離まで接近し、ピストルで撃つという方式である。伊藤博文も浜口雄幸もこうやって殺された。ライフルでの射撃は当てるのが難しい上に、銃の持ち運びが目立ってしまい、通報されてしまうリスクがあるのだ。

 実際、今回の事件でも犯人がライフル銃を担いで屋上に登る場面が通行人に目撃されており、すぐさま警察に連絡されている。警官は犯人を捕まえようとしたが、ライフル銃を突きつけられて後退りし、その合間に銃撃が行われたとのことだ。

 もしロケットランチャーが使われたとすれば、間違いなく逮捕されてしまっていただろう。あんな重いものを屋上に持っていくのは困難で、あまりにも目立ってしまう。武器が強力になるほど暗殺には使いにくいのである。米国において銃犯罪で使われる銃の多くはピストルだ。ライフル銃や散弾銃が使われることもあるが、明らかに取り回しが不便だ。今回使用されたAR15は、どちらかというと銃乱射事件のイメージの方が強い。暗殺事件の大半は至近距離からピストルで撃つか、包丁で刺すか、爆弾によって行われている。要人警護を行う時はロケットランチャーの襲撃を恐れるより、至近距離で刺殺されるリスクの方が恐れるべきなのだろう。

 それにしても要人警護というのは難しい。民主主義国においては政府首脳は政府の長である以前に政治家であり、一般の政治家と同様に遊説やあいさつ回りを行う必要があるからだ。要人の側もただでさえ忙しいのに、厳重な警護などやってられないというのが本音だろう。支持者の前で警備を見せつけるのを嫌がる人もいる。というわけで、要人を完全に警護するのは不可能であり、暗殺事件の発生をゼロにすることは極めて難しい。現実的に日本政府のキャパシティでできることは、皇室の暗殺を防ぐことくらいではないかと思われる。


 


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