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東京の国立小学校6校について徹底解説する

 最近は中学受験をスルーして小学校受験が流行のようで、どこまで加熱するのやらという感じだ。久しぶりに幼少期を思い出したので、国立付属小学校の受験について語りたいと思う。

 どの都道府県の国立大にもある学部が医学部と教育学部と言われる。これに対応して全ての都道府県には国立大学の付属小がある。東京都の場合は人口の多さを反映してか、国立付属小がなんと6校もある。筆者はこの中の一つの卒業生であり、6校全ての出身者に知人がいるので、いろいろと事情には詳しい。

 国立小は人気だが、特に都内の場合は私立小に比べて学費が安いこともあって、とんでもない高倍率の入試となる。名門私立小は敷居が高いが、国立小だったら受けてもいいという親が結構多いのだ。慶応幼稚舎と違っていちいち用具が高いということもないから、普通のサラリーマン家庭でも問題ない水準である。

 都内の六つの国立付属小は筑波大付属・お茶大付属・学芸大附属の4校舎(世田谷・小金井・竹早・大泉)である。都内には付属小を持っている国立大学が三つも存在し、それぞれ学校の先生の業界の中ではかなり強い力を持っている大学である。筑波大・お茶大・学芸大は日本の教育学部の御三家と言える。

 なぜこのような状況になったかというと、戦前の師範学校にまでさかのぼる。戦前の日本には全国の師範学校の総本山である東京高等師範学校と東京女子高等師範学校が存在した。戦前は別学なので前者は男子限定である。前者は筑波大学の、後者はお茶の水女子大学の教育学部へと発展した。この二つの高等師範学校とは別に東京府立のローカルな師範学校も存在し、こちらは東京第一師範学校~東京第三師範学校や府立女子師範学校などがあった。これらはまとめて東京学芸大学になった。学芸大附属の学校がたくさんあるのはこの名残だ。要するに、東京府の教育大が学芸大で、それとは別に全国区の教育大として男女それぞれ筑波大とお茶大が存在したということだ。ちなみに筆者の曽祖父母もこれらの師範学校の出身である。

筑波大付属

 まず筑波大付属だが、伝統的な格から最難関とされることが多い。試験は結構スパルタ要素があり、小学校受験ではザリガニを掴む等の試験がある。併設幼稚園が存在しないので、小学校受験組のみで構成される。朝から外遊びをするような同調圧力があるなど、体育会系である。筑波大付属はふるい落とし方式のかなり過酷な環境で、小学校から中学校に上がる時に下位二割は切り捨てられ、中学校から高校に上がる時も同様に下位二割が切り捨てられる。その代わりに外部から優秀な生徒が入ってくる仕組みだ。小学校組のうち、高校まで進学できるのは半分程度だ。

 筑波大付属は中学受験の偏差値が高く、麻布や駒東といった難関校に匹敵する。したがって筑波大付属は鉄緑会の指定校にもなっていて、きわめてレベルが高い。小学校受験組は指定校の対象外なので、試験を受けなければ入れない。ついでに言うと高校の偏差値も高く、筆者の時代は首都圏で4番目に難関だった。筑波大付属は併設小学校を持っている学校の中では最もレベルが高いと思う。

 筑波大付属の優秀層の多くは中学受験組だが、中には小学校上がりの「スーパー内部」の天才もおり、彼らはものすごく優秀である。東大理三などにもしばしば合格する。筑波大付属の出身者は本当に優秀だ。東大に入ってからも、予備試験に一発合格したり、某省で出世コースを爆走したりと本当に強い。特に女性に関してはトップクラスだと思う。吉野源三郎の「君たちはどう生きるか」の舞台は筑波大付属と言われるが、まさに戦前からのエリート学校なのだ。日本で最もエリート人材を輩出している学校は筑附と筑駒なのではないかと思う。小学校の著名な卒業生は鳩山一郎や野村萬斎など色々いる。

お茶大附属

 お茶大附属も伝統校であり、倍率は筑附よりも高い。女子に関しては特に最難関だろう。系列に附属幼稚園があるため、枠が狭いのも原因だろう。女子大附属ということもあって女子からの人気が高いことが特徴である。また、この学校は悠仁親王が進学したことで一躍有名となった。噂を聞くと、警備が厳しくなって大変らしい。

 お茶大附属は筑波のようなスパルタ的な要素はなく、かなり自由な感じだ。ただ、内部進学の選定は厳しく、成績が悪いと中学校に上がれないことがある。ここは結構シビアかもしれない。業界では有名な先生も多いが、指導の質は突き詰めれば人によるという感じだ。研究授業の度に地方から教員が視察に来る。

 お茶大付属の特徴として、高校のみが女子高ということがある。したがって男子は中学校までしか進学できない。このため、お茶大付属の男子は中学受験か高校受験が必須となる。大体半分くらいが中学受験をし、もう半分は附属中学校に上がる。悠仁親王は高校受験で筑附に進学した。また興味深いのは附属中は男女比が1:2のハーレム状態ということだ。このような男女比の学校は珍しい。なお、別学進学校モドキなので、普通の共学進学校のような「キラキラ感」はない。

 お茶大附属の中高はかなりの伝統校の割にそこまで中学受験と高校受験の偏差値が高くない。これほどのブランド力がありながら不思議だ。男子はともかく、女子もそうだ。大体上位中堅校くらいのレベルである。東大合格者はだいたい数人となる。お茶大のOG会の作ったいわばレプリカである桜蔭高校の方が実績は圧倒している。この辺りは筑附と筑駒の関係に近いかもしれない。

学芸大附属竹早

 学芸大附属は4校もあり、非常にややこしい。

 学芸大附属竹早は茗荷谷に位置し、筑波大付属・お茶大附属と距離が近い。この三校は茗荷谷の国立小学校御三家としてセットでくくられる時がある。

 学芸大附属竹早はお茶大附属と並んで倍率が高い。附属幼稚園の存在で枠が狭いことと、学区が23区のほとんどをカバーしていることにある。筑波やお茶を受ける家庭が併願しているケースも非常に多い。構造的に倍率が膨れ上がる構造になっている。また竹早の売りは100%が中学校に上がれることである。

 学芸大附属竹早小の場合は竹早中に100%内部進学することができる。これは世田谷や小金井にも共通である。学芸大系列の場合は激しい選抜が行われるのは高校受験だ。学芸大附属高校は一校であり、内部進学の枠を争って世田谷・小金井・竹早の間で熾烈な内部入試が行われる。高校進学枠の多くは中学受験組が取ってしまうので、小学校受験組が附属高校に進学するのは結構大変だ。ただし、最近は学芸大附属高校の偏差値がかなり下がっており、内部入試は小学校受験組にとって有利になっているかもしれない。

 著名な卒業生は柳原白蓮や永井荷風である。最近の人はあんまりいない。

学芸大附属世田谷

 学芸大附属世田谷は学芸大附属高校と同じ敷地にあり、伝統的に学芸大系列では一番偏差値が高いことが多かった。附属高校に進学する際にもある種の「ホーム」感覚である。学芸大附属高校では世田谷の出身者が権力が強いらしい。学区が非常に厳しく、小学校受験の倍率はそこまで高くない。

 中学校までは大体が進学できるが、高校受験がハードなのは学芸大系列に共通だ。小学校受験組の場合は特に内部進学できない人の方が多い。岡江久美子やプリンセスプリンセスの岸谷香はここの小中出身なのだが、高校に上がれなかったクチである。どうでもいいけど同級生のお母さんがこのどちらかと同級生だった。他にも福田康夫とか町村信孝のようなOBがいる。昔は学芸大附属世田谷はかなりの難関校だったので、小学校組と中学校組の学力差は激しかったと思われるが、詳しくは分からない。

 学芸大附属の偏差値はかなり特殊だ。中高一貫ではないため、中学校の偏差値はあまり高くなく、中堅上位校くらいだ。それに対して学芸大附属高校は非常に難関で、筆者の時代は開成と同じくらいだった。実際、2000年代まで学芸大附属高校は非常に進学実績が良く、東大に100人程度排出することも珍しくなかった。東大合格者ランキングではだいたい5位以内に食い込んでいた。しかし、2016年ごろから学芸大附属の偏差値は急降下し、最近は日比谷や翠嵐に敗北している。隔世の感である。ただ小学校組にとっては内部進学がしやすくなり、朗報かもしれない。

学芸大附属小金井

 小金井小の場合は東京学芸大学と同じ敷地である。ただし世田谷のような本流感は薄い。世田谷ほどではないが、こちらも学区が厳しく、倍率はそこまで高くない。
 
 学芸大系列の校風は筑波大付属ほどエリート色が強くなく、全体的に緩い。山尾志桜里や赤城紀彦のようなタイプは筑波大付属からは出ないだろうという感覚はある。これは伝統的に二番手校だったからなのかもしれない。

 川島芳子や加藤勝信はここの卒業生だ。脚本家の倉本聰は麻布のイメージだったが、小学校はここだったらしい。

学芸大附属大泉

 大泉小は学区がそこまで厳しくないので倍率は竹早に次いで高い。通学に40分以内という制約があるが、合格してから転入することが認められている。

 学芸大系列の中では例外的なのが大泉だ。大泉小も以前は他の三つと変わらなかったのだが、大泉中が中高一貫化したため、困った事態になった。この時代は何かと混乱があって大変だったようだ。大泉中は国際中等教育学校に改組される。現在は国際中教に進む人と世田谷・竹早・小金井の中学校に進学する人と分かれている。後者は学芸大附属高校への進学を目指すことになる。学芸大系列はとにかく人の出入りが激しいので、転校生的な雰囲気はない。

 一部で有名なボディビルダーのマッスル北村はここの出身である。附属高校まで進学して東大に合格しているのでいわゆる「スーパー内部の優秀層」に当たる。

どこに進学するべきか

 どこに進学するべきかは好みの問題だし、狙って入れるわけでもないので、難しい。お茶大附属の男子を除き、基本的には高校までの進学のルートが存在する。ただし、内部進学はそれなりに過酷だ。学芸大系列の場合、中学まではほとんどが上がるが、高校受験で一気にふるい落とされる。高校まで行けるのは少数だ。したがって外部受験を常に念頭に置いていく必要がある。筑波大付属の場合は高校まで残るのは半分ほどだ。学芸大附属と違って脱落式の感覚であるため、精神的にはきついかもしれない。お茶大附属は男子は高校がないため、男子は中学受験が盛んである。中学受験と高校受験で半々だろうか。女子は高校まで残れる可能性が一番高い学校だ。ただし、適宜肩たたきがある。

 これらの学校に通うメリットとデメリットに関しては別の記事で語りたいと思う。

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