Depressionの意味

 早速だが、英語のDepressionという単語の意味を調べると、2つの意味が出てくる

①鬱・絶望・落ち込み
②不況・恐慌

 ちょっと思ったのが、この2つは結構似ているのではないかという点だ。単に雰囲気が良くないというだけではなく、両者の本質には近い面があるのではないかというものである。

 不況はなぜ起こるのかという理由はあまりにも複雑で、現在でも完全には解明されていない。しかし、要因の一つはバブルである。景気が加熱し、人々が経済を過剰評価するとバブルは起こる。本来2000円の値打ちしか無いものを3000円の値打ちがあると勘違いして、お金持ちになった気分になってしまうのである。しばしばこの3000円を前提に別の経済取引に手を出していたりするので手に負えない。バブルが弾けると自分が持っていたと思っていた資産が実は紙切れであることがあからさまになってしまう。こうなると会社が倒産したり、債権が貸倒になってしまい、国中の富が縮小してしまう。

 不景気というのは相対的なものだ。成長国の場合は不景気であっても絶対的な成長率はプラスであることが多い。2010年代の韓国では若者の深刻な就職難が問題となっていたが、経済自体は2%の安定成長である。なぜ不景気感が生まれるかと言うと、それまでの韓国に5%とか10%といった途上国型の高度経済成長が続いていたからだ。5%成長を期待して人生や経営計画を設計していたのに、突然2%成長にまで下落した場合、社会に大きな損失感が生まれるだろう。あるはずだったはずの富と未来が失われた気分になるのである。これがDepressionだ。

 実は人間も同じことが言えないだろうか。不幸をもたらすのは絶対的なリターンや能力値の変化ではなく、期待値とリターンのギャップにあるのではないかということだ。例えば年収1000万の安定企業に勤めていた人がリストラで突如年収400万に転落した場合、損失感は大きいだろう。年収1000万円前提に家のローンを組んでいたり、子供を私立の学校に入れていたりする。職業的なアイデンティティだってある。それらが突如奪われたら陰鬱とするのは当たり前だ。一方最初から年収400万だった場合はここまでの損失を感じないはずだ。今まで同様に続くだけである。再雇用で年収が大幅に下がった人間であっても、リストラでそうなるよりもマシだ。だから会社は事前に定年制を告知して、あらかじめ年収が下落することを刷り込んでいくのである。

 期待値と現実のズレが不幸を生むとすれば、社会的に成功しているとされる人が、なぜか不満げだったりする理由も理解できる。大手企業に内定した人は都心のオフィスで規模感の大きい面白い仕事ができると勘違いしていることがあるが、現実はブルシットジョブや全国転勤で疲弊し続ける人生だったりする。難関に挑戦する人間は元々の期待感とモチベが高いことが多いため、ギャップが生まれやすいのかもしれない。これが精神的なDepressionだ。

 同様のことは結婚とか進学にも言える。絶対的な位置ではなく、期待値とのギャップが不満足を生むのである。江戸時代に60歳で死んだ人は長生きとして祝福されるが、現代日本では早死として憐れまれるだろう。やはり重要なのは期待値だ。人生50年と信じていたが、80歳まで生きていた人は儲けものと思うだろう。100歳まで生きるのが当たり前の時代で80歳で死んだ人はショックだろう。人類が豊かになっても幸福感が上がらないのは、一つは期待値もそれに連動して上昇するからなのだ。これは経済的にいくら豊かになっても不況が起こるのと似ている。

 不況は本質的に精神的な現象である。その点、Depressionという表現は実に的確だ。それは期待値と現実のギャップによって打ちのめされた人々の集合的現象なのだ。

 普段の記事で書いていることでもあるが、筆者は社会に出ることに関して期待感が大きすぎたため、Depressionに陥っている。思春期にあまりにも強烈な成功体験を味わってしまったため、この延長線上で人生も続くと勘違いしてしまったのだ。さながら落ちぶれた天才子役のようなものである。これといって成功体験の無い同級生は社会に特に期待せずに就職していったが、彼らのほうが遥かに仕事は充実している。

 というわけで、あんまり成功体験を噛み締めすぎたり、物事に期待感を持ちすぎるのは不幸の元だ。物事に期待しないほうが「成功」を実感することができるのかもしれない。


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