レモンイエローの魔力#梶井基次郎『檸檬』感想文

今回は私が1番好きな本の感想を書こうと思います。

1番好きな本なので、感想を書くのが少し怖いです。なので何度も書くかも知れません。うふふ。

1番好きな本、それは梶井基次郎の『檸檬』です。
高校2年生の現代文の授業で読んだ作品で、今も読んだ時のことを覚えています。
青空文庫で読めちゃいます。

ざっくりとあらすじです。

えたいの知れない不吉な塊に「私」は蝕まれていた。以前は丸善にあるような、舶来品やきらびやかなものに私の心は動かされていたが、その時はみすぼらしいものに惹かれていた。そんな中、「私」はとある八百屋で檸檬を手にする。「ーーつまりはこの重さなんだな。」檸檬を手にした私は、とある面白い考えを思いつく。そしてそれを実行したのち、今までとは少し違う足取りで、京極の街を下っていった。

何故この作品が1番好きなのか、理由を言語化するのがとても難しいのがこの物語の魅力です。
圧倒的感覚派。理論で語れないものがこの小説の中に詰まっています。
よくわからないけど、すごく惹きつけられるのです。そして、カーンと冴え渡ったレモンイエロー色の檸檬を、私も持ってみたくなる。
不思議な魔力を感じます。

何故この本が好きなのか、それを言葉にするのも烏滸がましい気がしてしまいますが、私なりに分析してみようと思います。

  1. えたいの知れない不吉な塊を吹き飛ばす瞬間の描写。

  2. 視覚、嗅覚、触覚を刺激する「檸檬」の存在。

1.えたいの知れない不吉な塊を吹き飛ばす瞬間の描写。

あの頃の私は、自分の感情を重苦しくさせていた丸善を、檸檬を爆弾に見立てて、爆破させるという「想像」で木っ端微塵にします。
ここでのポイントは、「想像」ということです。
他の誰でもなく、自分の想像で自らの憂鬱を吹き飛ばします。
とても呆気ないようですが、自分の経験として考えてみると、何となく分かるような気がしてきます。本当に些細なきっかけひとつで、苦しめられていたものからの解放。
何気なさすぎて、気付づかないかもしれないですが、誰しもが体験したことがあるのではないかと思います。
檸檬では、その変化を見事に描写していると感じます。
このようにして、何気ない心の解放を文章化することによって、読み手は自分の気持ちを客観的に見ることが出来ます。

そう、些細な想像で世界の見方ががらっと変わることだってあるのです。
そう思うと、ほんとちょっとだけ気が楽になるかもしれません。

2.視覚、嗅覚、触覚を刺激する「檸檬」の存在。

主人公である私は、「檸檬」の色・におい・重さに惹かれます。
言われてみれば、確かにレモン色って目が覚めるような、気持ちがふわっと軽くなるような、冴えた色をしてますよね。
においも爽やかで、重さも中身が詰まっている感じが心地よい。
不思議な話ですが、檸檬がこんなにしっくりくることになぜ今まで気づかなかったのか…。

ここにも、日常を変えるヒントがあると思っています。
煮詰まった時、憂鬱な時、主人公は檸檬を手にしたように、私たちも視覚・嗅覚・触覚を刺激してみるのがいいかもしれません。
「気分転換」って、必ずそれまでと視覚・嗅覚・触覚を変えているなと、よく考えてみると気付きます。


拙い分析でしたが、好きなポイントに共通しているのは、「新たに自分を客観視」できるという点です。
それまでの価値観を少しアップデートして、新たな考えを自分の中に取り込めます。
『檸檬』はそれが何気ない日常の中に隠れていることを私に気付かせてくれました。

そして何より、読んでいてて小気味が良い。
言葉の選び方なのか、焦点の当て方なのか…。私には分からないですが、先にも述べた通り、不思議な魔力があります。

何度読んでも、この魅力を言葉で説明しきれないのが悔しい限りです。

以上、感想文でした。

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