日航機と海保機との航空機事故(2024年1月2日)に関する疑問点

 管制圏でのATC未経験(したがって、ATCについてはものの本で読んだ限りの浅い知識しかない)の事業用操縦士(滑空機上級)が抱いた、素朴な疑問点の一部です。

海保機操縦士(機長+その他の操縦士)の誤解?

 タワーから海保機に対しては、「taxi to holding C5」(タクシーウェイC5の停止位置標識まで進め)という指示が出ていて、海保機から復唱されている。少なくとも、指示の聞き間違いはなさそう。
 そうすると、「taxi to holding C5」で、滑走路への進入が許可されたと解釈可能な余地があるのか。単なる誤解なのか。
 管制から「Hold short of runway」(停止位置標識を超えてはならない)という指示が出ることもあるようだが(ものの本を見る限りでは、少なくとも、常に出るわけではなさそう。)、この指示が出ないと、滑走路への進入が許可されたと解釈可能な余地があるのか。単なる誤解なのか。
 滑走路への進入が許可されたと解釈可能な余地があるのか、ないのかに関わらず、海保機操縦士は皆、同じように、滑走路への進入が許可されたと解釈したのか。一部の操縦士は違和感を感じなかったのか。

※1 航空法96条1項
 航空機は、航空交通管制区又は航空交通管制圏においては、国土交通大臣が安全かつ円滑な航空交通の確保を考慮して、離陸若しくは着陸の順序、時機若しくは方法又は飛行の方法について与える指示に従つて航行しなければならない。

海保機の見張りは?

 タワーの指示を海保機操縦士が滑走路への進入が許可されたと、(誤解かどうかはともかく)解釈したとして(航空法96条1項)、34Rの滑走路に進入中の機体があるかどうか、見張りをしなかったのか(航空法71条の2)。
 見張りをしたが、進入中の機体(日航機)を視認することができなかったのか。夜間飛行する航空機は、衝突防止灯(上、下)、航空灯(左舷、右舷)を点灯させているが(航空法64条、施行規則154条)、夜空をバックにしても、地上からその航空機を視認することはできないのか(極めて困難なのか)。

航空法71条の2
 航空機の操縦を行なつている者・・・は、航空機の航行中は、第九十六条第一項の規定による国土交通大臣の指示に従つている航行(注:管制の指示に従っている航行)であるとないとにかかわらず、当該航空機外の物件を視認できない気象状態の下にある場合を除き、他の航空機その他の物件と衝突しないように見張りをしなければならない。

日航機の見張りは?

 タワーから日航機に対して、「Clear to land RUNWAY 34R」(34Rの滑走路に着陸して良い)という着陸許可が出ていたが(航空法96条1項)、日航機は、34Rの滑走路に進入している他の航空機又は車両等の物件があるかどうか、見張りをしなかったのか(航空法71条の2)。
 見張りをしたが、日航機の操縦士の全員(機長+副操縦士)が滑走路に進入していた機体(海保機)を視認することができなかったのか。夜間飛行する航空機は、衝突防止等(上)、航空灯(尾灯を点灯させているが(航空法64条、施行規則154条)、滑走路上の飛行場灯火(滑走路中心線灯、接地帯灯等)の中に紛れて、視認することができなかったのか(極めて困難だった)。
 見張りをした結果、海保機を視認することができたが(できなかったと報道されているが)、管制の着陸許可があったので、衝突の危険はないと判断したのか。
 仮に海保機を視認することができたとして、日航機の操縦士は管制に対して、着陸のための最終進入を継続して良いか確認しようと考えなかったのか。 

航空法83条
 航空機は、他の航空機又は船舶との衝突を予防し、並びに空港等における航空機の離陸及び着陸の安全を確保するため、国土交通省令で定める進路、経路、速度その他の航行の方法に従い、航行しなければならない。・・・
施行規則189条1項6号
 離陸する他の航空機に続いて着陸しようとする場合には、その航空機が離陸して着陸帯の末端を通過する前に、着陸のために当該空港等の区域内に進入しないこと。

管制の見張りは?

 タワーは、日航機に対しては着陸許可を出し、海保機に対しては滑走路停止標識への移動を指示したようだが、その後、滑走路や進入経路上に期待があるかどうかを肉眼で確認することはしなかったのか。
 確認することをしようとしたが、滑走路上の飛行場灯火に紛れて、海保機が滑走路上に進入したことを視認することができなかったのか。
 画面上に滑走路上の機体が表示される滑走路占有監視支援機能が作動していたが、管制が当該機能を見落とした可能性がある旨の報道がなされているが。当該機能の確認や肉眼での確認はルーチン化されていなかったのか。 

<参考文献>
AIM-j 0-8~9、3-9~15(AIM-JAPAN編纂協会編、日本航空操縦士協会発行)
ATC入門 VFR編(縄田義直著、鳳文書林出版販売発行)
AIP JAPAN RJTT AD2-1

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