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エスコンフィールドから考える「16球団」

「WBCで優勝をしたはいいが
プロ野球は16球団じゃないから面白くない。
既得権益を何とかしてさっさと球団数を増やせ」
WBCの後もこうした批判は少なくなく、
それも雑誌編集者やライターに多いのか
ネットメディアの記事で
この主張をしばしば見かける。
「ファームの数を増やすぐらいなら
さっさと一軍にどんどん参入させろ」も
同様によく聞かれる。
今回はこの16球団について、
先日も取り上げた
エスコンフィールドのアクセスの点から
改めて考えてみよう。
 

プロ野球の一軍に求められるアクセス条件

前にも説明した通り、
プロ野球は
極端に多い試合数と観客数を集めることで成り立っている
特殊な、ある意味異様なスポーツリーグなので、
1試合の観客動員がもっと多い他のスポーツや
巨大スポーツイベントもあまり参考にできない。
参考にできるのは
MLBと今までのプロ野球ぐらいである。
 

MLB本拠地のアクセス

MLB本拠地球場のアクセスは
1試合あたりの動員数がかなり多いNFLよりも
はるかに良好なことが多く、
NBAやNHLのアリーナと比べて
敷地面積が非常に広く防音対策がしづらいにも関わらず
同じかそれ以上の好立地にあることも珍しくない。
基本的には
公共交通機関も充実している大都市に
作られていることが多く、
さらに道路事情もかなり充実している。
大都市の中でも
両者ともにかなり整備された地区が
本拠地球場候補地に選ばれるのか、
公共交通機関に加えて
遠くても半径1~1.6km以内に
片側三~四車線同士の立体交差が存在している球場が大半で、
そのハイウェイや幹線道路へも
複数の片側二車線以上の道路が接続できる。
球場の所有する駐車場が広くない
ダウンタウンにあるボールパークでも
この条件は変わっておらず、
周辺の道路が狭いのは
シカゴのWrigley Fieldぐらいだ。
バス以外の公共交通がほとんど整備されていない大都市や
1980年代以降進んだ
公共交通再整備の前に球場が作られたケース、
公共交通機関周辺の治安が悪すぎるケースなど
車、バス以外のアクセス手段がほぼない本拠地も
いくつかあるが、
こちらは例外なく
すぐ立体交差へ接続できる場所に作られている。
この点はマイナーリーグも変わらない。
特に
都市圏人口50万人以上の本拠地が半数程度しかない
AAにもなると
バス以外の公共交通がない都市ばかりで
1試合の平均観客動員数も5,000人未満なのだが、
そのAAの球場は
片側二車線以上の2本のハイウェイか幹線道路が
立体なり交差点なりで
ちょうど交差する場所に
作られていることが多いのである。
選手・スタッフのバス移動の利便性も
兼ねてのことだろうか。


NPB本拠地の道路

NPB本拠地のアクセスに関しては、
公共交通機関がかなり充実していることは
誰もが知っていると思う。
では道路事情はどうかというと、
12球団の本拠地のうち、
周囲に片側三車線以上の道路がないのは
他に所沢、甲子園、広島の3ヶ所だけ。
あとは
ファイターズの前本拠地札幌ドームも含め
必ず三車線以上の道路が一本以上ある。
もともと12球団の本拠地は
車での来場をあまり想定していないが、
ベルーナドームの駐車場は普通車830台、
マツダスタジアムは200台と多くなく、
甲子園にいたっては公式の駐車場自体が無い。
ベルーナドームの場合だと、
球場を出てしばらくは
交通量のあまり多くなさそうな場所を走れそうな箇所が
いくらかあることが救いだろうか。
  

エスコンフィールドのアクセスを検証する

エスコンフィールドの道路事情

エスコンフィールドの公式サイトを見ると
車でのアクセス面に奇妙な点がある。
地図上で見ると最も近いように思える
北広島ICとその周辺道路が出てこない。
実際、高速道路からの
距離と所要時間を調べてみても
最も近いインターは北広島なのだが、
推奨されているのは
その前後にある各IC、スマートインターチェンジなのだ。
またgoogleやルート検索サイトで推奨されている
旭川や帯広といった北東、東側からの
高速を早めに降りて国道を使うルートも載っておらず、
こちらもやや遠回りのルートが公式である。
これはどういうことだろうか。

考えられる理由は
渋滞する道路の数を抑えたいからだ。
エスコンフィールドの周辺は
国道も含めて片側三車線の道路がなく、
二車線も南東と南にしか通っていない。
線路があるため北の国道に抜ける道もない。
西側に片側一車線の道路が完成させて
ルート自体は一応確保したものの、
もう一つの東から北東側に抜けるルートは
周囲の施設などを見ると
もともと混雑の激しい幹線道路のようにも見えるので、
行き帰りともに使わせたくないということだろうか。
いずれにせよ
車でのアクセスはまだかなり厳しい状態と言える。
エスコンフィールドは
収容台数が日本にしては非常に多く、
車での来場も前提として
その利便性の良さもうたっていたはずで、
しかも努力を全く怠ったわけではなく
新たな道路を敷設したうえでこの状況
だから
より深刻とすら言えるだろう。

ちなみにこの距離と時間の話は、
もう一つ奇妙な事態を引き起こしている。
この北広島ICは
北広島市と札幌市の境界線から
わずか数百メートルのところにある。
そして
出口が唯一接続している国道を直進すると
そのまま札幌ドームの北側にたどり着く。
そのため
高速道路から札幌ドームへの距離と所要時間は
エスコンフィールドまでとほとんど変わらないのだ。
車、バスによる利便性の向上は
西側以外から高速道路を使わず訪れる場合に
限られることになる。

ところで
神宮外苑再開発や札幌オリンピック招致の
反対運動に賛同している人たちは、
エスコンフィールド建設や導線強化にも
反対しているはずである。
なにせ
球場への接続を強化するため
少なくとも約2kmにわたって森を切り開き、
木を伐採して道路を作った
のだから。
この道路だけでは需要には到底足りないので、
車線の拡張を求める声や
南西側の森などに道路を切り開く要望も高まることだろう。
もちろん反対するんだよね?
 

エスコンフィールドと公共交通

このように
現時点でのエスコンフィールドには
車・バス移動におけるメリットがほぼ無く、
新たな接続強化の余地も残されてはいるが
そこまで大きな余地ではない。
となれば強みを得るには
近隣への唯一の鉄道路線である
JRとの接続を強化するほかない。

接続そのものを強化するには
新駅建設を軌道に乗せることが最重要課題となる。
一方、開幕戦で指摘されていた
列車の本数の少なさについては、
試合当日(平日)の時刻表を見ると
通常の札幌方面への21時台が
6両編成の快速4本と3両編成の各駅停車1本、
22時台は快速4本、各停2本だったのが、
どちらも快速列車が3本ずつ増便されていて、
そのうち2本は始発便になっている。
この路線における
通勤ラッシュ時の1日最大本数は
快速5本、各停3本なので
既に限界を超える増便になっていると思われるが、
すでに対策は行われているようだ。

この点は一見しただけだと
札幌ドームのほうが弱いようにも思える。
札幌ドームから用いられる地下鉄東豊線は
4両編成にすぎず、
21時台では7本しか運行していない。
ただ
通勤ラッシュ時には
1時間に15本運行しているので
こちらも増便の余地がかなり残されており、
さらに最寄りの福住駅が始発である点が
大きな強みだったと考えられる。
これと対をなす例がベルーナドーム。
こちらも始発駅で、
西武狭山線が単線であることもあって
イベント時の増便本数は多くないものの
増便の際は
普段の西武狭山線4両編成ではなく
池袋直通の10両編成が使われるため、
1回あたりの輸送量の多さがポイントとなる。
またこちらはサッカーだが、
以前話題にした埼玉スタジアム
始発、6両編成による定員数の多さ、
ピーク時の本数の多さと
三拍子全てを兼ね備えている。
 
 

16球団候補地

16球団候補地の道路

16球団構想の候補地中、
道路交通の面で北広島に近いのが新潟。
やはり片側三車線以上の道路が近くになく、
すぐ北は鳥屋野潟で完全にふさがれ、
南と西は高速道路があるため
これを抜ける道がかなり限られている。
ビッグスワンスタジアムとほぼ共有とはいえ
駐車場の台数は北広島とほぼ同じで、
片側二車線の道路が北広島より多い点と
新潟亀田IC、新潟中央JCTが近い点を含めると、
高速道路を利用する車、バスのアクセスに関しては
北広島よりも少し良い。
高速道路も駐車場も有料である点に目をつぶればの話だが。
言うまでもなく最大の問題点は
他のアクセス手段が皆無なことで、
観客席の数はかなり立派でも
毎日リーグ戦を行う本拠地球場としては
最初のほうで書いた
AAレベルとほぼ同じである。

このほかに駐車場が悪くないのは松山になるが、
こちらも接続が良くない。
南の松山外環状道路は
高架と地上を合わせれば片側二車線になるものの
接続はここと北側のみだ。
北側は橋を過ぎるとすぐに片側一車線。
しかもこの2つの道路は
北と西で同じ国道に接続するため、
渋滞の緩和がかなり難しい作りになっている。
あとは
道路事情がまだ良くても
駐車場がしっかり整備されていない球場ばかりだ。

16球団候補地の公共交通アクセス

では次に
16球団候補とされる主な球場の
鉄道などバス以外の公共交通機関を
エスコンフィールドなどと比較してみよう。
対象は
勉強会などにも参加していた
新潟、静岡、松山、沖縄と
ファーム新球団募集にも応じていた宇都宮と熊本、
さらに地方の中では公共交通対策が優秀な倉敷と
最近オーナーの発言はやけに活発化している北九州の
8ヶ所である。
沖縄は現在進められている3両化完了後、
宇都宮はライトレール開通後の推定。
鉄道に詳しくはないので、
細かい定員数などは間違っているかもしれない。

16球団候補地公共交通アクセス

最も厳しいのは、
駅が目の前にある松山坊っちゃんスタジアムだ。
市坪駅は4両までしか乗降できないうえに
1駅先の松山へ向かう
1時間の本数は通勤ラッシュ時でもわずか2本。
この点は
松山から高松方面へ向かう列車も同じで、
多くても特急2本+普通1本しか通っていない。
さらに
西武狭山線の2駅だけが単線のベルーナドームと違って、
駅と駅の間が全て複線化されている箇所は
四国のJR全体でも
ほぼ瀬戸大橋周辺にしかなく、
愛媛県内には一ヶ所もない。
これでは
たとえ車両の所有数と本数を増やそうとしても使えない。
JR四国、もっと言えば
四国四県自体に全く余力がない状態
なのだ。
最大本数がわりと多い
静岡、那覇、宇都宮、熊本は
1本あたりの輸送力がネック。
車両編成も1両あたりの人員数もかなり少なく、
あれだけの大混雑を見せた
北広島駅を大きく下回っている。
北九州は輸送力だけなら
他の候補地よりまだましだが、
それでも通勤ラッシュ時の輸送力は
21時台の北広島すらもやや下回るし、
住宅街を歩くため
混雑や騒音などの問題も起きやすい。
この点、倉敷の場合は
本数、1本あたりの輸送力、
駅までの歩道の広さの面で
他の候補地域よりはかなり優秀な部類に入るが、
新球団候補地として注目されること自体が
ほとんどない。
 

「16球団」の現実

プロ野球には使いづらい「16球団」候補地

「16球団」候補地のアクセスは
はっきり言ってかなり悪い。
現在のエスコンフィールドのアクセスは
12球団の中で最も良くないと言っていいのだが、
「16球団」の候補にあげられるのは
開幕戦のエスコンフィールドと比べても
圧倒的に悪い球場しかないのである。
球場への長時間移動を苦にしないようなマニアや
多くても年1回ぐらいしか観戦に行かないか
TVやネットの中継しか見ない人なら
「この素晴らしい球場に早く新球団を」と
思うのかもしれないが、
現実に一軍の球団が
1年を通して試合をする
となると、
ただでさえ
人口が少なく集客が見込みづらい都市圏なのに
「アクセスの悪さ」を理由に
さらに集客が伸びない危険性が
極めて高い球場ばかりとなっている。

そして最大の問題は、
この問題点を解消する方法がほぼないこと

道路の拡張、新設や駐車場の拡張、
新駅の建設、駅の拡張や車両編成の増加、増便など
工夫や改修でどうにかなるような余地が
それぞれの球場周辺にもう残っていないのだ。
まだもう少し改善の余地が残っている
エスコンフィールドとは
この点でも大きな差があると言える。
 

早急に「16球団」を実現させようとするなら

それでも
外部の識者やライター、ファンが主張するような、
選手、スタッフ、資金の確保などは
全て「やればできる、後から何とかする」で
「16球団」創設を強引かつ急速に進めるのであれば、
アクセス面の改善で考えられる主な方法は二つ。

一つ目は
球団を創設する都市に新球場を建設すること。
現在の球場のアクセスが悪すぎるのなら、
最初の数年は
現在の球場を本拠地にするとしても、
その間に新球場を
アクセスが良いかこれから良くできる場所に
建ててしまえばいいというわけだ。
これに近いことを模索しているのが
新潟の日本海ドームシティプロジェクト。
JRの駅からせいぜい徒歩で1km以内におさめ、
なおかつ最低でも
片側三車線以上のバイパスと
片側二車線以上の道路の交差付近に
収容台数1万台以上の駐車場を持つ
新球場が作られるのが必須条件で、
正直なところハードルが高すぎるどころではないが
プロ野球の一軍本拠地を作るのであれば
どうしてもそれぐらいの条件になる。
JRを考慮に入れないなら
より大きな駐車場が必要だ。
他の地域も
公共交通がさほど機能し得ない四国と沖縄は
今書いたぐらいの道路・立地が最低条件となるし、
それ以外も輸送力の高いJRや私鉄を
フル活用できる立地が必須となる。

もう一つの方法は
早急な「16球団」論者がおそらく望んでいる
プロ野球の姿である。
それは
観客動員をはじめ収益のことは一切考えず
とにかく参入させる
ことだ。
たしかに「16球団」候補地は
そもそも都市圏人口が少なすぎるので
プロ野球の一軍本拠地に
本来必要な観客動員数を維持する地域としては
適していないのだが、
そういうことではない。
彼らは人口やアクセスなどをはじめ
「16球団」にとっての問題点を
「既得権益を守るための詭弁」としか見ないだろう。
たとえば
現在のプロ野球加盟料30億円が
各チームの年俸総額平均に近い数字なのに対して
先日説明会が行われた二軍新規参入において
提示された加盟料が数千万円ということは
既存12球団とファーム参入希望チームや独立リーグとでは
それだけの経営格差があるということなのだが、
そういった年俸や経営格差などもすべて無視し
リーグのチーム数をとにかく増やせというものである。
またこうした「16球団」強硬派には
「Jリーグ、サッカーを参考にしろ」
「加盟料は撤廃しろ」と主張する人は数多いが、
世界各国のサッカーでも広く導入されている
「クラブライセンスを導入しろ」と主張する人は
全く見ることがないので、
審査なども一切させないと思われる。
それだけの格差がある状態では
既存の12球団が多額どころではない資金・人員を提供し
12球団の経営が破綻するまで圧迫してでも
新規球団の維持に全力を尽くすか、
本田圭佑氏が言ったような
昇降格ありの開放型リーグに切り替えて
いつでも新規の昇格と既存球団の降格を可能にするか、
トーナメント方式の大会だけにして
昨年のサッカー天皇杯のような結果を可能にするか。
このへんの細かい点は
人によって分かれるだろうが、
外部の「16球団」強硬派の主張で一つ共通しているのは
「『将来の野球』のために
収益などは度外視してすぐにプロを名乗る球団数を増やせ。
何もかもすべて俺の言う通りにしろ」
ということである。


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