たった1日で人生が変わった日

「今、部長が事務所に来ているそうです。絶対土佐さん異動言われますよね?」

営業車にいる私の元に、同僚の原からラインの嵐が来る。

「可能性大ですね・・」

野次馬的な返事を返す。

今いる事務所は、歴浅メンバーで固められた体制である。店長も若くして出世した33歳、自身も多くの担当を抱えるプレイングマネジャー。次に3年目の土佐、昨年までは数字も伸び悩んでいたそうだが、ここ2ヶ月はやっと得意先にも信用され始めたのか一人前の成果が出せてきている。そして2年目の原、いかにも最近の若い子という感じで主張だけは一丁前だ。

そう、これを書いている私が一番の歴浅で、半年前に未経験入社。たった2ヶ月の同乗期間を経て、前任から大量の顧客を引き継ぐ。このメンバーの中で一番の数を持たされた。

そんな感じだから、この事務所の成績はあまり良くなく、何より私のサポートをすることが誰もできない状態だ。たまたま、大きなクレームもなくここまできたが、明らかに全く落ち着くときがないため、分からないことはわからないままの状態で毎日が過ぎて行き、みっちり研修を受けている、あと数ヶ月でデビューするであろう今年の新卒にすぐに抜かされるんだろうなと感じていた。

1ヶ月前に、情報パイプを持ちまくっている原が、うちの事務所に神戸から一人異動で来る人がいると騒ぎ立てた。

一人来るということは誰か出ていくということ。原は直前に引き継ぎを行なっており、私も引き継いでまだ3ヶ月終わったばかり、土佐が一番可能性があると誰もが感じていた。

会社に戻る、部長に軽く挨拶して仕事をしていたら、店長から部長が来ていて面談を順次しているので後でよろしくと言われ、面談室へ行った。

「どう、仕事慣れた?」

正直キャパオーバー過ぎて、慣れたなんて口が裂けても言えないが、後ろ向きなこというのもなーと思い適当に流した。

「君にやってもらいたいことがあるんだけど、異動して欲しいんだ。山ヶ丘店へ。通勤時間はさほど変わらないし、ベテランの人もいてフォローできる体制だ」

「いやぁ、山ヶ丘店の売り上げが落ちていて、そこで君にテコ入れとして行ってもらおうと思って。面接の時にも感じたんだが、根性もあるし、店長やそのほかの人の評価も高い、適任かと思い白羽の矢がたってしまったんだよ。やっと落ち着いて来たところで申し訳ないんだが」

マスクをしていてよかった。どんな表情をしていいのかわからない。

この私が?




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