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『エッセイのまち』の仲間で作る共同運営マガジン

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2020年9月の記事一覧

【エッセイ】乾杯

 乾杯、という言葉で思い出すことはなんだろうか。 私は高校の卒業前に学年主任の先生が歌ってくれた長渕剛さんの『乾杯』だ。  この秋、高校の同窓会が大々的に開かれるらしい。当時の生徒、担任の先生、当時の校長や関わってくれた先生方にも声をかけ、学年全体で集まるとのことだ。 こんな風に集まるのは成人式のとき以来である。 同窓会、それこそ二十歳のころは割と頻繁に耳にした気がする。 小学校卒業以来初めて会うクラスメイト。男の子は身長の伸び具合に驚いたし、女の子はメイクもしていて、もう

【エッセイ】 走る子ども

うちの息子は二人とも、中高でするスポーツは、ただ走るだけの、クロスカントリーを選んだ。上の子は、スポーツをするなら、それしかチョイスがなかったからだ。 小さい時から、私なみの運動神経を見せる上の子を、私は心配しながら見守っていた。それでも、幼稚園からサッカークラブにも入ったし、バスケットボールもしたことがある。どれも、私の目から見ると、もし自分だったら、ごめんごめん、と周りに謝ってばかりいただろうと思うようなさま、または、ザマだった。 彼がサッカー4年目の小学3年生の時、

娘の失恋

12歳 中一の娘が 人生で初めての 失恋をした。 17:20 車の助手席に重たいかばんと娘が乗った。 ぼすん。 「シートベルトしたね?」 「うん」 思春期のおでこの横に指を並べて 「わたし、フラれました!」 テスト100点だった! くらいの声高さで 娘は言った。 え! と同時に小さな顔が手で覆われた 隙間から 雫が次々流れて 落ちた 説明している まつ毛が濡れ 拭っても拭っても 溢れていく 半分戻った道で 笑い話に変えようとする 今日が一番悲しいえくぼだよ

『雨の慕情』を歌ったはなし

乾杯といえばビールで、ビールといえば父なのだった。商売をしていて落ち着かないし家族的一体感もない、義務感満載の陰気な食卓。浮かれる要素はひとつもなかった子ども時代ではあったけど、夢か幻かたまに両親の機嫌がいいと、わたしのコップにもビールがつがれた。 苦味さえがまんすれば飲めない代物ではないな、と子ども心に感じて注がれれば飲んでいた。ここだけの話にしてください。 商売がうまく回らなかったせいか、嫁姑のいさかいに疲れたのか、陰気な食卓に嫌気がさしたのか、はたまたその全部か、父