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人の温かさに心洗われる体験  小説『夏美のホタル』


夏にぴったりな良い小説が読みたいと思い見つけた『夏美のホタル』(森沢明夫、角川文庫)

良すぎたので感想を。。
これから読んで見たい人のため、そして、
これから先また読みたくなった自分のために
話の詳細な部分(ネタバレ)は書きません。


人が人を想う温かさに触れた時、自然に身を置く時、
そんなふうに、自分と自分の周りにある世界を隔てるものがなくなって通い合えたとき、進んでいくパワーをもらえるんだな。

大切なものや、いつまでたっても忘れられない悲しみをそっと心にしまいつつ、人や自然と共に生きていく喜びを「地蔵さん」は知っていて、その素晴らしさを慎吾、夏美と共に私まで味わわせてもらった。

大学生の慎吾と幼稚園教諭の夏美のカップルが偶然山道でトイレを借りるために立ち寄った山の小さな小店。そこで慎ましく暮らすヤスばあちゃんと地蔵さん親子のお話。

肩を寄せ合って暮らしてきたお二人が、日本の原風景ともいえる自然の残る山間で心優しい若者に出会えたことで、お二人の人生最後の時が輝いたのも素晴らしい出来事であったし、若い二人と家族愛といっても差し支えない愛情でつながるようになって、相手に向けられる優しさが次世代へ伝播していく素晴らしい過程に泣けてしまう。なんて素敵な奇跡なんだろうなって。人間って素晴らしいなと思わせてくれる。

慎吾がカメラで撮った風景の描写もとても好きで、自然と、寄り添って生きてきた人とが一枚に収まり、見ているだけであぁ素敵だと思える風景が目の前に浮かぶようだった。
人、自然、慈しみのこころ、滲み出る優しさを記憶できたのなら、写真も一種の芸術と呼べる所以がわかる。


夏に川や裏山を吹き抜けていく風、
清らかな川の水、夏の夜の風、ひぐらしの鳴き声、秋の山に広がる黄金の鱗雲

そんな自然に身を置いて、隣を見れば自分の大切な人がいる、そんな場面を私も彼を思い出して読んでしまった。

心洗われる、に残る小説。

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