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【翻訳】ファイナルテーブルディールの方法【ICM、MTT】GTOWブログ.52

ほとんどの人がインディペンデントチップモデル(ICM)に初めて触れる機会は、バブルプレイや終盤のレンジを研究する時ではなく、大きなトーナメントのファイナルテーブルを初めてプレイする時である。ディールが提案され、ICMについて初めて知るのはこの時である。ICMを理解することは、ファイナルテーブルのディールを行う際に特に重要であり、ここでミスを犯すと非常に大きな代償を払うことになる。


なぜファイナルテーブルでディールを行うのか

ICMがポーカーに導入されたのは、ファイナルテーブルのディールのためだった。1987年にMason-Harville方式として始まった。David Harvilleは1973年に競馬の予想モデルを作り、それをMason Malmuthがファイナルテーブルのディールに応用した。このモデルは、各プレイヤーが持っているチップの割合から、どの順位でフィニッシュする可能性が高いかを推定するものだった。各プレイヤーが1位になる可能性は、彼らが持っているチップの合計のパーセンテージであったが、他の全てのポジションは計算がもっと複雑であった。ICMが戦略的決断の指針として使われるようになったのは、近代ポーカー時代になってからである。

ファイナルテーブルでディールする事による優れた理由は沢山ある:

  • ファイナルテーブルを全くプレイせずに時間を節約することが出来る。

  • 特定の賞金額が保証される

  • トロフィー獲得を保証するため

  • 分散を減らすため

この最後の理由こそが、ほとんどの人がディールをする理由の核心部分である。

私たちは大きなトーナメントのファイナルテーブルに進出するとき、分散を減らすためにディールを行う。

ポーカーでは、ランナーが多いトーナメントのファイナルテーブルや、サテライトで出場権を獲得した場合など、滅多にないチャンスがある。次に5,000人以上のランナーがいるファイナルテーブルにいつ行けるかわからない。もし3位の賞金があなたのバンクロールを2倍にしたり、ステークスアップを可能にしたり、家を買ったり、あなたの人生をポジティブに変えたりするのであれば、あなたの現在のエクイティをいたずらに分散にさらす必要は無い。

賞金に満足しているのであれば、悪いディールなど存在しないが、ファイナルテーブルの取引の仕組みを理解すれば、自分の利益のために交渉しやすい立場に立つことができる。

チップチョップディール

チップチョップディールとは、単純に残りの賞金プールを使い、チップの割合に応じてプレイヤーに賞金を与えるものである。ご想像の通り、チップチョップディールは通常チップリーダーが提案するものだ。

このタイプのディールの例を見てみよう。以下の表は、5人のプレイヤーのファイナルテーブルにおける各チップ量、そして現在の順位を維持した場合の賞金額である

チップチョップには2つの方法があり、1つ目は文字通り、残りの賞金プールをチップスタックに応じてプレイヤー間で分配する方法である。

賞金プールは$23,300残っているので、この方法に分配すると次のようになる:

このディールですぐに問題になるのは、見ただけでわかりだろう。ボブは1位の賞金以上の賞金を獲得できただけでなく、ショートスタックのセルゲイは、ディールが行われなかった場合に獲得が保証されていた賞金の半分以下しか持ち帰ることができない。

このようなチップチョップは明らかに良くないので、一般的に行われるのは、チップのパーセンテージに基づいたチップチョップ取引だが、全員がミニマムの賞金を確保した後に行われる。つまりこの例では、全員が$2,300を持ち帰り、残りの賞金プール$11,800に基づいてディールを行うことになる。この方法のディールの結果は次のようになる:

表面的には、これはすべてのプレイヤーにとって有利な取引のように見える。ジェーンは2位の賞金をほとんど犠牲にすることなく賞金を獲得し、ボブは最大の打撃を受けながらも2位以上の賞金を獲得した。

ICMディール

ICMディールはチップチョップディールに代わるもので、ファイナルテーブルディールのスタンダードであるが、ICMには戦略としての限界があり、ファイナルテーブルでのディールにも限界がある:

  • ICMはスキルを考慮しない。ICMは全てのプレイヤーの能力が等しいと仮定している。

  • ICMはブラインドの増加を無視する。ブラインドが増えることが分かっている場合、特にショートスタックが絡むと、最適な戦略に影響を与える可能性がある。

  • ICMはテーブルの力学を考慮しない。例えば、アグレッシブなチップリーダーの隣に座ることは、プレーする上で悪夢となりうる。

ICMディールで考慮されるのは、ペイアウトと残りのプレイヤーのスタックだけである。

最初の例に戻って、代わりにICMのレンズを通して見てみよう。以下は全く同じファイナルテーブルだが、各スタックのICM値を示している。2つのディールの結果を比較できるように、前述のチップチョップディールによる値も加えてある:

チップリーダーがチップチョップディールを好む理由がわかるだろう。チップ2位のJaneもチップチョップディールの方が若干有利だ。この金額は3人のショートスタックからもたらされたもので、彼らはチップチョップディールでは全員が$200-$300損をしている。

ファイナルテーブルでのディールでICMに初めて遭遇したプレイヤーは、いつも2つのことに悩まされる:

ビッグスタックは常に多くのプレイヤーが思っているより価値が低く、ショートスタックは常に多くのプレイヤーが思っているより価値が高い。

ここで重要なのは、ICMディールではショートスタックが有利だということだ。これはICMの基本原則であり、持っているチップが少ないほど、それぞれのチップの価値は高くなる。この例では、1ビッグブラインドはショートスタックには$299.11の価値があるが、チップリーダーには$64.91の価値しかない。

これらの配当がおかしい、あるいは不公平だと思うのなら、さらに詳しく調べてみよう。以下は、このファイナルテーブルのICMモデルに基づく、ディールが成立しなかった場合の予想フィニッシュ分布である:

ボブは誰よりも多く優勝しているが、64%の確率で1位にはなれず、2位以上の賞金でチップチョップをするのは不公平だ。セルゲイは、ほとんどの場合次にバストしてしまうが、33.3%の確率で少なくとも$3,100の賞金を獲得している、そのため、彼は無茶苦茶なプレイする事を続けないよう、何か励みになるものを手に入れる必要がある。

チップチョップの恩恵を受けるのはビッグスタックだけであり、それは他の全員の犠牲の上に成り立っている。

ショートスタックはチップチョップより価値があり、チップチョップする場合より上位の賞金を獲得することが多い。チップチョップディールが意味を持つのは、最後の2人がヘッズアップの時だけである。ヘッズアップにはICMはないので、各プレイヤーに2位の賞金を渡し、残りの賞金をその時のスタックに応じて均等に切り分けることができる。

スキルディール

ファイナルテーブルに関するICMモデルの最大の欠点は、スキルが考慮されていないことだ。下手なプレイヤーを相手に同等のスキルを前提とした取引をしたいと思うプロはほとんどいないだろう。同様に、エリートプレイヤーもエッジを犠牲にしたくないだろう。ICMディールが機能するのは、エッジがかなり小さくなるようなファイナルテーブル、特に浅いスタックや速いストラクチャーの時である。二人の優秀なレギュラープレイヤーの差はごくわずかであるため、プレイヤー間に大きな格の差がない限り、ICMディールは分散に身をさらすよりはましである。

一人のプレーヤーが他のプレーヤーより輝いている場合、そのプレーヤーのエッジに基づいてファイナルテーブルの配当を交渉することができる。これは、エリートプレーヤーが残りの賞金プールからいくらかの金額を取った後、残りの金額に対してICMを基準とした分配を行うことになる。上の例で、チップリーダーのボブが他のプレイヤーよりエッジのあるプロプレイヤーだと仮定しよう。彼は自分のエッジを10%と見積もっている。彼が提案するのは、自分のスタックのICM値に対して10%のマークアップを取り、ファイナルテーブルにいる他の全員がICMに基づいて緩やかに交渉するというものだ。通常、そのようなペイアウトを確保するためには、他のビッグスタックが打撃を受けることになる。ショートスタックは拒否することで失うものが少ないからだ。

この種のディールは、科学的な部分もあれば、交渉的な部分もあり、芸術的な部分もある。このような取引は次のようなものだ:

1位入賞以上の賞金を獲得するケース

まれに、優秀なプレイヤーが、予想される優勝賞金以上の賞金を取るような交渉をすることがある。彼らはこのような条件を指示できるほどの優位性を持っているか、他のプレイヤーが次のバストを恐れて劣悪な条件に同意するかのどちらかである。2016年のWCOOPスーパーチューズデーでオンラインの野獣「€urop€an」が優勝したのがいい例だ。彼は圧倒的なチップリードを持ち、またオンライントーナメント史上最高のプレイヤーの一人と評価されている。

これは、取引が提案されたときの状況であり、潜在的なペイアウトはそのままであった(チップスタックは正確ではなく、イベント中に報告されたそれぞれの最後のものである):

しかし、€urop€anはこの交渉に成功した:

彼は公式の1位賞金より5,268ドル多い賞金を獲得した!XingMasterは3位の賞金より32,901ドル多く獲得したが、2位の賞金より24,283ドル少なかった。reno8は3位入賞よりも19,016ドル多く獲得した。もし、この対戦が同程度の実力だとしたら、€urop€anは10対1のチップリードにもかかわらず、$277,205のエクイティしか持っていなかったことになる。同じ実力だと仮定した場合、ICMによると彼らの順位はこのようになりそうだ:

そして、ここでは重要ではないエッジの問題がある。実際には、表面的にはひどい取引には見えない。XingsMasterとreno8は実質的に$57,184(2位と3位の賞金差)で擬似的なヘッズアップマッチをしており、€urop€anに$51,916を山分けする特権のために$5,268を支払っている。

€urop€anが82.1%の勝率しかないことに驚く人もいるだろうし、他の2人のプレイヤーがディールをしない価値があると主張する人もいるだろう。他の2人にとって問題なのは、2人とも90%の確率で勝てないということだ。

ディールを成立させるマインドセットの問題

数字だけでなく、選手が良い契約を拒否したり、ひどい契約を受け入れたりする原因となる考え方の問題がいくつかある。

まず第一に、賞金そのものによる固定効果がある。プレーヤーによっては、3位の賞金で個人的に何ができるか(新しい車、ステークスアップ、休暇など)に目を向け、その先を見ようとしないかもしれない。また、トーナメントでの自分の順位に注目し、その順位を維持した場合に獲得できる可能性のある賞金を手放したくないプレイヤーもいる。
ファイナルテーブルでの取引には、社会的なプレッシャーという要素もある。傲慢なプロプレイヤーにICMより500ドル多い賞金を渡したくないかもしれない。裏を返せば、他のプレイヤー唆されて悪い取引に応じてしまうのは簡単なことだ。この点に関して、あなた自身の考え方の問題がどこにあるかは感覚的にわかるだろうが、悪い取引に圧力をかけられないようにする最善の方法は、そもそもICMを理解することかもしれない。

社会的なプレッシャーが大きすぎる場合、社会的な汚名を着せられることなく、良い取引を迫ったり、悪い取引を断ったりする簡単なティップスは、他のプレイヤーに、あなたの条件を主張してきた後援者がいると言うことだ。

他のプレーヤーとのファイナルテーブルの仲間意識を楽しみながら、この架空の後援者を悪者にすることができる。

まとめ

たとえファイナルテーブルでのディールを促進しないサイトでプレイしていたとしても、それを研究するのは良い時間の使い方である。ファイナルテーブルのディールを研究し、自分のスタックの価値を理解することは、特にバブルファクターが関係する戦略的決断に役立つ。ファイナルテーブルディールのICMの意味を理解することは、あなたのキャリアの中でいつか遭遇するかもしれない、一生に一度のファイナルテーブルへの良い足がかりとなります。

キーポイント

ディールには多くの良い理由があり、分散を避けるということが第一の目的である。
チップチョップディールはビッグスタックに有利であるが、ショートスタックには不利である。
ICMディールではショートスタックの価値は一般に考えられているよりも高い。
ICMディールではビッグスタックの価値は低い
ICMディールは同等のスキルを前提としている
エッジディールは稀であり、それを考慮するにはスキルに大きな差があるはずである。

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