不死鳥が飛び立つとき

本日12月17日、三幸秀稔の湘南ベルマーレへの完全移籍が発表された。チームのキャプテンであり、屈指の人気選手だった彼の移籍を惜しむ声はSNS上で多くあがり、来期の巻き返しを図るチームにとっても大きな痛手となることは間違いなさそうだ。個人的には、今季のチーム状況や彼の年齢を考えると、「そうなるよなぁ」というのが正直なところ。むしろこれまでよく残ってくれたなと。特に昨オフなんかはJ1からのオファーがあったとかなかったとか。そんななかで4シーズンもレノファに居てくれたことに、1サポーターとしては本当に感謝しかない。

そして私は、彼のプレーを初めて見た時に大きな衝撃を受けたことを未だに覚えている。それをちょっとご紹介したいので、短いですが文章を書いてみることにした。――

○遅れてきたヒーロー

2015年、レノファはJ3リーグを優勝し、J2昇格を決めた。そのオフの契約更改では、岸田和人、福満隆貴、島屋八徳、鳥養祐矢といった強力攻撃陣に加え、庄司悦大、小池龍太、香川勇気、一森純といった主力選手の流出を防ぎ、前年度の戦力をほとんど保持した状態で初めてのJ2へと臨もうとしていた。しかし、一つ不安要素があるとすれば、小塚和季が抜けた穴だった。小塚は抜群のパスセンスを持つファンタジスタとしてレノファで活躍。2015年はボランチとして起用され、スルーパスやドリブルで「違い」を作ることができる選手だった。しかし2015年オフにレンタル元であり当時J1の新潟へ復帰することが決定。レノファは攻撃陣へのパスの供給元を1つ失った。

もちろん、クラブはボランチの補強に動いた。J1名古屋から期限付き移籍で望月嶺臣を獲得。J1からの加入は当時まだ珍しく、とてもわくわくしたのを覚えている。そしてチームは順調に戦力を整え、シーズンへ向かい動き出した。そんなときだった。2016年2月21日、三幸秀稔の加入が発表された。開幕戦のちょうど1週間前の出来事だった。

○不測の事態

J2リーグが開幕して1週間、開幕戦を引き分けたレノファは、第2節で北九州と対戦していた。前半、新戦力・望月のスルーパスに抜け出した岸田のゴールで先制。開幕戦の勢いそのままに、幸先の良いスタートを見せる。しかしここでアクシデントが起こる。望月が負傷し、前半42分に途中交代を余儀なくされた。結局この試合は何とか1点を守り切り、J2初勝利を挙げたものの、負傷交代した望月は次節以降スタメンを外れることとなった。J2初勝利の代償はレノファにとってあまりにも大きかった。

望月を欠いた第3節の町田戦、レノファはトップ下(セカンドトップ)の福満をボランチで起用。能力も高く、ボールを扱うのが上手い選手ではあるものの、彼本来の良さを発揮できるポジションではなく、今一つ物足りない感じがあった。試合も0‐2と完敗。続く横浜FC戦でも、同じく福満を起用するものの、J3で猛威を振るった攻撃力は影を潜め、0‐2で2試合連続の完封負け。「J2では通用しないのだろうか。」そんな声が上がりかけた第5節の松本山雅戦、ボランチのスタメンには三幸秀稔の名前があった。

○降り立った不死鳥

ピッチの中央には三幸が君臨していた。しかし当時、私は彼の事やプレースタイルについてはほとんど知らなかった。知っていたのは彼が開幕直前に加入したことと、レノファ加入前年は所属チームがなく、いわゆる「サッカー浪人」をしていたということくらいだ。

しかし、彼はそんな私に名刺代わりのプレーを見せてくれた。先制されるもオウンゴールで追いついた後の後半14分、ピッチ中央で相手キーパーからのボールをインターセプトすると、そのまま持ち上がる。右サイドにはフリーでパスを待つ選手がいた。多くの人がそこへパスを出し、サイドからの攻撃へ移ると思ったその時だった。三幸はゴール前のスペースへ浮き球のパスを送る。キーパーが飛び出して処理しようとするも、ボールにはバックスピンがかかり、絶妙なところで止まった。ここに走りこんだ岸田和人がキーパーを交わしてゴールへと流し込んだ。私にとってはこれ以上ない自己紹介だった。彼はこのたった1本のパスで、自らのプレーに意外性があり、「違い」を作ることができてゴールへ結びつくプレーができることを我々に証明して見せた。さらに勝ち越された後の後半アディショナルタイム、三幸は左サイド深くからクロスを供給。これを原口拓人が合わせて同点に追いつき、レノファは第2節以来の勝ち点を手に入れ、その勢いのまま、この後一時は3位まで順位を上げ、J2でちょっとした旋風を巻き起こすこととなった。そして三幸はいつもその中心に君臨していた。

○不死鳥が旅立つとき

その後三幸はレノファで4年間戦ってくれた。オフに大量の主力が抜けた16年や、あまり出場機会に恵まれなかった17年、そして最高のパフォーマンスを見せた18年オフにも残留を宣言。何度もチームを救ってくれた。

加入当初から抜群だった攻撃センスに加え、アンカーを経験したことなどにより、守備力が向上。ゴール前で身体を張る場面が増えた。何度も相手のチャンスの芽を摘んでくれた。同時に攻撃の起点だったこともあり、相手に厳しくマークされ、何度もファールを受けた。それでも味方へパスを送り続けた。そしてなにより、2シーズンキャプテンを務めあげてくれた。今季ホーム最終戦後のあいさつで言葉を詰まらせた姿は、多くのサポーターの心を動かしたのではないだろうか。

そんな彼が自らの挑戦のために山口を飛び立つ。私には、そんな彼を応援しない理由がない。

J1でも羽ばたき続けることを心の底から願っている。

三幸選手、ありがとうございました。


いつもサポートをしてくださる皆様、本当にありがとうございます。