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いつか、この恋を思い出して泣いてしまっても

水曜日、君が褒めてくれた髪を切った。

本当はもう会わなくなってから切ろうかなって思っていたけど、結局切った髪を見てほしくて予定を早めてしまった。

土曜日。待ち合わせにはわたしが後に着いた。
元恋人は目を丸くしていた。「髪切ったん。いいやん。」って言ってくれた。嬉しくなんてなりたくないのに、やっぱり嬉しかった。暑くてさ、なんて照れ隠しで返した。
歩いて居酒屋に向かう途中、もう何を話したのか覚えていない。今まではなんか、全てを覚えていようと思っていたのに、そんなことをしていたら本当に最後になっちゃいそうで、何も考えないようにしていた。
付き合う前の2回目のデートで行った沖縄料理の居酒屋に行った。1回目のデートのとき、元恋人が行きたいって言うから、じゃあ今度行こうかって適当に選んで行った店だったけど、お互いお気に入りの場所になっていた。今回は、わたしが行きたいって言ったから行くことになった。なんとなく新しい店には行きたくなかった。よく行く場所に、思い出の場所がまた一つ増えてしまうのがこわかった。「前に来たときは付き合ってなくて、次に来たときは別れてるなんて変な感じ。」って言ったら返事は返ってこなかった。
お互い一杯目はオリオンビールを飲んで、なんでこんなに美味しいんだろうねって笑った。最初、オリオンビールが好きって聞いたとき、この子とは気が合うなって思った。付き合ってるときは、同じものが好きで嬉しいなって思っていた。
前に来たときに、ジーマーミ豆腐を食べそびれたのを覚えていてくれて、ちゃんと注文してくれて嬉しかった。「島らっきょうって世界でいちばん美味しいかも。」って言ってるの聞いて、わたしが好きなものを好きになってくれたのが本当に嬉しくて、間違いないからって言ったら、ごめん世界一は言いすぎたかもって返してきて、この人のこういうテキトーなとこが好きで、でも嫌いだって思った。
「ママに今日飲みに行くって話したら、あんたたちは何がしたいん?って言われちゃった。」って
言ったら「みんなからしたら俺らって変な関係かもしれんけどさ、俺は変って思ってへんから。」って言われた。わたしも、誰がなんて言ったって二人がよかったらそれでいいんじゃないって思った。でも確かに、わたしたちは変な関係だ。
それからもたわいもない話をしていたら、ふと「あれ?ネイル変えた?」ってわたしのネイルに気づいてくれて、こういうところが好きなんだよなって思った。付き合う前の3回目のデートのとき、普段はバイトでネイルできないけどちょっと休みができたからネイルして行ったら、「今日はネイルしてるんやって思ってた。かわいい。」って言ってくれたのを思い出した。元恋人はいつもわたしの爪を褒めてくれた。
いつも大酒を飲むのに、珍しくお冷を頼んでいて、風邪気味だって言ってたし体調が心配になった。わたしもそんなに飲むつもりがなかったし、2杯でストップして、今飲んでるのが空いたら帰ろうってことになった。
帰りに最近できた駅前の広場で散歩して帰ろうよって言ったら、いいよって言うから散歩して帰った。本当はちょっと座ってお喋りしたかったけど、座りたくないなぁって言うから、座っちゃったら立ちたくなくなるしねぇって返した。
風邪薬買いたいって言うからドラストに寄って帰った。すぐ飲みたいから水買いたいって言ってたのにガチャガチャの自販機見たりなんかするから、ホームに降りたら乗り換えの電車が入ってくるところで、急いで水を買ってあげた。わたしも水、飲みたかったし。駅に着いたらすぐ薬を飲んで、にっが!!って顔を歪めていて、それすらもなんだか愛おしいなって思った。
次の日の朝モーニング行こうって話していたからとっととお風呂入って寝ちゃおうってなって、お風呂から上がったら、元恋人はいつもみたいにYouTubeを見て寝転んでいた。いつもみたいに換気扇の下に並んでタバコを吸って、途中だった動画を見て、もう見終わったから寝るよって言ったのに次の動画を見始めて、腰痛いから揉んでくれん?って言うからマッサージしてあげた。わたしのこともマッサージしてくれるって言うからしてもらった。なんかもう全てがいつも通りで、調子が狂った。マッサージおわり!って言ったのになかなか離れてくれなくて、そろそろ怒ろうと思ってたらふざけて上に乗ってきて、重たいよって言ったら、体重かけてないやんとか言って元恋人は離れようとしなかった。しまいには、わたしの髪や首筋を嗅ぎだした。もしかして君も、わたしの匂いを忘れたくないなって思ったの?なんて。
されるがままになっていたら、首筋にキスを落とされた。君はいつも勝手だ。
わたしの心は冷え切っていた。
どうせ誰でもいいんでしょって言ったら、そんなことないとかごにょごにょ言い出して、言い訳がましくなるからやめるわとか言って終わらせようとするから、言い訳でもなんでもすればって言った。ムカつくからお腹をテキトーに殴ったらみぞおちだったみたいですごく痛がられた。ついさっき、俺は痛がらないって言ってたのに。痛い痛いってうるさいから、「あたしのほうがもっと痛いよ!」って吐き捨てたら、ちょけて、心が?とか言ってくるからもう一発殴ってやろうかと思ったけど、なんか悔しくて「血が出なかっただけマシだと思いなよ。」って返した。
2本目のタバコに火をつけようとしたら、いつもみたいにえーって言われて、前まではそれが嬉しかったのに、なんかどうでもよくなって、タバコくらい吸わせてよって言ったら大人しく座って吸い終わるのを待っていた。
ベッドに寝転んでからもモヤモヤは消えなくて、毛布を顔まで被ったら元恋人の家の匂いがして嫌になった。でも、のけるのも嫌でずっと被っていたらバサっと毛布をのけられた。寝れないの?って聞いてきたからうなずいたら、じゃあお喋りでもする?って聞いてきて、またうなずいた。でもお互いに黙ったままで、もう寝るかーって言うから、お喋りしようって言ったら元恋人はおもむろに話し始めた。薬飲んだあとだから何を話したかは思い出せないけど、いつもはわたしがたくさん話すのに、珍しく元恋人がたくさん話してくれて、わたしは相槌をうつくらいだった。

日曜日。目が覚めたら6時前だった。トイレに行って戻ってきて、しばらく元恋人の寝顔をぼーっと見ていた。まつげ、また前みたいに切り揃えてるだろうなって見たら、長いままで嬉しかった。髪色も、まつげも、いやいや言いながらもわたしのお願い聞いてくれたね。ありがとうね。
もう顔も見飽きたし寝るかと思って寝転んだら、隣でごそごそ動くから鬱陶しいなってそっちを見たら「寝れないの?」って話しかけてきた。起きてるって思ってなくてびっくりした。寝顔見てたのばれてないかなってドキドキした。眠れないからタバコでも吸おうかなって思っていたのに、気づいたら眠っていて、愉快なアラームで目が覚めた。このアラームを聞くのは元恋人が朝からバイトのときだけだから、なんか変な感じがした。
着替えたりメイクしたりいろいろしていたら、家を出る頃には、なんだかんだ1時間経っていた。
日曜日にモーニングをしてるお店がなかなか見つからなくて、たくさん歩いた。もうすぐで着くってときになって、雨が降ってきたから喫茶店まで走って行った。わたしたち、なんだかいつも雨に降られている気がする。
いい感じの喫茶店で、もっと早く来たかったなって思った。でもなんか、また来られるような気もしていた。元恋人は目玉焼きとホットドックのセットを頼んで、わたしはシナモントーストとゆで卵のセットを頼んだ。いつもは二人ともアイスコーヒーなのに、元恋人は珍しくホットコーヒーを頼んだ。わたしがサラダを食べてる間に元恋人はもう全部食べ終わっていて、早食いは血糖値上がるよって言ったら、男がちまちま食べてんのキモいやんと言われた。まぁ、確かにそうかも。シナモントーストが超美味しかったから一切れあげたら、このシナモントースト食べてる人に血糖値の話されても説得力ないねって笑われた。
元恋人がお冷を飲んだとき、水滴がズボンに落ちて「ズボン濡れてるよ。」って言ってから、「(別れることになったのは)こういうとこだよね…」って言ったら、そうだねって言われた。元恋人は、いちいち細かいことを言われるのが嫌いだった。わたし、ズボンに水滴が落ちたら最悪!って思っちゃうから、心配して言っちゃうんだって、ちょっと言い訳したら、最悪のラインが低すぎるねんなって言われた。確かにそうかもって反省した。スルースキルもつけへんとって言われて、じゃあスルースキルがついたら、またわたしと付き合ってくれるの?って、馬鹿なことを考えてしまった。呆れてしまう。
また雨降り出す前に帰っちゃおうってなって、でもまだゆっくりしてたいからあと15分だけ居ることにした。帰り道、わたしと付き合ってて楽しかった?って聞いたら、「楽しかったこと、たくさんあったよ。でも…」って言葉を濁された。楽しいより、しんどいとか、つらいのほうが勝っちゃったんだねって悲しくなってたら、ちょうど雨が降ってきた。家まであとちょっとなのに、雨はどんどん強くなっていった。なんだか、空がわたしの代わりに泣いているみたいって思うと笑えてきて、開き直ってたくさん雨を浴びて帰った。
マンションのエントランスで「水も滴る良い女になっちゃった!」って言ったら、ほんまやねって笑われた。
びしょびしょになってしまったから、今朝脱いだままの部屋着に着替えた。元恋人は、前に使っていたギターを売るからってギターを磨いたり、弦を変えたりしていた。やることなくて暇で、もう荷物をまとめて帰ろうかと思っていたけど、昨日の夜「明日の昼は唐揚げ食べよう。」って言われて唐揚げの気分になっていたから、お昼を食べてから帰ろうってスマホをいじったり、ギターを綺麗にしている元恋人を見たりしていた。弦を張り替えるのを初めて見た。「前のライブで、弦切れちゃってさ。」って元恋人は話し始めた。ポケットにピック入れてたんやけど、そこに鍵とかも入れててステージに全部ばら撒いてさ、そしたらズボンもずれてパンツも見えちゃって、大盛り上がりしてさって元恋人は続けたけど、わたしの趣味はネトストだから、全部知っていた。でも初めて聞く話みたいに聞いた。最後に一回弾きたかったのか、チューニングを始めた。2弦と3弦のピッチがズレていたけど、また細かいことって言われるのが目に見えていたから黙っておいた。いろいろ弾いていたけど、元恋人のバンドの曲とTENDOUJIのBIGLOVEのリフしかわからなかった。BIGLOVEは、付き合って1ヶ月くらいのときに「最近この曲好きなんだよね。」って教えてくれた曲だった。英詞の曲は聴かないのに、日本語訳を見てたくさん聴いた。
もう思う存分弾いたのか、タバコ吸おうって言ってきたから一緒に吸った。向こうが先に吸い終わって、メルカリ出品用に写真を撮っていた。出品したらすぐにコメントがついたらしくて、すぐ売れるかもって言ってたら本当にすぐ売れた。こんなにすぐ売れるものなんだ。
ソファーに座っていて、ふと足の上に置いた腕を見るとびっくりするほど日焼けしていて、元恋人に見て!って見せたら「ありがとね。」って言われて、なんで?って聞いたら、俺が(日傘さすの)嫌がるからでしょ?って返ってきて、なんだ、気づいてたんだって思った。きっと気づいてなかっただろうなって思っていたから意外だったし、全部全部、見透かされてるみたいでこわくなった。
お昼は宣言通り、唐揚げを食べた。お店のオススメはムネ肉の唐揚げで、でもわたしはモモ肉が好きだからモモ肉にして、でもムネ肉も気になるって言ったら、俺ムネ肉にするわって言ってくれて一個ずつ交換することにした。モモ肉の唐揚げは当たり前に美味しいけど、ムネ肉の唐揚げも柔らかくて美味しかった。そりゃオススメするわって思った。
帰りに本屋と100均、業スーに寄った。本適当に見たいって言うからまず本屋に寄って、音楽関係の向かい側が手芸だったから編み物の本とかぱらぱら見ていたら、他のとこ見てきてもええねんでって言うから買おうか迷っていた本を探しに行った。見つけたけど、詩集だと思っていた本がエッセイで、なんかちょっとがっかりして買うのをやめた。元恋人が歩いているのが見えたから、後ろから「わっ!」って驚かしたら、そういうのやめてって怒られた。多分、こういうとこも嫌いなんだろうなって、自分でやってて落ち込んだ。でもわたし、こういうの好きなんだもん。元恋人もお目当ての本が見つからなかったみたいで、隣の100均に移動した。そういえば、初めて家に泊まった日、ピンクのマグカップと歯磨き立てとコースターを買ったなって思い出した。あのときはピンクで即決だったけど、今なら水色を選ぶなって思った。君が似合うって褒めてくれたから、いつからか水色が好きな色になっていた。そういえば、君の好きな色、知らないや。買ったものを袋に詰めている間、ずっといろんなことを思い出していたら、ぼーっとしてどうしたん?って聞かれたから眠たいだけだよって答えた。君とのことを思い出してたよなんて、口が裂けても言えない。
来たときには降っていた雨も、もう止んでいた。この前、業スーに来るのも最後かって言ったのに、全然最後じゃなくて笑ってしまった。もう、これが最後だ、とか考えるのやめようって思った。
家に着いてコーヒーをいれて、ゆっくりしようと思ったけど忘れちゃう前にと思って、置いてあった残りの荷物を全部まとめた。わたしがこの家にいた痕跡がどんどんなくなっていって、寂しかった。君も、空いた棚やスペースを見て寂しいなって思ってくれるかな。でも歯ブラシはわざと残しておいた。捨てるときに、ちょっとでもいいからわたしのことを思い出してほしかった。なんなら、寂しくてしばらく置きっぱなしにしておいてほしいな、なんて。
元恋人がギターを梱包しはじめて、また暇になったからテレビを見たりスマホをいじったりして過ごした。まだ時間、大丈夫?って聞くから、なんで?って返したら、駅まで送るついでに発送するからって言われた。駅まで送ってくれると思ってなかったから、ちょっと嬉しかった。
梱包されるギターを見て、新しいギターに変えたときのことを思い出した。次のギターに変えるまではゆうちゃんと一緒にいるよって言っていたのに、前のギターと一緒にわたしともさよならしてしまうんだって悲しくなった。このギターが新しい持ち主に大切にされるみたいに、わたしもいつか次の人に大切にされるのかなって思った。そういえば、新しいギターは水色だった。
不器用なりに段ボールを切ったり折ったりして、ギターはどんどん梱包されていった。ちょっと口出ししたかったけど、我慢して見届けた。途中で「もう限界!タバコ吸お!」って言うから一緒にタバコ休憩した。だいたい、相撲を見ながら梱包するからこんなに時間がかかるんだよって思ったけど、それも黙っておいた。いつもは見ない相撲を、今日はちょっと真面目に見た。ちっとも面白さはわからなかったけど、連勝を期待されていた人が一瞬で負けたときは、思わず大声を出してしまった。
梱包も相撲も終わったからもう帰ろうかな、と思ったら、ドキュメント72時間が始まった。お互い好きな番組だから、これ見たら帰ろうとか何も言わずにソファーに並んでテレビを見た。淡路島のサービスエリアの密着だった。お互いテレビに集中していたら腕が当たってしまって、お互い気まずくなったけど、あんた、昨日あんなことしておいて?ってちょっと笑ってしまった。トラックのドライバーさんが、奥さんと電話中に取材を受けていて、いつも4〜5時間電話するんだって話していた。あの人と結婚したから今の自分があるんだって話していて、本当に結婚っていいなって思ったから「こういうの見たら、結婚っていいなって思っちゃう。」って言ったら、ね。って返された。あのさ、わたし、同棲反対派だったし、別居婚がいいなって思ってたけど、君となら同棲も結婚もできるかなって、思ってたよ。
サービスエリアの観覧車が映って、元恋人が告白してくれたときのことを思い出した。ちょうど、てっぺんを過ぎたくらいだったと思う。緊張した?って聞いたら、そりゃしたよ〜って言うから笑ってしまった。わたしは閉所恐怖症なのが発覚して、正直それどころじゃなかったよねって言ったら、思わぬ吊り橋効果やったなって笑っていた。観覧車、もう二度と乗れないかもね。
番組も終わって、帰ろうかってなったけど天気予報だけ見たいって言うから、その間にキーケースから合鍵を外して、鞄から手紙を取り出した。「またこの家に戻ってこれますように」って鍵にこっそり願いを込めた。手紙は何日もかけて、スマホのメモに書き溜めておいたのを、金曜日の夜に清書した。あまりにも長くなったから短くしたはずなのに、便箋を5枚も使ってしまった。読んでくれるか不安だったけど、別に読まずに捨ててくれてもいいやと思った。花火大会のときに撮ったツーショット写真をデータで送るって言ったらいらないって言われたのがムカついたから、わざわざプリントアウトして同封しておいた。裏には日付と花火大会の名前を書いておいた。マメな子だったなって、覚えていてほしかったから。
今まで何回も手紙を書いていたけど、直接渡すのは2回目だから、なんか気恥ずかしかった。向こうも同じみたいで、ちょっと照れながら、ありがとうって受け取ってくれた。帰ってきたら読むねって、本当か嘘かわかんないけどそう言っていた。
「それと、ありがとうね。」って言って、合鍵を返した。なんか、全部終わっちゃったなって思った。
忘れ物はないと思うけど、あったら送ってねって言おうとしたら途中で遮られて、働いてる店まで取りに来てって言われた。絶対忘れ物はないと思うけど、店まで取りに行くだなんて絶対御免だ。
コンビニに寄るからいつもとは違う出口から駅に入った。そこはよく、堺筋線に乗るときに使った改札口だった。二人で電車に乗るのに使ったことはあるけど、お見送りは初めてだねって話した。なんか変な感じがして落ち着かなかった。
まぁまた連絡してよって言うから、用事があればねって返した。「まぁお互い、未来に向かって…」とか言い始めたから、そういうのやめてよねって遮った。君はもう別の人との未来を見ているのかもしれないけど、わたしはまだ、君との未来しか見えないんだよ。
電車の時間までまだあったけれど、これ以上いたって話すこともないし、と思って、じゃあまたって手を振った。振り返してくれていたのかな、もうそれすら覚えていない。切符を改札に通して、そこからずっと、後ろを振り返らないで歩いた。振り返ったら、まだ未練があるみたいに思われるかなって思って、もう私だって次に向かってるんだよって見せたくて、強がった。
もうそろそろ家に着いて手紙を読んでいるころかなって思って、乗り換え待ちをしているときに自分の手紙を読み返した。別に書かなくてもよかったかなって内容がいくつかあったけど、思ってたこと全部伝えたかったしな、とも思った。電車に乗ってしばらくしたらLINEが届いて、誰からかなと思ったら元恋人からだった。

短い間やったけどありがとね
また気楽に連絡してや
俺からもするかもやから
またね(ドラクエの絵文字)

わたしの手紙が、じゃあまたね!(aikoのskirtの最後の歌詞)で終わっているから、LINEもまたねで終わっているんだろう。手紙、ちゃんと読んでくれたのかな。LINEは既読をつけずに、非表示にした。既読をつけたら、なんだか終止符をうったみたいになりそうで嫌だった。
泣くつもりなんてなかったのに、駅に着いたときクリープハイプのおやすみ泣き声、さよなら歌姫がヘッドホンから流れて、ぽろぽろと涙が出てきた。この曲は歌姫とファンの関係を歌った曲だけど、歌姫のところを元恋人に置き換えてよく聴いていた。日傘のことに気がついていた君だから、あの日のわたしの泣き声にもきっと気づいていたんだろうな。

前にも書いたかもしれないけど、本当に、最高速度で駆け抜けた恋だった。後悔は山ほどある。でも、感謝もたくさんしている。心の底から出会えてよかったって思っている。馬鹿だから、いまだに運命だって信じている。
合わせていてくれていたのか、わたしが無意識に合わせていたのか、歩くスピードは同じだった。踏み出す足まで全く同じで、わたしたちが合わなかったら誰が合うわけ?って本気で思った。
黒柳徹子さんが、歩くスピードが合わなくて結婚するのをやめた人がいるって話していたのを思い出した。そのくらい、大事なことなんだって君は気づいていないよね。

君が、数打ちゃ当たる戦法でわたしにいいねをしなかったら、PK shampooを趣味タグに入れていなかったら、わたしたちは出会うことはなかった。だってインスタのフィルター使った写真をプロフィールに入れている人には絶対に自分からいいねしないし、喫煙者もお断りだったから。

わたしは、この縁を自分から切るつもりはさらさらないよ。地獄にだって、着いていってあげる。君といられたら、もうどこでもいいんだよ。
そのくらい、君のことが好きだった。今も。

わたしは、記憶に残るほどキョーレツな女の子じゃなかったって言ってたけど、そうじゃなかったとしても、一緒に過ごしたときのこと、ずっと覚えていてほしいな。
あの日、君はわたしのことをちゃんと愛してあげなきゃって話したけど、君の"ちゃんと"って、なんだったんだろうか。わたしは、もうすっかり君のことを愛してしまっているよ。

いつか、この恋を思い出して泣いてしまっても、気が済むまで泣くことにする。泣くことがなくなったら、わたしも前を向くことができるのかな。
君のことなんて忘れて、新しい人とお付き合いして、それでまた、運命を感じちゃったりするのかもね。前を向けるようになったらまた連絡するから、しばらく、連絡しないでおくね。さみしくなったら電話でもLINEでもしてきていいんだからね。次の日、始発に乗って会いに行ってあげる。
幸せになるから、幸せになって、なんて、今は到底思えないけど、いつかそう思える日が来るのかな。その日が来るまでは、まだ夢を見させてね。

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