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君とさようなら

君の声を忘れてしまった。
人は声から忘れてしまうって、本当だったんだ。
また会えるからと思って思い出さないようにしていた。こんなにすぐに忘れてしまうんだ。

タバコの銘柄を変えた。匂いが違うだけで、タバコを吸っていても君の些細なことを思い出さなくなった。匂いが記憶と紐づいているって、本当だったんだ。そういえば君の家から持って帰ってきた服からは、もう君の家の匂いがしなくなった。
こうやって、いろいろと忘れていくんだね。

2年ぶりくらいに、昼間に学校に通っていたころの友だちと会った。彼氏できたの?って聞かれたから、先月別れたよって話したら、ちょっと前にストーリー上がってなかった?って聞かれた。1ヶ月前って、ちょっと前くらいの感覚だよなって思った。
なんで人って、悪口で盛り上がりたくなるんだろうか。元恋人の嫌だったところを話したら、別れて正解だよって言われた。でもね、わたし、そんなところもひっくるめてあの人のこと好きだったんだって、言えなかった。まわりから見たら短い間だったろうし、そのぶん傷も浅く思えてしまうんだろうけど、わたしは案外と深く傷ついているみたいだ。君のことを、君の知らない人にわるくいわれたくないよ。君はすごく、素敵な人だよ。

元恋人のことは今でも大好きだけど、その気持ちは宝箱の奥にしまって、大切にしようと思う。たまに思い出して引っ張り出してきてしまうかもしれないけど、常に思い出すのはもうやめにする。はやく次の恋愛をして、もしも君をしきりに思い出してしまうのならそれもやめにしたらいいし、なんだ、君より素敵な人っているんだなって思えたらその人と一緒にいることにするよ。

秋になって、PK shampooの君の秘密になりたいがぴったり合う季節になった。夏が終わってしまう音が、風に揺れながらわたしを包む。君の秘密になりたい、世界中でただ、ひとり。君はわたしの秘密になって、きらきらと光っている。君の素敵なところはわたしだけが知っていたらいいや。空平線に向かい走っていく秋の風は、手紙のようなアルペジオを運ぶ。君の弾くギターは優しい音で好きだった。いつかまた、あの部屋で君のギターを聴ける日がくるといいな。

それまでは、さようなら。

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