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医療AIを上市するまで

こんにちは、エルピクセル取締役COOの福田です。
今回はAI画像診断支援ソフトウェアを自社で研究開発から薬事申請・上市まで行ってきた経験を踏まえ、製品として市場に出すまでにどういうことが必要なのかの概要をまとめました。


AI画像診断支援ソフトウェアを上市するために整えること

医療機器とは

医療機器の定義は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)で下記のように定められています。

人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等(再生医療等製品を除く。)であって、政令で定めるものをいう。

薬機法第2条より抜粋

ソフトウェア単体でも医療機器として扱われ、医療機器プログラム(SaMD; Software as a Medical Device)と呼ばれています。AI画像診断支援ソフトウェアもこの一種となります。

医療機器のクラス分類と許認可の種類

医療機器は人体へのリスクによって下記の4つのクラスで分けられています。
また、許認可の種類としては独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)に対する届出、第三者登録認証機関による認証(以下、第三者認証)と厚生労働大臣による承認(以下、承認)の3種類があります。

引用:https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/about-reviews/devices/0028.html
  • クラス1(一般医療機器)
    不具合が生じた場合でも、人体へのリスクが極めて低いと考えられるもの
    プログラム医療機器以外ではPMDAに対する届出が必要だが、プログラム医療機器については届出が不要

  • クラス2(管理医療機器)
    不具合が生じた場合でも、人体へのリスクが比較的低いと考えられるもの
    認証基準に適合する場合には、第三者認証を取得することができる、それ以外の場合には承認が必要

  • クラス3(高度管理医療機器)
    不具合が生じた場合、人体へのリスクが比較的高いと考えられるもの
    認証基準に適合する場合には、第三者認証を取得することができる、それ以外の場合には承認が必要

  • クラス4(高度管理医療機器)
    患者への侵襲度が高く、不具合が生じた場合、生命の危険に直結するおそれがあるもの、承認が必要

AI画像診断支援ソフトウェアの中で、病変候補位置の情報を示すだけの検出支援機能(Computer-Aided Detection; CADe)はクラス2、良悪性など質的診断に関する情報ま で提示する診断支援機能(Computer-Aided Diagnosis; CADx)はクラス3にそれぞれ分類されることが多いです。

適切な業許可の取得

医療機器を市場に出荷するためには、製造販売業の許可を取得する必要があります。
クラス1は第三種医療機器製造販売業、クラス2は第二種医療機器製造販売業、クラス3~4は第一種医療機器製造販売業の許可が必要です。
また、製造販売業には製造行為を含まないため、自ら製造する場合は製造業の許可も必要となります。
医療機器等製造販売業者は、製品の市場に対する最終責任、品質保証業務責任、安全管理業務責任に関する体制を整備する必要があります。このうちQMS(品質マネジメントシステム)の詳細については別の回で説明する予定です。

なお、エルピクセルでは自社でAI画像診断支援ソフトウェアの製造・製造販売・販売を行っていますので、「医療機器製造業」「第二種医療機器製造販売業」「医療機器販売業」の資格を有しています。

AI画像診断支援ソフトウェアの開発プロセス

製品企画(調査から製品仕様決定)

医療現場の課題は、研究機関での研究シーズ・医療現場に対するヒアリング・医療現場からの製品に関するフィードバックをもとに開発項目をストックしていきます。
コストを払ってまで解決したい課題か、作ろうとしている製品がその解決策になっているかを医療従事者の方へのヒアリングで確認しつつ、製品仕様を作成します。どのようなユースケースで主に使うことを想定しているのか、その場合の撮像条件はなにか、効能効果として何を謳いたいのかなどをもとにデータ収集要件や評価項目、薬事認可の戦略などを決めていきます。

製品開発(データ収集からソフトウェア開発)

AI開発においては使用するデータの質と量が性能を左右する重要な要素となりますが、AI画像診断支援ソフトウェア開発のハードルの一つにこのデータ収集があります。個人情報保護法など関係法令に準拠しつつ、各医療機関と個別に契約を締結する必要があります。
エルピクセルでは、数十の医療機関にご協力頂き数百万枚の学習データを収集できる体制を構築しています。1つの疾患をターゲットにする場合でも、正常な人の画像から軽度・重度の疾患を抱える人の画像まで多様な画像を網羅する必要があるため、クリニック~大学病院まで幅広い施設にご協力頂いています。

また、収集したデータには正解データとして、病変の位置や病変の種類などの情報(アノテーションと呼んでいます)を医療従事者の方に1枚1枚の画像につけて頂く必要があります。
エルピクセルの製品開発時には、アノテーションの基準を統一するためのガイドラインを策定し、トレーニングを受けた複数のアノテーターにアノテーションの実施をお願いすることで質とスピードを両立させています。

データの準備ができたらAIアルゴリズム開発を行います。評価結果の数値だけでは医療現場でどう受け止められるかわからないため、医師の方に都度現状の性能についてフィードバックを頂きながら開発を進めていきます。企画段階では定義しきれていなかった部分が開発を進めていくとわかることもあるので、仕様の修正も必要に応じて行いながらより良い製品を目指します。
AIエンジンが完成したら、周辺システムとの接続部分も含めて製品として実装・テストを行います。

薬事対応(試験実施から薬事申請/認証)

製品の開発が完了したら薬事的な許認可の申請にうつります。前述した通り、クラス2以上の医療機器の許認可の種類としては第三者認証と承認の2種類があります。
第三者認証の場合の審査期間は約2-3カ月であることが多く、承認の場合の審査機関は6-7カ月であることが多いです。
承認申請にあたっては、開発が完了したものを用いて効能効果を満たすことを証明する必要があり、そのための試験等を実施し、申請のための資料として整備します。どのような試験を行うのかについては、審査機関であるPMDAとの相談を積極的に利用しています。
無料の相談である全般相談、開発の初期段階で行う開発前相談、試験計画であるプロトコルを決めるプロトコル相談など検討段階によってさまざまな相談が可能です。固まったプロトコルに基づき無事基準を満たす結果が得られれば申請を行います。

さいごに

AI画像診断支援ソフトウェアの製品化には様々なハードルをのりこえる必要があります。
エルピクセルでは、自社で一貫して企画から販売まで行える体制を整え、複数のAI画像診断支援ソフトウェアを自社製品として上市しています。まだまだ小規模なスタートアップである小回りのよさを活かして、各ファンクションや医療現場が近い距離でディスカッションしながら、スピード感をもってよりよい製品の開発に努めています。

また、自社製品としてだけではなく、外部企業との協業によるAI画像診断支援ソフトウェアの開発も行っています。課題抽出の段階から上市まで一気通貫でのサポートも可能ですし、QMSを含む製造販売のための体制構築や薬事支援、アルゴリズム開発など1つのステップだけに特化したサポートを提供することも可能です。
医療AI業界へ参入を検討されている方は、是非一度弊社までお問い合わせください。

各ステップの詳細は別の記事で紹介する予定なので、是非フォローお願いします。

参考サイト

文:福田 明広