おすすめのポッドキャストについて

今回のノートでは大学生のころに早く知りたかったあれこれを紹介してみたいと思います。論文を調べたりする時のツールやポッドキャストについて書き始めたのですが、書き始めたらそれなりの分量になったので今回はポッドキャストのみを紹介したいと思います。記事の中ではオリジナルのサイトを掲載していますが、以下に紹介するポッドキャストはiTunesやSpotifyなどの音楽配信サービスで探すことが出来るので、気になった方はご自分が使っているポータルから探してみてください。Spotifyのアプリなどは、途中まで聞いたポッドキャストを続きから聞けるのでなかなか便利です。

まずはPhilosophy Bites。このポッドキャストはナイジェル・ウォーバートンとデイヴィッド・エドモンズの二人が哲学研究の最前線で活躍する人たちにインタビューをし、それを15分ほどに約めたものである。「哲学を齧る」というタイトルからもわかるように、聞き手がその哲学について「齧る」ことが出来るボリュームになっている。とはいえ内容は全然「齧り」だけではなく、深く掘り下げてその面白みを伝えてくれるもので、これを聞いた聞き手が深入りするための手がかりとなるものである。たいていは著者の近刊を主題に取り上げたものであるが、その分野について全く知らない人を念頭に置いたインタビューであるため、全体の見通しを与えてくれるものである。ぜひとも気になるエピソードを探して聞いてみてほしい。(筆者の一押しはアンソニー・ケニーの哲学史の回である。そのほかリチャード・ソラブジやテレンス・アーウィン、マリー・マッケイブ、アンギー・ホッブズなど、少し哲学に興味を持ち始めて調べるとよく名前を目にする方々の生の声が聴ける貴重な機会でもある。ただ、2023年に更新が止まっており、もとのポータルサイトのリンクが切れ始めたりしているようなので配信サイトからの検索をお勧めする。)
Philosophy Bites
Philosophy Bites : Anthony Kenny on his New History of Philosophy (libsyn.com)

次はピーター・アダムソンのHistory of Philosophy without any gaps。「いかなる隙間もない哲学史」を謳うが如く、哲学史で扱われる内容を「隙間なく」取り上げようとするものである。たいていの西洋哲学史は前ソクラテス、ソクラテス、プラトン、アリストテレスを扱うと、多少の程度差はあれ、いきなりデカルトまで飛んだりする。そういった風潮に異議を唱える意図をもって始まっているものである。ただ、彼のポッドキャストがインド哲学やアフリカ哲学、ひいては中国哲学にも及んでいるように、西洋哲学のみを取り上げる姿勢にも疑問を投げかけているのである。もちろん哲学研究上のムラというのは指摘できるかもしれないが、従来の哲学史でカバーされる内容の解説は落とすことなく、プラトンのクラテュロスを取り上げる回があるように現在哲学研究でホットなトピックを一つずつ押さえてくれていることがわかる。なぜこれを扱いあれは扱われないのかという主題も確かにあるかもしれないが、概要を紹介する回に付された文献案内を通してその時代と地域の理解を深めたい方はそこを手がかかりに深掘りすることが出来るであろう。哲学者の名前を冠した回の概説的な内容は聞きごたえがあり、確かな見通しを与えてくれるものである。それから六回に一回ほど挟まれる研究者との対談もその研究の最前線の様子を伝えてくれるもので啓発的である。いまやかなり膨大な量になっており、書籍化もされているが、ぜひとも気になる回から聞いてみてはいかがだろうか。「いかなる隙間もなき哲学史」にふさわしい、アリストテレス註解者についてのリチャード・ソラブジとの対談を紹介しておきたい。
99 - Richard Sorabji on the Commentators | History of Philosophy without any gaps

最後に紹介するのはBBCのIn Our Times。これはBBCの教養番組で、プロデューサーのメルヴィン・ブラッグが様々な主題を選んで製作チームとともに一週間のリサーチをもとに複数の出演者を招いて語る番組なのだが、出演者との絶妙な掛け合いと事前のリサーチが光る啓発的な教養番組である。招く出演者はイギリスでその分野を代表すると目される人々を選んで、メルヴィンが縦横無尽に質問を投げかけて出演者からの答えを引き出していくのだが、これは一週間のリサーチをもとにその主題について伝え得る唯一回の機会を逃さんとする、なんとも野心的な番組である。複数の研究者を呼んでいるのも、質問の受け答えを通して解釈が分かれる部分というのを聞き手に伝えようという意図もあるように思われる。こちらも教養番組にふさわしく、番組案内のなかに手堅い文献案内が付されている。最近ではアリストテレスの二コマコス倫理学について、古代哲学では常連のアンギー・ホッブズにケンブリッジ大学の英訳を担当したロジャー・クリスプとロンドン大学の教育の最前線で活躍するソフィア・コンネルを迎えてのものがあった。中世哲学のゲストにアンソニー・ケニーやジョン・ホールデンを迎えたり、解釈が一様にならないように番組を組み立てようとしていることがうかがえる。またこの番組は哲学だけでなく科学や歴史や宗教を扱い、テュキュディデスやプラトンの饗宴の回は必聴であろう。筆者のおすすめは、トマス・アクィナス、オッカムの剃刀、アリストテレス詩学についての回である。
In Our Time - Aristotle's Nicomachean Ethics - BBC Sounds

通勤や家事の時間を利用して哲学の勉強ができる、なんともいい時代だと思う。本記事が勉強の参考になれば幸いです。そのうち日本語でも、このくらいの内容で聞きやすい番組が出来ないものだろうかとひそかに願っています。

長くなりましたが、最後まで読んで下さってありがとうございます。次回、文献調べに活用できるツールをご紹介できればと思います。


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